stage,47 オージン編③
「ま、オージンがホントに魔王なのか今はまだ私の予想でしかないけどねぇ」
「…………」
「大丈夫よ。魔王が実は仲間だったって物語はよくある話だし、今のところオージンはいい仲間じゃないの」
「…………」
「……ねえ? ガウル、あんたさっきから私の話、聞いてる?」
首をかしげ、オレの顔をのぞき込むアスカ。
いや、聞いてるけど……なんでこの子、こんな衝撃的なこと口走ってて、こんな冷静でいられるんだ。
「アスカ! 前からお前は緊張感が足りないって思ってたけど、自分が今言ったことがどんだけヤバいことか自覚できてるのか!?」
「ネタバレされたからって……そこまで怒らなくてもいいのに……」
「そこじゃない。オレが怒ってるのはそこじゃない」
そもそもオージンが魔王だっていうのがバレたら怒るようなネタなのかよって話。怒る前に大混乱だっての!
どうも話がかみ合わないアスカとムダな口論してる場合じゃない。オレ自身で真実を確かめないと!
「ガウル、引き返してどこ行く気よ!」
「んなこと決まってるだろ。オージンの所に戻って直接聞くんだよ!」
「やめなさいよ。私の予想だって言ったでしょ? 間違ってたらどうするのよ。そんな慌てなくても……」
「魔王かもしれないんだぞ? 慌てるに決まってるじゃないか!」
「だから、魔王が仲間になるのなんてよくあることだし……」
さっきからよくあること、よくあることって。アスカの世界はどうなってやがるんだ。魔王が大勢いるのか? どんな世界だよ!
「アスカ。今はお前とお前のよくわからん話に付き合ってる場合じゃない! オレはオージンに会いに戻る!」
「待ってってば! オージンとのコミュレベルが低い今、『あんたが魔王?』なんてぶしつけに指摘して『よくぞ見破った。では死ね』なんて流れになっちゃったらどうするのよ!」
「うっ。それは……」
ナニソノ流れ、コワイ……
一瞬、背筋が凍ったが、英雄のオレがうろたえてるわけにもいかない。
「いいや、あいつは回復支援しかできないし、先端恐怖症って弱点も知ってる。そこを突けば……」
一度勝てたんだ。もう一度戦うことになっても──いや、勝てるかもしれないけど、なんか気持ちがモヤモヤする。これは……
口ごもったオレにアスカは鋭い視線を向けた。
「倒せるの? ガウルはそれでいいの? オージンが一番オレの味方をしてくれるって言ってたじゃない」
「そ、それは……」
ことの発端はどうあれ、オージンはオレや人間達の味方をしてくれてる。
あいつ自身も、昔アスカみたいな異世界の人間と一緒だったから、オレにも驚くほど優しく積極的で理解もある。そんな奴とまた戦えるのか……
「オージンと敵対は……したくない。だけど、本当に魔王だったら放置もできないだろ。アスカの言う通り、仲間にできるなら──」
そこまで言ってオレは気付く。アスカは今、オージンとのコミュレベルの話をしていた。
「──待てよ、アスカ。もしオージンとのコミュレベルを上げたらどうなるんだ!?」
「デレて味方になるかもね」
「いや、デレなくていいから。でも、それだ! オージンとのコミュレベルを上げるしかない!」
オージンと親しくなって、魔王かもしれないけど仲間のままでいてもらう。この気持ちのモヤモヤを振り払うにはそれしかない。
というか、それならサアルとか他の奴らのコミュレベル上げなんて後回しにすりゃよかったのに、早く言ってくれよ……とも思ったが、もういい。これから最優先すべきはオージンとのコミュレベル上げ。そうとなれば、すぐに行動開始だ!
「──で、アスカ。具体的にコミュレベルってどうやって上げるんだ?」
「知らずに張り切らないでよ。コミュレベルって要するに友好度合いのことだから、相手が喜ぶことをしてあげたらいいんじゃない? たとえば、『プレゼントをあげる』とか」
「プレゼントって……何を?」
「だから、オージンが喜ぶ物よ。まあ、プレゼントの定番は『花束』かしら?」
……オレが、オージンに花束を……?
