stage,06 第二話②
――山の麓にある『サンブセロン』という街にたどり着いた。
さすがにオレの村よりは家も人も多いけど、のどかな街並みが広がっている。薪や材木を積み上げた工場らしき施設が多く見られるから、樵夫が多いのだろうか。
「一応、王都へ続く街道沿いの街だけど、魔法使いがいそうな都会でもないな。とりあえず、まずは何すればいいんだ?」
「困ってる人を見かけたら助けてあげるのが基本よ」
「困ってる人か。ちょうど人が集まってなんか騒いでるけど、いかにもオレが出て行けって空気だな」
少し前方、樵夫らしき男が数人集まっている。遠目に見ても何か焦っている、そんな感じが見て取れた。
「明らかにイベント開始のフラグね、行ってみましょ!」
「イベントって催し物じゃあるまいし、不謹慎だろ……」
なんか楽しそうなアスカに文句を言いつつ、オレは樵夫達の元に歩み寄る。
「すみません、何かあったんですか?」
「ん? 旅人か。実は最近、近くの山に大きなモンスターが住み着いて困っていたんだが、今朝方、山に入った仲間の樵夫が行方不明になっちまって、その話を聞いた女の子がその樵夫を助けるために一人で山に入っちまったんだ」
「女の子が一人で? 行方不明の樵夫の娘か何かか?」
「いや、あなたと同じく旅人だったな。『魔法使い』のような服を着ていたし」
「……魔法使いって……」
魔法使いを仲間にしようかと話してたら魔法使いに出会えそうな、なんという渡りに舟な展開。アスカが仕組んだことなのか? まあ、神様っぽい力があるんだからそれも可能ではあるんだろうが……
「助けに行きたいのだが、我々、ただの樵夫がしゃしゃり出たところで、なんの役にも立てなそうだし……」
樵夫達の視線がオレに集まる。まるでオレに行けと言わんばかりに。
困ったオレはアスカの顔を見るが、アスカまで彼らと同じ目でオレを見つめている。
「オ……オレが、助けに行きましょうか……?」
強迫に屈したオレが棒読みでつぶやくと、樵夫達の表情は一気に明るくなった。
「すまない。助かった! 女の子が向かったのは、行方不明の樵夫が最後の見かけられた山の中腹の社だ。あなたもまずはそこに向かってみるといい」
「ご丁寧に……。次の目的地を教えてくれてありがとうございます……」
まるでオレが引き受けることが、あらかじめ決まってたかのようなこの展開はなんだ?
とりあえず、山の中腹を目指しながらオレはアスカに言う。
「そもそも仲間の樵夫がいなくなったのに、自分達では何もせず、初対面の旅人のオレに全て任せようとするこの街の奴らって何なんだ?」
「まず自分達でどうにかしようよっていうのは、あるあるな展開よね」
「よくあるのか、こんなこと……」
村の外って怖い。街って怖い。
オレ、やっぱり村を出たのは間違いだったかも。
「でも、こういう時こそ選ばれた英雄の出番じゃない!」
「今、すっごい強引に丸め込もうとしてるだろ、お前……」
厄介事引受人・ガウル。ここに誕生!
……英雄の定義を知りたい……
――そんなこんなで山の中腹にある小さな社にたどり着いたが、辺りに人影はない。
「ここから先はどうするんだ? なんか手がかりはないのか?」
道は二手に分かれている。知らない山の中を適当に歩き回るのは危険なんだが。
「ねぇ、雨降った?」
「雨? 最近は全然。って、なんで急に雨の話?」
「あっち、道がぬかるんでるわよ?」
と指されたのは右手に続く道。土がむき出しの山道が濡れている。水たまりができるほどではないが、明らかに不自然だ。
「そうか、『水魔法』か!」
何もないところから水を生み出し、激しい水流で敵を攻撃したり、氷や水蒸気も操る。攻撃だけじゃなくて飲み水を出すこともできる、そんな魔法が水魔法だ。
「誰かがここで水魔法を使って戦ったってことは、十中八九魔法使いらしき女の子に間違いないだろうな」
「少なくとも女の子はこっちってことね。行ってみましょう!」
こうしてオレ達は右側の道へと進む。
しばらく歩けば、尾根沿いにまっすぐ長く続く坂道の下にたどり着いた。しかし、疲れた。村では剣を守ってただけだし、歩き回るのは正直キツい。
「山道だから当然だけど、いつまで続くんだ。上り坂……」
「ん? なんか坂の上の方から聞こえない? ゴゴゴって……」
「は?」
耳を澄ませば、確かに地鳴りのような音がどんどん近付いてきていた。そう、それは村にあった大きな滝の水が滝壺に落ちる時の音のような……
さっきの水魔法の跡、そして、この音。嫌な予感……
「ガウル、上から水っ、水! 激流が迫ってきてるわっ!!」
「なな、何故ぇえぇっ!?」
と叫びつつ、オレは近くにあった一番太い木によじ登る。アスカはというと、オレの側にふよふよと浮かび上がった。
浮かべるの!? やっぱ幽霊じゃんっ!――とか、色々頭の中を駆け巡るが、今はつっこんでる場合じゃないっ!
