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stage,36 リゼ編⑧

「オージンの回復魔法もアテにならないなら、残る手段はアイテムだ!」


 と、オレはカバンから状態異常回復薬を取り出す。


「あ、それ。すっごい苦いってやつ? 買ってたんだ」

「ああ。この前みたいにオージンがいなくてもどうにかしないといけないこともあるって思ってな」

「……だから、所持金減ってたんだ。私に無断で……」


 アスカの瞳に殺意が宿る。確かにアスカの許可は取ってなかったが……


「い、今はそんなこと話してる場合じゃないだろ! とりあえずオージンだけでもこの薬で助けて……」

「ちょっと待って。それって普通の〈異常回復薬リラクゼーション〉じゃない? この〈ハート・リバース〉の異常を回復するには、最高級の〈高級異常回復薬メディケーション〉じゃないと無理みたいよ?」

「な、なんだって!?」


 名前も聞いたことないわ。そんな薬……

 ここ、王都であれば薬屋で売っているだろうけど、会場からはそれなりに遠いし、ただでさえ高い薬なのに最高級品なんて買えるのだろうか。


「迷ってる暇はねぇか。とにかく一個でもいいから〈高級異常回復薬〉を買ってこねぇと!」

「その薬が必要ナノカ。リゼ、ひとっ走りデ買ってくる!」

「でも、リゼ。お前、お金は大丈夫なのか?」

「大丈夫ダ! オージンの見張りでサアルから報酬もらッテル。ガウルはオージンをフォークで脅しててクレ!」


 責任を感じたのか、リゼがひとりで会場から駆けだそうとするが、その行く手に審査員だったはずの複数の騎士達が立ちはだかる。

 なんだかみんな、死んだ魚のような目をしている。そういえばこいつらもさっきのカレーを食べているはず。ああ、嫌な予感……


「どこへ行くつもりだ……。お前達も我々と共に、この国を……()()()ぞーっ! うおーっ!」

「なんでっ!?」


 雄叫びをあげる騎士達にドン引き中のオレが叫んだ。狂って暴れ出す騎士達に観客達も事態を察して、悲鳴をあげながら会場から逃げ出していく。

 もう地獄絵図の様相ようそうていしてきました……


「国への忠義ちゅうぎあふれる騎士達の性格が反対になったら、まぁこうなるわよね」

「アスカ。こんな状況で冷静に解説するな! オレひとりでこんな奴ら全員を抑え込むなんてできねぇぞ!」


 騎士達は状態異常で気が狂っているだけ。戦うにしても、まさか殺してしまうわけにもいかない。しかし、このまま放置してたら本当に王城に攻め込みかねないし。

 リゼに薬を買いに行かせて、この状況をひとりで乗りきるなんて無理だ。買いに行くのがオレでもそれは同じこと。


「もうこれ、リゼに『謎の種』を渡した奴がくわだてたテロじゃねぇか……?」


 すべを失ったオレは、大混乱の会場を眺めて声をもらした。

 まさか料理を使うテロリストがいるとは。都会って怖いな……


「ああ、思い出した。アスカが前に言ってた『メシテロ』って、料理メシを使ったテロ──つまり、こういうことだったのか」

「違うわよ! これじゃ本当のテロじゃない。メシテロはもっと穏やかなテロよ!」


 本当じゃないテロってなんだろう。穏やかなテロってなんだろう。


「って、アスカの世界の人知じんちを超えた変なことで頭抱えてる場合じゃねぇっ! とにかくリゼは隙をついて脱出して、薬を買ってきてくれ!」

「待ってクレ。それでガウルは大丈夫ナノカ!?」

「やるしかないだろ。まあ、オレにはアスカもついてるし、リゼは気にするな!」


 オレはそう言って軽く笑いながら英雄剣に手を伸ばす。正直、とても厳しそうだけど。

 すると、うつむいたリゼが小さい声をもらす。


「……リゼ、ただみんなに喜んでもらいたかったダケ……。でも、そのせいで、こんなことになるなんテ……」


 リゼは震えながら両手を固く握り締めた。

 その瞬間、彼女の両手が再び緑色に輝き始める。


「この光は──ほこらの時のか!?」

「ガウル! リゼが覚えたスキルって料理スキルじゃないわ。『戦闘スキル』だったみたい!」

「戦闘って、戦うためのスキルかよ! だから料理スキルの方は何ら変化がなかったのかよ!」


 〈技能神スキルしん〉のうっかりミスが発覚! 戦女神アスカもそうだけど、神様なんかもう信用したくない……


「戦闘スキルと料理スキルはページが違うから、たった今気が付いたわ」

