stage,41 シェルティ編⑤
「なんじゃ。ふたりはこのモンスターに見覚えあるんか?」
そういえば、みんなには詳しく話してなかったな。サアルと一緒に王立の農場にヒマワリの種を盗りに──もとい、採りに行った時の出来事は。
「サアルと一緒に農場に行った時に、オレ達がモンスターに襲われた事件、覚えてないか?」
「ああ、あの農場が荒らされた事件もあいつらが犯人じゃったんか!」
いや、荒らしたのはサアルの家のネズミだけど。今は話がこじれるから言わないでおこう……
「じゃったら、アスカがモンスターの名前を見とるはずじゃ。ほら、ターゲッティングできるじゃろ?」
「ターゲッティングはできてたけど、名前は『未確認』だったわよ?」
「未確認? おかしいのう。アスカまでわからんってことなんか……?」
考え込むオージン。シェルティとリゼはアスカの声は聞こえてないだろうが、会話の内容を察して眉をひそめた。戦女神ですら知らないことを疑問に感じたのだろう。
そして、当のアスカもいぶかしげな表情を浮かべていた。
「ねえ、オージン。今、あいつらって言った? ということは、このモンスターがいっぱい出てきたってこと?」
「ああ、沢山こと出てきたで。二十……いや、それ以上じゃったかの」
「あんな巨大なのがそんなに出てきて、よく被害が出なかったな」
「巨大? 何言ってル、ガウル。あいつらは大きくてもリゼの腰ぐらいだったゾ?」
驚いたオレにリゼがそう返した。
オレ達が見たこのモンスターは、サアルすら丸のみできるほど大きかった。しかし、リゼ達が戦ったこのモンスターはそこまで大きくなかったようだ。
「巨大な種も居るってことか。こりゃ思っとるより面倒そうじゃな。未確認じゃ対処しようがないしのぅ」
「王都近辺に現れだした謎のモンスターか……」
なんだか奥歯に物がはさまった感じがあるけど、幸いにもあいつらはそれほど強くないってのが救いか。
「まあ、ここで悩んどっても仕方ない。もう少し儂らで調べてみるけん、ほんならまたな」
と、手を振りながら背を向けてその場を去ろうとするオージン。
だが、ちょっと待て。まだ聞きたいことが残っている。
「なあ、オージン。なんでお前がそんなに一生懸命になってるんだ? 機界人のことよりも優先することなのか?」
たとえ正体不明であっても、モンスターのことならサアル達騎士団でもどうにかできるはず。なのにオージンは、この力の入れ様だ。
ただの興味本位なら機界人の方を優先してくれって注意しようとしたのだが、振り向いたオージンは、やはり険しい表情のままオレを見つめる。
「実は……まだリゼにしか言うとらんことなんじゃが、あのモンスターと戦うとる時に『魔人の気配を感じた』んじゃ」
ヒソヒソと小声でつぶやくオージン。オレとシェルティはそろって息をのむ。
「おい、それってどういうことだよ……」
「わからんけぇ調べとるんよ。まあ、まだ何とも言えんが、魔人共が関わっとるなら調べといた方がええと思うてな。ふたりは気にせず儂らに任せときんさい。何とかしちゃるけぇ!」
「オージン。回復支援だけデ、戦えないけどナ!」
「それは言わんてーて……」
と、リゼとオージンは笑い合いながら行ってしまった。いつものことながら緊張感のかけらもない。
それをポカーンと見送ってしまったが、魔人の気配がしたって言われると不安になる。これはアスカじゃなくても察してしまう、大きな事件の予感……。
「──すごいですね。リゼさんもオージンさんも」
ふと、隣で声をもらしたシェルティ。心なしか思い詰めた表情を見せている。
「どうしたんだよ。いきなり」
「リゼさんもオージンさんも、そしてサアルさんも今頃この国や人々のために尽力されてるんですよね。もちろん、一番頑張ってらっしゃるのはガウルさんと戦女神様ですし……」
うん、オレは頑張ってる。オレは。声には出せないけど……
「ですが、わたくしは……自分がやりたいことだけやってしまってますよね。そうまでしても、まだまだ未熟なわたくしは、本当に皆さんのお役に立てるのでしょうか……」
シェルティの声が弱くなる。本当に思い詰めていたのか。