なんとかかんとか、太めの枝まで登り切ったオレの足をかすめるように激流は過ぎ去っていった。
「な……んだったんだ……?」
山道がいきなり大雨で増水した川みたいになるとは――今のも魔法?
「ガウル! あそこ、女の子が倒れてるわ!」
宙に浮かんだままのアスカが地面を指差す。
見れば、水流が去ったあとの地面に置き去りにされたように、ずぶ濡れの女の子が倒れている。
「いや……あれ、どう見ても……」
お亡くなりになってる気がしてならないが、木から飛び降りたオレは恐る恐る女の子に近付いてみる。
透き通った水色の髪をツインテールに結んで、白いリボンをつけている。藍色の生地に金の刺繍が入った立派なローブを着た小柄の女の子だ。丈が長すぎて手も足も隠れるほどブカブカなのは、元々そういうデザインのローブなのだろうか。
とりあえず、女の子の肌がとっても白いのは……、あまり触れたくない。
「女の子とは聞いてたけど、小学生か中学生じゃない?」
「ショウ? チュウ……学生?」
「知らないの? 十二歳前後ってこと。身長だって一五〇センチもなさそうだし……」
「センチはわかるぞ。センチメートル、長さだろ?」
「なんでそっちはわかるのよっ! この世界もメートル法なの!? 意味わかんない!」
意味わかんないと言われる意味がわかんない。メートルはメートルだろ。
ちなみにオレの身長は一七五センチ。って、そんなこと考えてる場合じゃない。
「こんな子供が、こんな無惨に……。だから、このゲームの対象年齢いくつよっ! 生々しすぎるでしょ!」
またなんか文句言ってる。
ほらぁ、女の子も起き上がって目を丸くして驚いてるじゃないかぁ――って、
「ぎゃああっ!」
女の子が生き返ってオレが驚き叫ぶと、アスカも同じく「嫌あぁっ!」と叫び、オレ達は互いに抱きしめ合った。
「って、ドサクサ紛れに抱き付かないでよっ!」
「ごぶっ」
そっちだって抱き付いてきたのに、なんでオレの顔面をグーで殴る……
「あ、あの……。どちら様ですか……?」
女の子が怯えた様子でオレを見ていた。
しまった。この子からはアスカが見えないから、オレは一人で変態ダンスしてる変質者にしか見えてなかったのか。
「あ、いや……。サンブセロンの人達から頼まれたんだ。行方不明の樵夫と女の子を探してきてくれって。女の子ってキミのことだろ?」
「えっ、あ、はい。ごめんなさい、なんだかご迷惑をおかけしてしまったみたいですね……」
ずぶ濡れだけど思ったより元気そうだ。色白な肌も元々そうだったのか。
「一体、何があったんだ? さっきの水は……?」
「わたくしの魔法です。坂の上からモンスターが襲ってきたので、慌てて魔法を使ったら全部わたくしの方に流れてきてしまって……」
坂の下から上に向かって水をぶっ放したら、そりゃそうなるだろうな。大丈夫なのか、この子。
「テンプレな天然キャラが出てきたわね……」
「天ぷらな天然?」
「ガウル。あんた、対抗して天然ボケなアピールしなくていいわよ……」
「してねぇよ! 誰が天然ボケだ!」
「て、天然ボケじゃないんです! さっきはわたくし、慌てていて……」
アスカに言ったオレの言葉に女の子が激しく反応した。あまりにも必死すぎるから、普段から天然ボケって言われてるに違いない。
「それに、自分が使った魔法で生み出した水は自分自身に害はないんですよ。溺れることもありませんし!」
「へぇ、そうなのか。便利だな」
なるほど。ということは、自分の魔法の炎も熱くなさそうだな。村にはまともに魔法を使える奴がいなかったし、本を読むだけじゃわからないことも多そうだ。
「ただ、流される時にいろんなところに体をぶつけて、体中痛くて、気も失っちゃいましたけど……」
「思いっきり害があるじゃねぇかっ! 下手したら死んでるわ、それ!」
