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stage,08 第二話④

 ボスウルフは体がでかい分、動きは遅いようだ。シェルティはすでに呪文詠唱中。オレが時間を稼いで一発逆転を狙う。

 英雄剣を振るっている時よりも体が軽い。ボスウルフの攻撃も難なくかわせる。すきをついて攻撃をしかければ、大したダメージは与えられないものの、敵はオレを標的に定めたままだ。

 ほらみろ。やっぱりオレが自分で戦った方が楽じゃないか!


「ガウルさん! 発動します。退避を――」

「もう退避済みだぜ、シェルティ、ドンとやってやれ!」

「は、はい! いきますっ――〈スラッシュ・カーラント〉!」


 シェルティの長杖から放たれた水の刃は、ボスウルフの体を激しく斬り裂いた。そして、ボスウルフは力なく横たわる。

 なんとスマートな勝利だろうか。最初からこうしておけばよかったぜ……


「へっ! 楽勝、楽勝!」

「ダメよ、ガウル! 反撃がくるわ、早く逃げて!」

「え……」


 アスカの焦った声が響いた瞬間、横たわったままのボスウルフの体から爆発するように熱風がはじけ、オレの体を吹き飛ばす。


「どわっ、熱っ!」


 やはりあまり深刻なほど痛くはないが、オレは地面に倒された。

 慌ててボスウルフの方に目をやると、ボスウルフはシェルティの方を向いている。


「マズい! シェルティがっ!」

「――〈アトラクト・ラプソディ〉!」


 オレの声と同時に響くアスカの声。アスカの体が赤く光って、ボスウルフはそちらを向く。

 アスカの奴、シェルティを守るために自分でおとりになる気か!?


「おいっ! お前は攻撃手段も防御手段もないだろ!」

「だけどこうでもしなきゃ、シェルティがっ――」


 オレに反論しようとしたアスカに向けて、ボスウルフは口から火の玉を吐き出した。

 まさか火を吹けるとは思っていなかったオレとアスカが目を丸める。が、直後にアスカの足元に火の玉が着弾して、その爆風が彼女の体を吹き倒す。


「きゃあっ! ビックリしたぁ。コントローラーの振動、強すぎでしょ。感電したのかと思ったわ……」

「バカッ! 早く逃げろっ!」


 悲鳴をあげて地面に倒れると、のんきに何かボヤいていたアスカ。もうボスウルフはすぐそこまで迫っている。オレは駆けだすが距離が遠すぎる。このままだとアスカが殺される!

 迫る現実――アスカが死ぬ? 死ぬとどうなるんだ? 確か、さっきのセーブポイントで復活できると言っていた。じゃあ、死なないのか?

 でも、取り残されたオレ達はどうなる? アスカがいなければオレは英雄剣を使えない。〈ラプソディ〉も使えないだろう。それでシェルティを守り抜けるのか? オレだけならともかくシェルティを死なせるわけには……


 いや、そうじゃない。昨日、アスカに初めて会った時に、オレはアスカになんて言った?

 オレを死なせる気で戦わせることもできるだろ?――そう言ってアスカを軽蔑けいべつしたんだ。なのに、今オレはアスカを死なせてもいいように考えていた。死んでもどうせ復活できるんだろって。

 だけど、そんな保障はどこにもないじゃないか。アスカだって死んだらそこで終わりかもしれないってのに、オレはなんて馬鹿なことを考えてたんだ!


「くっそぉっ! オレはアスカをっ――」


 叫んで手を伸ばしても、すでにボスウルフはアスカを咬み砕こうと大口おおぐちを開けている。

 間に合わない――と察すると、アスカと出会ってから今までの出来事できごと走馬灯そうまとうのように思い返された。たった二日間なのに、崖から落ちたり水魔法の巻き添えを受けて、ボールのように吹っ飛ばされたり……正直、思い出したくないけれど。

 って、あれ? 待てよ。なんでアスカはオレが崖から落ちた時も、水魔法で吹っ飛ばされた時も平気だったんだ? オレのすぐ隣にいたはずなのに、アスカだけがいつも難をのがれている。

 幽霊みたいに実体がないから? だけど、今はボスウルフに襲われている。つまり実体があるってことだ。あの時と今は何かが違うからか……?


