表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

stage,43 シェルティ編⑦

 迫るモンスターの数は多く、しかもシェルティもフルールも体力が低い召喚士。

 ここはアスカに〈アトラクト・ラプソディ〉を使ってもらって、オレが敵の注意を一手に引き受けて、その間に後ろからふたりで一網打尽にしてもらうしかない。


「ここはオレが引き受ける! シェルティとフルールは攻撃してくれ。ただし、持久戦は厳しいから、強力なので頼むぜ!」

「わかりました! ここはあたしの腕の見せどころですね。寝不足のシェルティさんは休んでてください!」

「え……。大丈夫ですよ! 今の強烈なにおいで目が覚めましたから、わたくしも!」


 なんだか揉め始めてるふたり。どっちでもいいから早く攻撃してほしいんだが。

 すると、〈ラプソディ〉を使ったアスカがにこやかにオレの方を見る。


「こうなったら私達だけで斬り込んでく?」

「無茶言うな! 前から数え切れないほど押し寄せて来てるの見えないのか!」

「ああ……三十匹どころじゃないわね。回復役もいないしキツいかしらね。これこそ多勢に無勢?」

「今、そういう冗談は笑えないからやめてくれっ!」


 他人ひとの体だからって無謀なことをしようするのはやめてほしい……

 いつもの調子でオレとアスカも揉めだすと、後ろからシェルティの声が響く。


「『は激しき水流、飛沫しぶきの刃……』」

「おお、この呪文は覚えてるぜ!」


 〈スラッシュ・カーラント〉。シェルティの十八番おはこだ。

 すると、アスカはオレの体を動かし、シェルティの正面から退避する。


「さすがにもう私だって巻き添えはくらわないわよ」

「おお! アスカが成長してる!」

「一言多いのよ! ほら、シェルティの魔法が来るわよ!」


 アスカの言葉の直後、オレが察した通りに後方から〈スラッシュ・カーラント〉の魔法が放たれた。

 直線上に飛んでいく水流と水の刃。それはモンスターの大群を斬り刻み、押し流そうとするが……


「おい。あのモンスター達、踏みとどまったぞ!?」

「というか、回復したわよ……」


 二本のツタを両手のように挙げ、ピョンピョンと跳ねて喜んでいる様子のモンスター達。なんだか可愛げがある──じゃなくて、なんで回復!?


「ダメですよ、シェルティさん! 相手は植物系のモンスターなのですから、水魔法で攻撃してもお花に水をあげているのと同じことですよ!」

「あっ……。そうでした、ごめんなさい……」


 シェルティはオレよりモンスターの弱点に詳しかったはずなのに、なんという凡ミス。やっぱりまだ寝てるな、あの子……


「じゃあ、燃やせばいいんじゃないか? 召喚士なら炎魔法も使えるんだろ?」

「使えますけど、これだけ強風が吹いている環境ですと、うまく使わないと周囲に飛び火してしまう危険がありまして……」

「あたしもシェルティさんも、炎魔法は一番の苦手分野なんです……」


 そろって自信なさそうに目を泳がせるシェルティとフルール。

 無理に使ってもらってモンスター諸共もろともこの農場予定地も大炎上……あ、あり得る。むしろ、そんな未来しか予想できない!

 ただでさえ、この前は東の農場でギガントひまわりを守れなかったのに、この農場予定地も燃やしちゃったらさすがの英雄でも名折れだろう。それはマズい、非常にマズい。


「ですが、ガウルさんがどうしてもとおっしゃるのであれば、わたくしもフルールさんも意を決します!」

「待て、決するな! やっぱり炎魔法は無し!」

「では、やはりここはあたしの出番ということですね!」


 意気揚々、一歩前へ踏み出すフルール。どうでもいいから早くしてくれ。モンスターの大群がすぐそこまで……って、あれ。全然、襲ってこないな。


「ねぇ、ガウル。モンスター達、なんかみんな止まったわよ? まるでこっちが攻撃するのを待ってるような……?」


 見れば、モンスター達は足並みそろえて立ち止まっている。

 アスカは妙なことを言ってるけど、奴らにオレ達の攻撃を待つ理由なんかないし、こっちを警戒して止まったのだろうか。それとも何かの罠か。

 疑心暗鬼となってアスカとオレが動けずにいると、後ろからフルールの声が届く。ここは彼女に任せた方がいいのかもしれない。


「『我が力、の地からいざなうは魔導の同胞はらから。我が声、時空そらを越え、今此処(ここ)へ……』」


 眉間みけんにシワが寄るくらい真剣に呪文を唱えたフルールは、黄色に輝く長杖ロッドを地面に突き立てた。


でよ! 災禍さいか大樹たいじゅよ!──〈プラント・サモニング〉!」


 その声に反応して、オレとモンスター達の間の地面に緑色の大きな魔法陣が描かれていく。

 その魔法陣には見覚えがある。色は違うが、シェルティも使っていた召喚魔法の魔法陣だ。

 地面に張られた魔法陣からは、ズドンと一本の大木たいぼくが突き出てきた。


「杉の木……に見えるけど、なんだアレ?」

「わたくしは海洋生物。フルールさんは『草木の召喚士』なんですよ」

「つまり爆発するナマコよろしく、あの木もただの木じゃないと?」

「はい。体に付着するだけで、しびれて動けなくなる花粉をまき散らします!」

「うっわ~……。やっぱりオレが思ってた召喚魔法のイメージとなんか違~う……」


 なんかこう、もっと豪快に攻撃するもの呼べないのか。しかも徹底して物理的だし。

 直後、焦りだしたのはなぜかアスカだった。


「サイアク! 私、花粉症がひどいのよ! こんなの見てるだけでくしゃみが出そうになるじゃない!」

「別にオレ達に向かって飛んでくるわけじゃ……」


 ……あれ、待てよ。さっき向かい風で前方に隠れていたモンスター達のにおいに気付いたような? そして、今も変わらず向かい風。


「って、風上にそんな木を出したら、花粉を浴びるのは風下にいるオレ達じゃないのか!?」

「あっ……」

「あっ……じゃねぇっ!」


 フルールも自滅癖じめつぐせがあるのかよ! なんで彼女に任ちゃったんだ、オレ!!

