stage,46 オージン編②
「さて、ほんならどこから話すかの。魔人達の国は、ここから遥か北の果てにあった『ホクロイワン大陸』にあったんじゃが……」
「北の果て?──って確か、北の海上には『〈ペルマナント・タンペート〉』があって、とてもじゃないけど船が出せない場所だったはずじゃないか?」
「ちょっとガウル。何よ、そのペルマなんとかって。私、初めて聞いたわよ?」
なぜかオレをにらむアスカ。いや、聞かれてないことまでオレから話すわけないだろうに。
というか、仮にも戦女神を名乗ってるなら知っててくれよ……
「〈ペルマナント・タンペート〉。王国の北の海上に一年中吹き荒れてる吹雪のことだよ。海面も氷で覆われていて、その先に何があるのか誰も知らない──って、オレも本で読んだ知識しかねぇから、これ以上のことは知らねぇよ」
「序盤は行けないエリアか……。物語が進めば行けるようになる、よくあるパターンね」
よ、よくある……?
なんか納得してるけど、何千年も誰もが頑張っても行けなかった場所に、そんな都合よく行けるようになるわけないだろうに。
「サアル達、王国の者は吹雪の先にあるその大陸に魔人の本拠地があるんじゃなかろうか、と考えとるようじゃが、確かにそれは当たっとるかもな」
「さっきからあったとか当たってるかもとか、今がどうなってるのかオージンもわからないの?」
「あの大陸は儂らの時代に滅んどるからの」
「え……?」
オレとアスカは顔を見合わせた。魔人達の国は二千年前に滅んでるとは、あまりに意外な事実だった。
「儂が生まれる前の戦争で魔人達の国は鬼人に敗北し、鬼人の国がホクロイワンを統治しておっての。そこへどこからか現れたんが機界人じゃ」
「どこからか? 機界人はどこにいたの?」
「さぁて。元々この世界の奴らじゃないんは確かじゃし、アスカみたいに『異世界』から現れたんじゃとしか考えられんな」
「つまり異世界からの侵略者ってことかしら。ますますSFめいてきたわね……」
アスカも異世界からの侵略者だよな。オレの人生を今なお絶賛侵略中……
「何よ、ガウル。何か言いたそうな顔してるわね?」
「い、いや。でも、そんな侵略者の機界人に魔人達の国は滅ぼされたのか……」
機界人の目的は人間も魔族も、とにかく生きているものを全て消し去ることらしい。魔人も狙われたのは仕方ない。
しかし、オージンは首を横に振る。
「初めて現れた機界人は倒せた。いや、倒してしもうた──と言うべきか」
「ん? どういうことだ?」
「ガウル。忘れたの? 機界人って倒しちゃダメなんじゃなかった?」
「あ、そっか」
機界人は死ぬ時に、大陸ひとつは吹き飛ばせるくらいの爆発を起こす。だから、オージンは封印するしかないと言っていた。
「仕方のないことじゃが、機界人が自爆するなんて誰も知らんで防ぎようがなかった」
「なるほどね。なんでオージンは機界人を倒すと自爆するって知ってるんだろって思ってたけど、やっぱり過去に自爆させたことがあったのね」
機界人があらかじめ「倒したら自爆するぞ」と宣言するわけもないし、オージンが知っているということは、過去に自爆された歴史があったからか。
「最初に現れた機界人の犠牲になったのが、魔人達の国があったホクロイワン大陸ってことなんだな」
「そういうことじゃ。さらに自爆後に大陸を囲うように『魔力の嵐』が起こっての、それが『なんとか金平糖』って吹雪じゃ」
自爆すると魔力の嵐まで起こすとか、今さらだけど機界人ってなんて迷惑な存在なんだ……
「それで滅んであとのことはわからないんだな。でも、オージン。コンペートじゃなくてタンペートな」
「知らんが。儂らはあれを『万年吹雪』って呼んどったんじゃし。今は洒落た名前になったんじゃの。金平糖なら甘い物好きな儂も大喜びなんじゃが……」
それこそ知らんがな。つーか、さっきからコンペートって何だろう。甘い物みたいだけど……
「話を戻すが──今のホクロイワン大陸の魔人は全滅しとるかもしれんし、生き残りの魔人達がいないとも言い切れん。万年吹雪の向こうを知る術はないし、お手上げじゃ」
「でも今現在、王国を襲撃してる魔人がどこから現れてるのかを考えたら、その万年吹雪を越えて来てるって考えるのが妥当だろ? まさかこの王国内に拠点があるとも考えにくいし」
「まあ、そうじゃの。魔人達に万年吹雪を越える力があるのかは、甚だ疑問じゃが……」
「でもさ、越えるのが大変だから魔人達が集団で王国を襲撃できないのは、筋が通ってるわよね?」
アスカの言葉にオージンは「うーむ」と唸りながらうなずく。
オージンは何か腑に落ちない様子だが、魔人達が集団でやってくる危険性が少ないのはいいことだ。
「じゃあ、魔人達の目的は?」
「それは憶測でしか言えんが、魔人達は自分達の世界を欲しておったようじゃし、単純に考えれば『世界征服』じゃろうの」
「うっわ~、直球な悪役ねぇ。久しぶりに聞いたわよ、世界征服なんて言葉」
アスカはなぜかあきれたように驚いているが、話を聞けば聞くほど魔人達の運命も不憫ではある。
「鬼人に国を奪われて、その次は機界人に大陸ごと吹っ飛ばされたんだったら、魔人達がそういう行動に出るのもあり得るんじゃないか。人間達にはすっごい迷惑な話だけど」
「改めて言うが、魔人達は自信家だらけじゃ。復讐やら報復、というよりは自分達が世界に君臨する真の長じゃと思って行動しとるじゃろう」
真の長とか、なんか面倒な思想があるんだな。平和的解決を持ちかけても、こっちの話は絶対に通じなさそう……
「これ以上のことは儂にもわからんぞ。魔人を引っ捕まえて聞き出すってのもアリじゃろうが、口を割るとは思えんし」
「いや、聞けばうっかり話してくれそうな気もするけど……」
「ま、今は街に侵入しとるかもしれん魔人の方が優先じゃろう」
そこまで話すと部屋の扉が開き、入ってきたのはサアルだった。
「失礼する。オージンよ、貴様に頼まれていた物が用意できたようだ。戦女神様との話の途中かも知れぬが、急ぎ確認してもらいたい」
「おい……オレもいるんだぞ」
オレのことはまるで眼中にない言い回しのサアル。えぇい、偉そうに!