「――そういうことかっ! こっちだ! アスカーッ!!」


 そう叫んで、オレは一かばちか英雄剣を引き抜いた。あの時と違うのは、オレが英雄剣を抜いているかいなか!

 すると、アスカはオレの隣に瞬間移動してきた。


「えっ! 何っ!?」


 状況がつかめずにアタフタしているアスカ。それは咬みつき攻撃を空振りしたボスウルフも同じだった。


「やっぱり。オレが英雄剣を抜いている間は、アスカはオレの隣に移動して全てのダメージを受けないのか!」


 そして、多分、敵からも見えなくなっているはず。それは確認しようがないが。


「そうだったのね……。助かったわ、ありがとう。ガウル!」

「アスカ……、ごめん。でも話はあとだ!」


 謝る前に今はボスウルフをどうにかするのが先決せんけつだ。策はある。絶対三人で勝つんだ!


「シェルティ! もっと強い魔法を頼む!」

「は、はいっ! 頑張ります!」

「アスカはもう一度オレに〈ラプソディ〉を!」


 オレの指示にアスカは目を丸くした。


「ちょっと待って! ガウルの残りHPじゃ、あいつの攻撃に耐えきれないわ!」


 さっきのウルフとの戦闘でのダメージが残っていたオレの体力は確かに限界が近い。でも、今はシェルティを守らないと勝ち目は薄い。


「いいから早く! シェルティが狙われちまうだろ!」

「もうっ――〈アトラクト・ラプソディ〉!」


 アスカの掛け声とともに、今度はオレの体が赤く光ってボスウルフはこっちを向いた。

 ボスウルフの口から炎が漏れている。また火の玉を吐き出すつもりだろう。


「ちょっとガウル! マズいわよ、あれに当たったら!」

「わかってる――〈ヒロイック・ガード〉!」

「あ、それ!」


 アスカがポンと手を打った瞬間、オレの体は炎に包まれた。


「……って、あっちぃぃっ!」


 それは、真夏の日差しに熱せられた石畳いしだたみの上に裸足はだしで立つような……

 ウソつきっ! 熱くないんじゃないの――って、()()するだけだったか。カッコつけたのに、これはマズいかも……


「ヤバい……意識が……」

「――〈ヒーリング・エール〉! ガウル、私がついてるわ! あきらめないでっ!」

「ありがとう! だけど、今それ使われても、焼き加減がレアからミディアムになるだけかも……」


 アスカの回復スキルによって意識は戻った! でもだから、熱いっ熱いっ!

 ガードの効果が切れる頃には炎も収まっていた。どうやら耐え抜いたようだ。そして、同時にシェルティの声が届く。


「いきます! これは避けなくても大丈夫です!」

「よっし! ナイスタイミングだっ、シェルティ!」


 シェルティが長杖を天高く掲げると、そこへ渦巻うずまく水が集まって空へき上がる。


「――〈マリン・サモニング〉!」


 〈サモニング〉――多分、召喚魔法のことだ。召喚士が使う召喚魔法は初めて見るが、四大元素魔法をべる最高位の魔法だ。これで一気にかたがつくはず!

 上空に噴き上がった水は、線を引きながらうねり動いて、やがて二重の円の中に六芒ろくぼうの星を描きあげた。


「あれが魔法陣ってやつ? 水で描くなんてすごいド派手な演出だわ」

「ああ、何が出てくるんだ?」


 内心、ワクワクしながら見上げていると、魔法陣の中から()()()()()()()()がボトボトと大量に降り始めた。


「な、なんだ? あ――」


『あれ?』と言いきる前に、オレの顔にべちょりと貼りつく黒くて小さいモノ。それはブニブニブヨブヨした芋虫のようで、ねっとりと濡れている……


「なんだこれ……。キモーい」

「ナマコね、それ」

「ナマコですよ、それ」


 偶然にもアスカとシェルティの声が重なる。村にはいなかったけど、図鑑で見たことがあるからオレだって知っている。これは()()()だ。


「いや、そうじゃないだろ! なんでこんなモノが降ってきてるんだ!?」

「召喚したからですよ。言いませんでした? わたくし、学校で海洋部門を専攻していましたので、召喚できるのは海洋生物なんです」


 部門ってそういうことなのか……じゃなくて!