 しかし、時すでに遅し。大木からは黄色い花粉が大量に噴き出し、それが風に乗ってオレ達の方へ向かってきた。


「うわぁあっ! アスカ、早く退避してくれ!」

「ちょっと待ってねぇ。本当にくしゃみ出ちゃったわ。ティッシュ、ティッシュ……」

「こんな時に何をお探しですかっ!?」


 アスカはオレの体の操作をほっぽりだしたのか、花粉が迫ってきてもオレの体は微動だにしない。

 英雄の死因──杉花粉。ヤダソレ、すっごくカッコ悪い!


「『其ははしゃぐ風……』」


 オレが動かない体でもがいていると、シェルティの声が聞こえた。

 燥ぐ風──これも聞き覚えのある呪文だ。確か、洗濯乾燥魔法の? なぜ、今ここで?


「──〈ドライ・ウインド〉!」


 思った通り、シェルティの長杖から放たれた熱風が、こっちに流されてきていた花粉に吹きつける。その瞬間、空中で火の手が上がり、花粉は燃えて火のになりながら散っていった。


「そうか、あの魔法って燃やすこともできるって言ってたな!」

「はい。花粉も植物の一部ですし、燃えると思って使いました。うまくいってよかったです」

「よくそんな機転が利いたな。助かったぜ!」


 オレの言葉にシェルティはニコリと笑顔で答えた。

 そして、降り注いだ火の粉を恐れたのか、モンスター達はズササッと後退あとずさる。


「やっぱり有効的なのは炎魔法みたいだな。シェルティ達に使ってもらうしかないか」

「待って、ガウル。なんか敵の様子が変よ!」


 アスカの言う通り、モンスター達は頭の花をこちらに向けて構えていた。

 直後、花の中心にある口らしき穴からズドズドと銃の弾丸のように放たれる()()


「ゲッ、あれは──下がれ下がれ!」


 オレの呼びかけにシェルティとフルールは慌てて後退したが、アスカの操作が一歩遅れたため、飛んできた何かを右足に受けたオレは盛大にずっこけた。

 痛みはないが、右足はべっちょり濡れている。そう、これはたぶん……


「ガウルさん! まさかそれって溶解液ようかいえきじゃあ!?」

「大丈夫だ、これはただの『みつ』。だけど、しばらくしたらカチコチに固まって動けなくなっちまうんだ」


 サアルの時に経験済み。ただ、今回はモンスターも小さいので蜜も少ないが、その分、固まるのも早いのか、すでに足は動かしにくくなってきた。

 つまりこれって、今回もオレは役に立たない流れ……


「それだと、氷づけならぬ『蜜づけ』になっちゃいますね」

「フルール、オレは菓子じゃねぇからな……」


 フルールにツッコミしている場合ではなく、オレが蜜をくらったのに気付いたのか、モンスター達は再びオレに向かって迫ってきた。


「ヤバい。ここからオレの剣で攻撃しても高が知れてる。もう炎魔法でもいいから使ってくれ!」

「ですが、もしガウル様の方に風で流されたら、動けなくなったガウル様は……」

「言うな! そうなりそうなのは百も承知なんだから!」


 蜜づけにされたあとに焼かれるって、マジでお菓子にでもされるのか、オレ。


「氷づけ……」

「おい、シェルティ! 聞いてるのか!」


 まだ寝ぼけているのか、うつむいてぼんやりしているシェルティ。

 しかし、そうではなかった。シェルティは顔を上げ、真剣な眼差しをオレに向けた。


「わたくしは、ガウルさんを犠牲になどしたくはありません! 皆さんに負けないように頑張ると決めたのですから!」

「シェルティ……?」


 彼女なりの思いが伝わってきた。なんだか不思議な感覚に包まれて返す言葉が出てこない。


「いけるかもしれません。昨日から寝る間も惜しんで特訓した甲斐かいがありました!」


 寝る間も惜しんで? そうか、シェルティが寝不足だったのは、魔法の特訓をしてたからだったのか。そこまでして覚えようとした魔法って……


「──たった今、コミュレベルアップと共にシェルティが新しい魔法を習得したって表示されたわよ」

「またアスカの便利すぎる千里眼せんりがんか。でもまさか覚えた魔法って、昨日学校で勉強してた魔法か? 確か、雪を降らせる魔法で……」


 雪が降るのは冬。冬には多くの植物は枯れてしまう。ということは……?


「なるほど、そういうことか!」

「植物なら寒さにも弱いかもしれません! わたくし、試してみます!」

「よし、何とか時間を稼ぐから頼むぜ、シェルティ!」

「承知いたしました!」


 押し寄せてくるモンスター達に向かって剣を構えるオレの後ろで、シェルティの呪文詠唱は始まった。頼む、間に合ってくれよ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