「ガウルは俺の代わりに戦女神様に謝っておいてくれれば良い。貴様は戦女神様のオマケなのだからな」
「いちいちオレを怒らせる言い方するなっつーの!」
相変わらずサアルの態度にはイラッとするが、相手すればさらにイラッとするから無視無視。
「それでオージンは何を頼んでたんだよ?」
「『土』じゃ。それも王国中の各地の土を集めて貰うたんじゃ」
「土? んな物、何に使うんだよ?」
「前に話したことがあるじゃろ? 機界人を封印するために必要な『封籠石』が王国にもないか調査しとるんよ。もし封籠石があれば、その地質に独特な魔力が宿っての、それを儂が察知して調べりゃいい」
「お前、そんなこともできるのかよ……」
地質調査って。ますます万能染みてるな、この鬼さん。
「というわけで、今日の帰りは遅くなる。このあとのオージンの見張りは俺が引き継いでやるから、ガウルは帰って母上にそう伝えておいてくれ」
オレは「へいへい」とテキトーに返事をしてオージンと別れ、アスカと一緒に王城をあとにした。
──帰り道。今日も王都の通りは大勢の人でにぎわっているが、もしかしたらこの中に魔人がいると考えると事態は深刻だ。
何も知らない街の人達は仕方ないにしても、隣で何も考えてなさそうな顔で歩いているアスカにはウンザリだ。
「なんか面倒なことになってきたなぁ」
「このことはオージンが任せておいてって言ってたから、任せておけば大丈夫でしょ」
「お前なぁ……」
本当に気楽でいいよな。アスカは……
「でも、確かにオージンは頼りになるか」
「ホントよね。いろいろ知ってるし、いろいろできるし、万能感がすごいわ。まあ、戦闘だとまともに戦えないんだけど」
「時々何を考えてるのかわからない時もあるけど、あいつが一番オレの味方してくれてる気がする」
鬼だけど。魔法で巻き添えにしないに変な料理も作らないし横暴じゃないし偉そうにもしない……
あれ……目から何かこぼれ落ちそうだよ……
「でも……『魔王』なのよね。オージンって」
「そうなんだよなぁ、魔王なんだよなぁ……って、は? 魔王?」
たぶん魔族って言おうとして言い間違えたんだと思うが、オレは慌ててアスカの顔を見た。
すると、アスカも慌てて顔をそらす。
「あっ……マズい。今のもネタバレかしら……」
ネタバレって笑い話のネタじゃあるまいし!
アスカの奴、何か重大なことを知ってやがるな。
「おい、どういうことだよ。お前何か知ってて隠してるな。説明しろよ!」
「隠してないわよ。みんなが気付いてないだけで!」
「オレ達が……気付いてない?」
「そうよ。初めて会った時にオージンが自己紹介したでしょ? その時にオージンって、自分の名字を言おうとして『ウ──』って言葉を詰まらせてた。あれって本当は『オージン・ウラ』って言おうとしたんじゃないかって思ったの!」
確かに、自分の名前を言うのに何を悩んでるんだとは思ったが……
「T・ノールって名字だって、鬼人の国があったトウノール大陸から取ってるだけで偽名っぽいし、私のことも見えてるし、明らかに他のキャラとは違う重要人物。んでもって、あのあからさまな万能さ。ただの鬼人でもないはずよ」
「お……おい……。じゃあ、まさか本当にオージンが……魔王・ウラ?」
恐る恐るオレが念を押して聞き返してみると、アスカは真顔でゆっくりとうなずいた。
「ぅええええぇっ!?」