まあ、オレがシェルティの立場だったら、ガチガチに緊張して気負いしまくってただろうしな。何せ、あの〈戦女神の英雄〉の仲間になっちまったんだし……
戦女神がアスカだともイメージしきれてないだろうし。
「シェルティ。みんなだってやりたいことをやってるだけだと思うぜ? シェルティの魔法はすごいんだし、お前が役に立たないんならサアルなんてどうなるんだ? あんな巨漢、ただの風除けにしかならないだろ」
オレは笑ってそう言った。サアル、今頃くしゃみしてるだろうな。嘘は言ってないから許せ。
「とにかく、シェルティ。オレだってみんなが思う英雄になれるかどうか不安だし、自信も全くないんだ。みんなだってたぶんそうなんだから、あんまり気にするなよ?」
「ガウルさん……ありがとうございます。わたくしは今できることを一生懸命頑張ってみます」
と言って、シェルティはペコリと頭を下げる。
「では、今日はこの辺で教室に戻ります。いろいろとありがとうございました!」
顔をあげて微笑むシェルティにオレが「おう!」と返事をすると、シェルティは踵を返して走りだす。
オレも家に帰ろうと歩きだした時、声は後ろから響いた。
「ガウルさん! わたくし、〈戦女神の英雄〉がガウルさんのような人で良かったと思います!」
驚いてオレが振り向くと、シェルティはもう一度勢いよくお辞儀をして、「ではまた!」と言い残して行ってしまった。
「……な、んだったんだ?」
「ニブいわね、ガウル。あんたが英雄として自信がないとか言っちゃったから、余計に気を遣わせちゃったんじゃないの? 応援してくれたんでしょ」
「いや、オレが自信を持てない最大の原因はお前にあるからな……」
どっちがニブいんだか、とオレが肩を落としていると、アスカも優しく微笑んだ。
「ま、シェルティを励ましてあげるなんていいとこあるじゃない。この調子で──」
「この調子でどんどんコミュレベル上げよう! って、言うつもりだろ?」
「あら。バレてる?」
なんだかなあ、もう──と思いつつ、オレは笑いながら肩をすくめた。
──翌日、オレとアスカは待ち合わせ場所の南門に向かう。
昨日の夜、シェルティはいつ帰って来たのかわからない。今朝も先にフルールを迎えに行ってしまったのか、朝食時にはいなかった。
「ねえ、空がすごい色ね……」
街を歩きながら空を見上げるアスカ。
今日の空は厚い黒雲に覆われていて暗い。さらに風も強く、今朝はガタガタと揺れる窓がうるさくて目を覚ましたくらいだ。
「魔法で天気を占う予報士の話だと、今日は夕方から大雨と暴風に注意だってさ。今は雨は降ってないけど、さっさとフルールの依頼を済ませないと大変かもな」
「魔法の天気予報士なんているんだ」
「昨日行った大学院にいるんだよ。詳しい原理は知らないけど、結構当たるぞ。故郷の村にはいなかったから助かるぜ」
今日の天気が前もって予想されてるなんて、さすが都会だ。
オレ達は悪天候を気にしつつも、街を進んで南門に到着すると、すぐに声が響く。
「あ、ガウル様~! こちらです~」
元気よく手を振っているフルール。その隣にはシェルティの姿も見えたが、うつむいている。
「待たせたな、ふたりとも」
「いえいえ。あたし達も今さっき来たばかりですよ」
フルールは笑顔だけど、うつむいたままのシェルティの反応がない。
「シェルティ? 大丈夫か?」
「……えっ! あ、はいっ!」
呼ばれて飛び起きたように顔をあげて返事をするシェルティ。間違いなく寝ぼけ眼だ。
「今、寝てたか?」
「い、いえ。大丈夫です。今日は天気が悪いみたいなので、急いで行きましょう!」
と、元気よく街の中に向かって行進し始めるシェルティ。
「街に戻ってどうすんだよ。こっちだこっち!」
「ご、ごめんなさい……」
真っ赤な顔して回れ右で戻ってくるシェルティ。いや、本当に大丈夫なんだろうか……
「こんなに天気が悪くなるとは思ってもいませんでした。シェルティさんの言う通り、急ぎましょうか」
こうして、なぜか寝ぼけてるシェルティと、その反面、昨日よりも元気よさげのフルールとともに、オレ達は街の外に向かって歩きだした。