「いやいや、ちょっと待て。男同士で花束をあげるって、どうなんだ?」
「いいじゃない。面白そうだし」
「面白さ重視で提案するなっ!」
ダメだ。アスカに任せてたらとんでもない方向に誘導されるぞ……これ。
「無難に誰もが喜ぶこと、それは食事をおごることだろ。んでもって、男なら焼き肉。よし、これだ!」
「勝手に決定しないでよ。焼き肉って高いんじゃないの?」
「こういう時のために様々な依頼をこなして報酬を稼いでたんだろ?」
「そうだけど……。本当にオージンは焼き肉で喜ぶのかしら」
「鬼なんだから、血が滴る新鮮肉が好きに決まってるだろ。というか、花束よりは絶対マシだ!」
オレが花束を手に「オージン。日頃の感謝を込めて、お前にこれを……」なんて言ってる光景なんて、想像するだけでドン引きするわ。
まあ、オージンは日頃から剽軽な奴だから、悪ノリして受け取ってくれるかもしれないが……
「とにかく、今日は帰りが遅いって言ってたし、誘うなら明日だな。他にもオージンの友好度を上げるにはどうするか考えねぇと……」
「仕方ないわね。私も何か手を打つわ」
「お前はあんまり余計なことするなよ、頼むから……」
アスカが何をしでかすか一抹の不安はあるものの、こうしてオレ達はオージンとのコミュレベル上げを目指して行動を開始した。
──翌日、夕方。
王都の聖騎士も御用達の高級焼肉店。口に含めば、まるで綿飴のようにとろける霜降りブランド国産牛が売りのお店だ。
まあ……正直、値段もそれなりするので、話に聞いたことはあってもオレは一度も入ったことはない。
そのお店の入口に立つオレとアスカとオージン。
「……夕飯に誘われて来たけど、ここか?」
「ああ、今日はオレのおごりだから、好きなだけ食ってくれよな!」
……破産、しませんように。オレは鶏肉でも焼いてようかな……
しかし、オージンは歩を進めずにオレの顔を見て首をかしげる。
「なして、急にこんな所に連れて来てくれたん?」
不審がられてる。ヤバい……
まあ、今までオージンにこんなことしたことなかったのに、いきなり高級店に連れて来たら変に思われるか。
「ひ、日頃の感謝の気持ちだよ! ほ、ほら、お前っていつもあの殺風景で狭くて薄暗い地下の研究室で、オレ達のためにいろいろやってくれてるだろ? たまには羽根を伸ばさないとな!」
と、必死にごまかしてみるが、オージンは苦笑する。
「うーん。気持ちはありがたいんじゃけど、儂、実は脂っこい物は苦手での」
「えっ……」
「ほら、儂って鼻が利くじゃろ? じゃけぇ、すぐ頭が痛うなってしまうんよ」
「えええっ」
鬼なのに、なんという虚弱体質!
