stage,39 シェルティ編③
※作中に魔法の呪文詠唱シーンがあるのは、シェルティ編だけです。
「紹介しますね。こちら、フルールさんです。歳はわたくしと同い年の十八歳で、わたくしと同じく召喚士なんですよ」
フルールとやらの様子がおかしいことにも構わずに、シェルティはにこやかにそう言った。
「いや、それはわかったけど。彼女、大丈夫か?」
「あ、フルールさんは〈戦女神の英雄〉の大ファン──つまり、ガウルさんの大ファンなんですよ」
とシェルティが言った瞬間、フルールは勢いよく立ち上がってシェルティに詰め寄る。
「ちょ……ちょっと、それは言わないでっ!」
顔を真っ赤にしているフルール。
なるほど。彼女とオレは初対面だが、オレの顔は知ってたんだろう。で、まさかこんなところで会うとも思っていなくて突然の出会いに呆然としてた──って感じか。
どんな子かとムダに警戒してたが、大ファンと言われるのは悪い気がしない。
「大ファンだなんて、ようやく英雄らしくなってきたなぁ、オレも」
「何、ニヤニヤしてるのよ……。大体、学校の廊下で好きな人に偶然ぶつかるなんてベタなシチュエーション、最近じゃラブコメでも見ないわよ……」
なんかアスカがあきれた顔で謎単語を放っているが、今は無視無視。
改めてフルールにあいさつをすべく、オレはシェルティと揉めてる彼女の背後に近寄りつつ話しかける。
「よう、初めましてだな。知ってると思うけど、オレはガウル・フェッセラース。〈戦女神の英雄〉だ。よろし──」
「きゃあっ! 来ないでっ!」
「ぐ──っ!?」
悲鳴とともに、振り返りざまにフルールが振るった平手が、オレを頬にベチンッと打ちこまれた。
オレはそのままぶっ倒れて頭を床に強打する。
「痛ぇ──って、いきなり何するんだよっ!」
「あ……あの……あたし……」
オレがにらむと、いきなりしどろもどろになるフルール。すると、シェルティが苦笑する。
「フルールさんは『極度の男性恐怖症』で、男性に近寄られると反射的に手が出てしまうんです」
「どんな症状だよっ! つーか、先に言えっ!」
どの方向に極度なのかわからん。というか、それで男のオレの大ファンになったの、この子……
なんだか、またもや受難の予感……
「ごめんなさい、許してください。あなたにお会いしたかったのは本当なんです! あたしはフルール。フルール・G・デゼールです。改めましてよろしくお願いします……」
と、後ずさりしながらシェルティの背後に隠れつつ、フルールはぎこちなくそう言った。
相手から離れながら自己紹介するってどんな状況だ。
「……わかったよ。もう近寄らねぇよ」
「ところで、どうしてガウル様はそんなにずぶ濡れなんです?」
「あ、忘れてた……ぶぇっくしっ!」
思い出した途端に襲い来る寒気。マジでサイアクな気分……
ことの経緯を説明しつつ、フルールも一緒に中庭に向かう。もちろんフルールはシェルティを間に挟んで、オレからは距離をおいて歩いている。
大ファンと言われるのは嬉しいが、これじゃ不必要に避けられてるみたいで嫌なんだが……
「──でしたら、あたしが乾かして差し上げますよ!」
中庭に到着すると、フルールが提案した。
まあ、確かに。シェルティに頼んで今度は焦がされても困るし……
「あたしもシェルティのように〈戦女神の英雄〉のお仲間になりたいのです。ぜひ、あたしの腕前も見ていただきませんか?」
「そういうことならフルールに頼むよ。その前に、上着は脱いだ方がいいか?」
と尋ねた瞬間、シェルティと同じように腕輪から長杖を取り出したフルールは、突然その先端をオレの鼻先に突き付けた。
「うおっ!? なんだよ、危ないだろ!」
「あ、あたしの前でっ……は、裸になんかなったら! あなたを殺してあたしも死にますっ!」
「なんでそうなるっ!」
フルールの謎に険しい剣幕にオレがたじろいでいると、真剣な顔のシェルティが口を開く。
「ガウルさん。フルールさんは男性恐怖症なんですから、裸なんか見せたら殺されちゃいますよ? フルールさんは以前、間違えて男性更衣室に入ってしまって、更衣室を魔法で吹き飛ばしちゃう事故があったんですから」
「それ、事故じゃないだろ! 着替えてた男達は完全にとばっちりじゃん!?」
勝手に入ってきた子に、いきなり吹っ飛ばされる……それってもうテロじゃん。
「ごめんなさい……。男の人の裸なんか見たら、反射的に魔法を使っちゃうんです……」
「だから、どういう症状だよ! つーか、脱ぐのは上着だって言っただろ。なんでそれでオレが全裸になるかのような流れになってるんだよ……」
「えっ……。あ、そうですよね……」
ハッと息をのんでるが、勘違いしすぎ。
ダメだ。この子も天然殺戮魔女娘だ……
「それでは上着を脱いで、乾きやすいように両手で広げて持っててもらえますか?」
「ああ、わかった──これでいいか?」
オレは上着を脱いで、その肩の部分をつまんで広げて見せた。
するとフルールはニコリと微笑み、長杖を構える。
「ありがとうございます。では、ちょっと待っててくださいね……」
長杖を天に掲げてフルールは静かに目を閉じる。
「《其は燥ぐ風。熱を纏いて、此に吹き上がれ》──」
小さく聞こえる呪文の声に反応したのか、長杖の先端に赤と緑の明かりが灯る。すると、フルールは目を見開いた。
「いきますよ──〈ドライ・ウインド〉!」
フルールが長杖をオレに向けると、オレの足元から温かい風が吹き上がる。
熱すぎず、ちょうどいい温風によって濡れた服が乾いていくのがわかった。しかし、いきなり風速が増して、手に持っていた上着が空高く飛ばされてしまった。
「あ、ヤベッ」
「あ、ごめんなさい。風が強すぎました!」
オレもフルールも、空中をヒラヒラと舞いながら落ちてくる上着を見上げたまま、慌ててそれを追いかける。
そして、地面に落ちた上着を同時に拾おうとしたオレとフルールの手同士が触れ合う。つまり、気付かぬうちにそれほどオレ達は接近していたわけで……
「いっ、いやぁぁっ!」
「ぐっふ──っ」
案の定、取り乱したフルールの正拳突きがオレの腹に突き刺さった。一瞬、呼吸が止まりましたが……?
「またすごいキャラの女の子が出てきたわね」
オレがうずくまったまま動けずにいると、あきれているのか感心してるのか、アスカの声が隣から聞こえた。
アスカにそんなこと言われちゃ世も末だけど、とりあえず先に回復して……
「あれ? 新しいクエストの依頼だわ」
「今かよ……」
オレはヨロヨロと体を起こすが、タイミングが悪すぎて頭が痛い。
街の人の困り事を察知するアスカの能力。理屈はよくわからんが、遠く離れた人の困りごとまで知ることができる。ただ、オレの都合を無視してどんどん依頼されてくるのは嫌がらせだろうか。
とはいえ、みんなの英雄である以上、依頼を無下にすることもできず……
「依頼主は誰なんだよ?」
「目の前にいるわよ。依頼主は彼女みたい」
「は……?」
オレはシェルティの背後に半分だけ隠れて、ペコペコと頭を下げて謝っているフルールの方を見た。