「そうでもないだろっ! なんでこんなモノを召喚したんだよ! こんなのでボスウルフを倒せるわけがないだろ!」


 見れば、ボスウルフは倒されるどころか、大量に降ってきたナマコをパクパク食べていた。


「むしろ、おいしくお召し上がりになられてらっしゃいますがっ!?」

「モンスターが食べたくなる匂いをつけてますから。でも、このナマコちゃん達は食べられると麻痺毒まひどくを出します」

「え……」


 シェルティは優しく微笑んでいるが、直後、ボスウルフはキャインキャインと悲鳴をあげて倒れる。体のわりにかわいらしい悲鳴だ。なんだか不憫ふびんでならない。


「さらに爆発します」


 こもった鈍い音がボンッと響いて、口から煙を吐き出しながら完全に気絶するボスウルフ。

 なんという無慈悲むじひ。というか、召喚魔法って思ってたのとなんかちがぁーう……


「さあ、ガウルさん。トドメ刺しちゃってください。相手はモンスターです、情け容赦ようしゃなくやっちゃいましょう!」

「お、おう……」


 なぜだろう。終始しゅうし、天使のように微笑んだままのシェルティが悪魔にしか見えない。ともかく、街の人のためにもボスウルフは倒さねば。


「〈ヒロイック・スラッシュ〉!」


 真っ二つに斬られたボスウルフは黒い霧となって消滅した。外しっぱなしの〈スラッシュ〉も、さすがに気絶した相手には当たったけど、罪悪感はいなめない。


「やりましたね、ガウルさん。わたくし、足手まといになっていませんでしたか?」

「いや、勝てたのはほとんどシェルティのおかげなんだ。ありがとな」

「えへへ。そうですか? でも、ガウルさんは休んでてください。樵夫さんの様子はわたくしがてきますから」


 はにかんだシェルティは、そう言って倒れた樵夫の方へ走っていった。一方、オレはというと、その場に腰を落とす。


「はぁ……。なんとか勝てた」

「よかったわね。〈ヒロイック・ガード〉も使い方によっては使えるのね」


 アスカは何事もなかったかのように話している。怒っていないのだろうか?


「アスカ、さっきは悪かったな」

「何が?」

「調子に乗って勝手なことして迷惑かけただろ? 危険な目にもわせちまったし……」

「でも、ガウルが機転をかせて私のこと助けてくれたじゃない。何、気にしちゃってんのよ。ホントに面白いわね、ガウルって」


 と、アスカは笑う。うつわが大きいのかどうなのか、本当に気にしてないのだろうか。ビクビクしてたオレが恥ずかしい。


「〈ヒロイック・ガード〉もアスカの回復がなきゃ持ちこたえなれないし、お互いに協力しろってことなんだな」

「だから、何を今さら。元々ガウルは私に協力してくれてるじゃないの」

「アスカ……」


 アスカはオレのことを信じてくれてるのだろうか? いや、それがオレの勘違いだとしても、これからはオレの方からもう少しアスカのことを信じてみよう。まずはそれが始めの一歩なんだろう。この旅も英雄になるのも、まだまだこれからなんだから。