「今は早う『完成させたい研究』もあるし、こんな高い店で金を使うよりは、いつも通りサアルの家で食わせてもらえばええよ。研究なら家でもできるけーの」
「あ、いやでも、オレはお前に何かお礼してやりたいんだよ!」
「……んな必死に強要せんでも……」
なぜかオージンの方が怯えてる。ダメだ、ついうっかり腕を掴んで叫んでしまった……
すると、辺りをキョロキョロ見回したオージンは通りの先に何かを見つけて歩きだす。後ろをついていくと、そこにあったのは──大量の花。
「ガウル、ここって花屋じゃない?」
「ああ……嫌な予感……」
オレは頭を抱え、オージンはしゃがんで花を見つめる。
「綺麗な紫陽花じゃのぅ。もうそんな時期なんじゃな。ガウル、礼ならこれでええで?」
「なんでっ!?」
「今自分で言ったじゃろ。研究室が殺風景じゃって。あそこはもともと地下の物置じゃったけぇ仕方ないんじゃけど、確かに殺風景なんは儂も気にしとったんよ。この紫陽花でも飾れば、だいぶ違うと思うての」
と言いながらオージンは花を見繕い、オレに手渡してきた。
開いた口がふさがらないまま花を抱えているオレをアスカがあきれて見つめている。
「やっぱり花だったんじゃない」
「……なんでこうなるんだよ……」
とりあえず花の精算をすませると、オレはアスカに小声で話す。
「おい、アスカ。これじゃあプレゼントになってねぇよな?」
「まあ、オージンが喜んでるならいいんじゃないの?」
「無責任なこと言ってないで、お前も何か手を打つって言ってただろ?」
すると、アスカは思い出したように胸を張って得意気に笑う。
「結局私に頼るのね。でも、任せなさい! 今回は久しぶりに課金アイテムを買ってきたんだから!」
「おお。懐かしい響きのカキンアイテムか!」
「──何の話、しょんなん?」
オレとアスカが盛り上がっていると、後ろで花束を抱えたオージンが不審そうに眺めていた。
「あ、いや。アスカからもオージンに贈りたい物があるみたいなんだ!」
「アスカが?」
「鬼と言えばコレよ。ぜひ使ってちょうだい!」
と取り出されたのは、黒と黄色と白のシマシマ柄の……下着?
「アスカ。それ……パンツだよな?」
「そうよ。『虎柄パンツ』」
「お、おぅ……」
オージンの顔が引きつっている。いや、このセンスは、さすがにキツいものがあるだろ。オージンですらドン引きじゃん……
「え? 鬼ってこういうパンツ好きでしょ?」
「まあ、せっかくくれるって言うなら受け取っとくが……」
引きつった笑顔でオージンは趣味の悪いパンツを受け取った。一番もらって困るタイプのプレゼント……
「完全にアスカも滑ってるじゃねぇか」
「おかしいわ……。オージンって本当に鬼なの?」
「確かに鬼なのに虚弱体質だし、花なんか好きそうだし、鬼っぽくないよな」
「おい……聞こえとるぞ。鬼っぽくなくて悪かったの……」
オージンの声にビクッとして振り向くと、そこには眉間にシワを寄せたオージンがいた。
「じゃが、あんたらの鬼のイメージを押しつけられても迷惑なだけなんじゃが? なんか今日のふたりは変じゃのうって思っとったけど、もしかして儂をおちょくるために連れ回しょうるんじゃなかろうな?」
「ち、違うに決まってるだろ!」
あっ……。滅多なことじゃ腹を立てなさそうなオージンが珍しく怒ってる。
友好度上げるどころか、嫌われてどうするんだ。
「おい、アスカ。他に何かないのかよ!」
「ネットで調べたら鬼はお酒好きって出たけど、これも勝手なイメージの押しつけになっちゃうかしら?」
「でも、どうにか汚名返上しねぇと、これじゃ最悪なシナリオに直行だ」
辺りを見回し、さらに通りの先に酒場を見つけた。もうあそこに懸けるしかない!
「オージン、あの酒場で一杯飲んで行こうぜ。やっぱり男同士、酒の席で語らうものだろ? 誤解も解けるように、ぜひ鬼人の話も聞いてみたいなぁってさ!」
「酒か。確かに二千年後の酒には興味があるのう」
「おっ、酒好きなのか?」
「鬼人は大抵が酒豪じゃで。儂もそうじゃし。ほんなら、今日はガウルの誘いに付き合おうかの」
険悪になりかけてたオージンの表情はパッと明るくなった。
よかった。今回は大当たりみたいだ。今度こそオージンとのコミュレベルを上げるべく、オレ達は酒場に向かって歩きだした。
「今度はなんとかうまくいきそうね。でも、ガウルの方はお酒、大丈夫なのかしら……?」