さっきのってやっぱり豪快な自滅だったのか。
女の子は苦笑しながら立ち上がり、ペコリとお辞儀する。
「ともかく、ご心配とご迷惑をおかけしました。わたくし、シエ・ルティ・ラミス・アレヴァトレと申します」
「ご、ご丁寧にどうも。オレはガウルだ。ガウル・フェッセラース。こいつは――」
アスカの方を見て思わず紹介しそうになって、オレは慌てて口をつぐんだ。アスカはいつもそばにいるから、どうしても相手から見えていないということを忘れがちだ。
女の子は不思議そうに首をかしげている。マズいマズい。話題を変えよう。
「えっと。でも、シエって名前の雰囲気からして外国人か?」
王国ではあまり聞かない名前にオレが尋ね返すと、女の子は微笑む。
「はい。王国の西側にあるセイオヴェスト首長国からきました。ラミスまでが名前なんですけど、長いのでどうぞ気軽に『シェルティ』と呼んでください」
「ラミスはどこいった……」
「ラミスはどこよ……」
オレとアスカの声がハモる。アスカと考えが一致するのは珍しいな。
「でも、首長国といえば海外の島国だろ。そんな遠くから一人できたのか?」
「はい。王国で王様が魔族と戦う戦士を募集してると聞いたので、わたくしも協力いたしたいと思いまして」
「子供なのに一人旅は危険すぎるだろ?」
なんか口調はやたら落ち着いてて大人びてるけど、立ち姿はどうみても十代前半の少女だ。
あれだけ盛大な水魔法を使えるなら、かなり腕のいい魔法使いだろうけど、海外の一人旅は無謀な気がする。
「子供じゃありません! 確かに王国では二十歳で成人でしょうけど、首長国では十八歳で成人なんです!」
「え、それってつまり……? キミ、十八歳なのか?」
「はい。今年で十八歳になりました」
無垢な笑顔で答えるシェルティ。オレとアスカは顔を見合わせる。
十八歳とは、さすがに見えない幼女っぷり!
「……今、チビだって思ったでしょう……」
「お、思ってねぇよ。歳のわりには大人びてるとは思ったけど」
「やっぱり子供扱いしてるじゃないですかっ!」
天然ボケ、子供扱い、チビはシェルティのトラウマか。わかりやすい反応をする子だ。
オレがシェルティの反応に困ってると、アスカがコソコソと話しかけてくる。
「この子、仲間にする? 魔法使いみたいだけど……」
「う、うーん。仲間は早く増やしたいが……」
いろんな意味で。アスカと二人きりなんて、もう限界なんだよ。
だけど、こんな豪快な自滅っ娘を仲間にする勇気もない。
「ガウルさん! 坂の上にモンスターが!」
「えっ!?」
いきなりシェルティの叫びに会話をさえぎられ、オレは慌ててそっちに目をやった。
坂の上にはこちらを見下ろす三匹の狼がいた。
「グレイ・ウルフか!」
「わたくしの前に現れたモンスターです。追いかけてきちゃったみたいです。ガウルさん、一緒に戦ってくださいますか?」
「仕方ない。今は悩んでる暇はなさそうだ! 戦うぞ!」
「ありがとうございます!」
すると、シェルティは左手を前に伸ばす。その手首には青い宝石がきらめくブレスレットがあり、その宝石がピカリと輝くと、そこから彼女の身丈よりも長く、青くて綺麗な杖が飛び出してきた。それを右手でつかむと、ウルフに向けてしっかりと構えた。
あれが魔法使いがよく使う魔力強化用の武器、『長杖』か。
「わぁ、魔法使いっぽいわ!」
「アスカ、感動してる場合じゃねぇよ。お前も戦うんだぞ! グレイ・ウルフはラットよりも凶暴だ。それが三匹だぞ? わかってるのか?」
「わかってるわよ! さあ、英雄剣を抜いて!」
ホントに大丈夫なのか。まあ、今はシェルティもいるから――うん。やっぱりホントに大丈夫なのか。これ……
「えぇい! 考えるだけ不安なだけだっ! いくぞ!」
オレは覚悟を決めて英雄剣を抜き構えた。




