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stage,45 オージン編① 鬼の居ぬ間に洗濯

「──結論からえば、こりゃあ相当純度のたけ魔法石まほうせきじゃの」


 オージンは手に持った黒ずんだ石を四方八方から眺めながらそう答えた。

 ここは王城の地下にある研究所。オージンはここで機界人キカイジンの再封印する手段を模索もさくしている。

 オージンは鬼人キジンであるがゆえに、四六時中見張らねばならないとサアルが勝手に決めたのだが、今日の見張りはオレだった。

 ものはついでということで、この前遭遇した未確認アンノウンモンスターから手に入れた『謎の魔法石』をオージンに見てもらったのだ。


「じゃあ、シェルティが言ってたように、一般市民には手が出ないほど高価なものなのか?」

「まあ、そうじゃろうな。なして、こんなもんをあのモンスターが持っとったんじゃ……?」

「実は保管庫から盗まれてたんじゃないか?」


 王立の魔法石保管庫なら高価な魔法石があっても不思議じゃないし、この前襲撃されたと言っていた。

 しかし、オージンは首を横に振る。


「あそこには安物の魔法石しか置いとらんかったんよ。確かに、あとから在庫数を調べたら十個ほど合わんかったようじゃけぇど、あそこは日頃から在庫管理があもうての、襲撃の時にうなした物かもわからんらしい」

「じゃあ、無関係ってことか……?」


 オレが悩んでいると、隣でアスカが申し訳なさそうにゆっくり手を挙げる。


「あのさ……。すごく基本的なこと聞きたいんだけど、純度が高い魔法石って普通の魔法石と何が違うの?」

「それは……オレに聞かれても詳しくねぇよ」


 オレには、ただ単純に純度が高かったらスゴそう──その程度の認識しかない。

 すると、オージンは「なはは!」と笑う。


「純度が高い魔法石は魔力の伝導率でんどうりつたこうての、高位の魔法を扱う者には必須の物なんじゃ」

「電気伝導率みたいなものかしら……」

「オージンが言いたいこともアスカが言いたいこともオレにはさっぱりなんだが」


 アスカが言うこともそうだけど、オージンが言ってることも時々難しくてわからない。英雄なのに、この置いてけぼり感はなんだ……


「シェルティが持っとる長杖ロッドの先端に、魔法を使う時に光る石が付いとるじゃろ? あれもそうじゃで」

「ああ、召喚士も高位の魔法使いなんだっけ。なるほど、召喚魔法を使うのには必須アイテムってことか」

()()()純度が高い鉱脈こうみゃくを自力で見付けんと手に入らんから、数も少のうて高価ってことじゃ」


 オージンの言葉にアスカが眉をひそめる。


「人間は──って、魔族は違うの?」

「ああ。わざわざ鉱脈を探さんでも手に入るけんの。ふたりは『錬金術れんきんじゅつ』って知っとるか?」

「ただの石を金に変えたりする、あの錬金術? 詳しくは知らないけど、ファンタジーにはよく出てくるワードよね」


 オレは昔に本で読んだ程度の知識しかなく、少し考えてしまったが、アスカは即答した。


「おい、アスカ。お前の世界って魔法はないんじゃなかったのか? なのに錬金術はあるのか?」

「さすがに実在はしてないでしょ。たぶん空想よ、空想」

「オレ達の世界でだって、今は錬金術を使える奴なんていないだろうし、空想と変わらないはずだけど」

「いや、魔力が低すぎる人間には難しいってだけで、わしらには普通に使えるで」


 そういえば、錬金術について書かれた本には、『錬金術は多くの魔力を使うため、人ひとりでは使えない。そのわりには、何か元になる物質がなければ新たな物質を作り出すこともできず、無から有を生み出せる魔法に取ってかわられてすたれていった』──とか書かれてたことを思い出した。

 人間より魔力が多い魔族になら錬金術も楽に使えるってことか。


「じゃから、儂らはその錬金術を使つこうて純度の高い魔法石も手に入れられるんよ」

「え、つまりどうやって?」


 そもそも錬金術のことがよくわからんのに、話を終わられても困る。


「じゃけぇ、クズのような魔法石でも()()()()()()錬金術を使えば、一個の純度が高い魔法石に変えることができるんじゃって」

「なるほど。アスカが言ってたみたいにただの石でも金に変えられるって、そういうことか」

「じゃあ、その謎の魔法石って魔人マジンが錬金した物なんじゃないの?」


 あっけらかんとアスカがつぶやくと、オレとオージンはそろってハッと息をのむ。


「そういえば、何個か普通の魔法石がなくなってるって言ったよな?」

「おう。それに襲撃の時は魔人の気配も感じたしの!」

「ってことは魔人が犯人か!」


 謎が解明された気がしたが、オージンは腕を組んで首をかしげる。


「じゃがのう、もしそうじゃとしても妙じゃのう」

「妙って何が? あのモンスターも魔人が呼び寄せて襲撃させたんなら辻褄つじつまは合ってるだろ?」

「いや、襲撃するなら魔人が直接現れるんじゃない? だってほら、シューレイドの街を襲ったのだって魔人だったでしょ?」

「そ、そうか……」


 アスカの言う通りだ。オレの故郷の村を襲ったのも魔人みずから現れていた。あいつらは空を飛べるんだし、襲撃するのは簡単なはず。

 今回だけ姿を見せずにモンスターに襲撃させたのなら、そこには何かの理由があるのか……?