「――ところで、さっきはなんて言いかけたの?」

「言いかけた? オレが、何を?」

「私が食べられそうになった時よ。『くそ、オレはアスカを』って叫ばなかった?」

「…………」


 はて? なんて言おうとしたんだっけ。


「私を何? その続きは?」

「すまん。忘れた」

「はぁ? 気になるから教えなさいよ!」

「だから、忘れたんだよ! そもそもそんなこと言ったか?」

「言ったわよっ!」


 オレがアスカと口論していると、離れた場所から声が聞こえる。


「ガウルさん、誰と話されてるのでしょう……」

「俺より彼を看てあげた方がいいんじゃないか? あいつ、ヤバそうだぞ……」


 声の主はシェルティと目を覚ました樵夫。二人はオレに冷ややかな視線を浴びせている。


「わーわー! これは違うんです、なんでもないんですっ!」


 オレの叫びはむなしく山にこだましていた……。





 ――サンブセロンの街に樵夫を連れ帰り、オレとシェルティは少しばかりの礼金をもらい、多くの感謝を受け取った。最初はなんだか押しつけがましく感じたけれど、感謝されるのは悪くない気がした。

 アスカは依頼達成でもらえた経験値でレベルが上がったとかなんとか、いつもの調子で騒いでいたがオレに実感は一切いっさいないので困る。

 そして、日暮れも迫っていたので宿屋に一泊し、翌朝を迎えた。


「おはようございます。ガウルさん。もう出発なさるのですか?」

「ああ、王都まではまだまだ遠いからな」

「ガウルさんも王都に向かわれるんです?」

「そういえば、シェルティも王都で王様に会うって言ってたっけ。オレも目的は同じだぞ」

「でしたら、王都までご一緒させてください。やっぱり異国ということもあって、一人だと色々と大変で……」


 少し照れくさそうにしているシェルティ。オレは彼女を横目に、一応アスカに尋ねる。


「……アスカ、オレは仲間にしてもいいと思うけど、どうするんだ?」

「私も賛成。なんかこの子、一人だと危なっかしそうだし、最初のボスを一緒に倒した仲だしね!」


 アスカも充分、一人だと危なっかしいと思うけど。言わない方がよさそう……


「じゃあ、決まりだ。シェルティ、これからもよろしくな!」

「はい! こちらこそ、ガウルさん!」


 ――こうしてオレ達は、『自滅』と書いて『ドジ』と読む召喚士・シェルティを仲間に加え、一路いちろ、王都を目指す!


「――あれ?」

「ん、どうしたんだ? アスカ。後ろなんか振り向いて」

「いや、この街に着く前に会った、あの騎士が後ろにいたような?」

「あの騎士って、王国聖騎士団オルダー・ブランの?」


 言われてからオレも後ろを見渡すが、朝市に出かける人達が見えるだけで、それらしい姿は見て取れない。


「いないじゃんか。見間違いじゃないのか? ま、あんな目立つ鎧の大男なんて、見間違えるほどそうそういないだろうけど」

「ガウル。跡をつけられてたりして」

「なんで騎士がオレをつけるんだよ」

「実は騎士のフリした暗殺者……なんちゃって」


 楽しそうに物騒なことを言うアスカ。なんか怖くなってきたぞ……


「バ、バカヤロ。人間が人間の英雄の命を狙ってどうするんだよ」

「人間に化けた魔族とか……?」

「うっ……」


 やめてくれ、夜に寝られなくなるからやめてくれぇっ!

 アスカの奴、絶対オレの反応を楽しんでやがるな。でも、人間に化けられる魔族もいるって、おとぎ話には出てきてたような……?

 うおおぉ、なんかもうやだ! 村に帰りたいっ!


「――すっごい蒼褪あおざめてるけど、そこまでおどかすつもりはなかったのよ」

「もう遅いわ!」


 アスカの笑えないギャグにオレが涙目になっていると、前からシェルティの声が響く。


「ガウルさん? 何してるんですかぁ?」

「ん、ああ、今行く!」


 あの騎士が後ろにいたってのもアスカのギャグなんだろうが、オレは逃げるようにサンブセロンの街をあとにした。




 ――新しい技と新しい仲間を加え、王都を目指す旅はまだまだ続く。

 これ以上、困難は御免被ごめんこうむりたいが、まだこの時のオレの耳には、後ろから迫る()()()()は聞こえていなかったのだ……

第二話 犬も歩けば棒に当たる Clear!

 

 第三話 きじも鳴かずば撃たれまい

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