「何のページだよ……って無益なツッコミはあとだ! そのスキルの効果は何なんだ!」

「えっと……〈もり祝福しゅくふく〉? 範囲内の味方のHPを小回復。同時に状態異常を回復──って、ガウル。これならっ!」

「いける! リゼ、その力──〈森の祝福〉を使うんだ!」


 オレはリゼに呼びかけるが、なぜかリゼは光り続ける自分の両手を見つめたまま動かない。


「〈森の祝福〉……。どうシテ、リゼがこの力を……」

「おい、リゼ! なんで戸惑ってるんだ!? 今、それを使わない理由はないだろ!」

「あ、ああ。そうダナ!」


 リゼは思い出したように両手を真上にあげる。そして、戸惑いを隠せない表情のまま口を開く。


「我が声にこたエ、みなに森の祝福を!」


 リゼの声に合わせて両手の緑色の光は輝きを増し、会場中に広がった。

 そのまぶしさに視界を奪われたオレがゆっくり目を開くと、そこにはほうけた顔で動きを止めているサアル達がいた。


「む? 俺は何をしていたのだ……?」

「わたくしもよく覚えていませんね……」

わしもじゃ。会場も荒れとるし、観客もらんようになっとるけぇど……」


 元に戻っている三人をオレもアスカもリゼも無言で呆然と眺めた。

 オレとリゼの様子に気付いてサアルが顔をしかめる。


「おい、ガウル。これは一体、何がどうした?」

「よかった! サル、元に戻ったンダな!」


 と、サアルに駆け寄って抱き付くリゼ。サアルの顔はどんどん真っ赤になっていく。


「お、おい。なんだというのだっ! というか、俺はサルではない!」

「シェルティも良かッタ!」

「ええ? ちょっとリゼさんってば!」


 リゼはシェルティも引き寄せて抱き締めている。無茶苦茶はしゃいでいるが、とりあえずこれにて一件落着か。


「ガウル、アスカ。ホンマにどうなっとん?」

「事情はまた話すよ……今はマジで疲れてるから」


 手に持ってたフォークを慌てて隠しつつ、オレはオージンに苦笑いで返事をした。本人が忘れているなら、そっとしておこう。

 しかし、なぜかアスカは難しい顔をしている。


「なんだよ、アスカ。何か納得いってないって顔してるな? リゼに変な物を渡した奴のこと考えてるのか?」


 リゼは女の子と言っていたが、その女の子に渡された『謎の植物の種』が全ての元凶だろう。

 目的はこの大会を無茶苦茶にするつもりだったのだろうか、そんなことをする理由もよくわからないけど……


「いや、それもそうなんだけど、リゼのあの技。リゼは戸惑ってたみたいだけど、いざ使ってみたら使い慣れてるような、元々知ってるような感じだったから」

「そういや『我が声に応え』──とか言ってたな。初めて使ったって感じじゃなかったな」


 というか、〈森の祝福〉の『森の』ってなんだろう? 森使国ナンスッドの住人だからか?


「ま、事件は解決したんだし、また改めてリゼに聞いてみたらいいだろ?」

「……さらなる事件の予感……」

「アスカ。頼むから、そういう予言はやめてくれ……」


 頭を抱えてオレはアスカにつっこんだ。本当にオレの気も知らないで……

 とりあえず、しばらくカレーはいいかな……





 ──結局、審査員の記憶や意識がはっきりせず、出場者や観客も逃げてしまったので大会は中止になってしまった。

 リゼは持ち前の明るさを取り戻したが、あのスキルについては詳しく教えてくれることはなかった。

 アスカいわく、リゼとのコミュレベルがまだ足りないとのこと。なんてわかりやすいようで面倒くさいシステムなんだ……



 そして、数日後の早朝──


「今日の朝ご飯は何かなぁ?」


 オレがウキウキでサアルの家の食堂の扉を開く。そこには割烹着かっぽうぎという森使国のエプロン姿のリゼが立っていた。


「おはよう! 今日の朝食はリゼがカレーを作ったゾ! 召し上ガレ!」


 朝から……カレー? というか、そうじゃない!


「なんでまたカレー作るんだよぉ……」

「みんなの好物、カレーだからナ!」

「カレー……嫌いになりそう」


 もう料理はいいです。もう勘弁かんべんしてください……

リゼ編 毒を喰らわば皿まで

           Clear!


  シェルティ編 タデ喰う虫も好き

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