「魔人は大抵、自信家ばぁじゃけぇの。人間なんてありぐらいにしか思っとらんじゃろ。蟻退治するのに隠れてコソコソするなんて、奴らのプライドが許さんと思うけぇど……」

「ああ、すごい思い当たるな……それ」


 まさにシューレイドで会った魔人そのもの。まあ、あいつは自分で自分の弱点を教えちゃううっかりさんだったが。


「それに魔法石で呼び寄せるにしても、出て来たんが未確認モンスターっってゆうんはどうゆうことかわからんしな」

「呼び寄せることはできるのね」

「ヴァシティガの洞窟にモンスターが集まっとたんは、儂を封印しとった特別な魔法石──『封印石』に備えておいた防衛機能がアスカの接近に反応して発動したからじゃけぇ。でも、当然ながら周辺にいるモンスターしか呼び寄せられんぞ?」


 誰もが未確認のモンスターが呼び寄せられるほど近くに元々いたとは考えにくい。つまりそういう話だろう。


「なんだよ。謎が解けたと思ったけど結局フリダシに戻ってるじゃねぇか」

「じゃけど、この魔法石を加工したんは魔人に間違いないと思うがな」

「でも魔人が姿を見せなかったのは妙なんだろ? 何か理由があったなら話は別だけど」

「たとえば、自分が動くことができんかったとかか。ケガでもしとる奴がるんじゃろうか?」


 とオージンがつぶやいた瞬間、アスカがポンと手を打った。


「ガウル! あいつよ、あいつ! リゼと一緒に行った〈技能神スキルしんほこら〉で会った魔人!」

「ああっ! そういや、あいつって手負いの状態で逃げたんだっけ!」


 リゼの料理の腕前を上げるために向かった〈技能神の祠〉。そこで女の魔人と戦って、追い込んだものの逃げられていた。


「ん? その話、リゼからなんとなく聞いとるけど、もう一回いっぺん詳しゅう話してみんさい」


 オージンの顔色が変わったので、オレとアスカは事細かに説明した。

 サアルにもすでに話していて、王都周辺の警備を強化してもらっている。だが、今日まであの魔人の行方ゆくえが知れることはなかった。


「──なるほど。そしたら、もう街の中に入られとるかもしれんの」

「え!? 警戒はげんにしてもらってるのに、どうやって? 魔人が街に入ってきたらすぐに気付かれるだろ?」

「何言うとん。ガウル達以外に気付かれずに侵入しとる魔族が目の前に居るのに」


 オージンは魔族の一種族の鬼人。誰にも気付かれないのは、今は〈化身けしん〉という力で人間に化けているから当然だ。オレ達以外、誰もオージンが鬼人だとは思わないだろう。


「って、まさか魔人も〈化身〉が使えるのかよ!」

「魔力をアホみたいに使う〈化身〉自体は鬼人固有のスキルなんじゃが、儂の昔の知り合いに魔法石の力を使うて似たようなことしとる奴が居ってな。鬼人より魔力がとぼしい魔人でもできんことはないんよ」

「魔法石の力を使って──って、なるほど。話が繋がってきたんじゃない?」


 要するに、ケガをしたあの魔人が魔法石を手に入れて人間に化けて、今は王都に潜り込んでケガを癒やしつつ、反撃の機会を待っている。

 それまではモンスターを使って注意をそらしてる……のだろうか。


「って、マズいだろ。人間に化けられてたら見分けつかねぇし」

「確かに難儀なんぎじゃのう。まあ、この件に関しては考えとくわ。安心しとき」


 オレ達と一緒に悩むのかと思ったら、オージンはヘラヘラと笑っている。


「いや、言ってるわりにのん気だな……」

「話を聞く限り、その魔人は儂とおんなじようにスキルブレイクされて能力が下がっとるはず。その状態で、そうそう無茶はできんじゃろ」


 本当に大丈夫なのか不安ではあるが、魔人についてほとんど知識がない今のオレ達はオージンに頼るしかない状況である。


「ねぇ、魔人の目的って何なの? この国も襲われてるんでしょ? オージンに聞いちゃえばいいんじゃないの?」

「あ、そうか。機界人のことばかりに気を取られてて魔人のことは後回しになっちまってたもんな」


 というわけで、と言わんばかりにオレとアスカはオージンに視線を集中させた。オージンは目を半眼はんがんにしてあきれる。


「ったく、鬼使いの荒い奴っちゃのう。まあええ、儂が知っとることは話すけど、いかんせん大昔の知識じゃけぇあまり期待せんでよ」


 オージンは断ることなく、そう言った。

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