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stage,33 リゼ編⑤

「ダメージが反転して回復してるって、それってどんなに攻撃しても相手を回復させちゃうってこと!?」

「それじゃあ、どうやっても勝てナイ……」


 まさにあの魔人の言う通り。これじゃあオレ達に勝てる方法がない。

 オージンの時も勝てる気はしなかったが、あの時は彼の弱点をついて偶然に特殊な勝利をおさめた。なら、今回も特殊な条件が必要なのか……?

 でも、今回はオレとリゼのふたりしかいないのに、できることなんて限られてるじゃねぇか。


「アハハッ! ようやく気付いたようだね。あんた達がもがけばもがくほど、ワラワの体は逆に癒やされる。ただ、このまま絶望に打ちひしがれるあんた達を見ながら精神的にも癒しを求めてもいいけど、あいにく妾はそこまで暇じゃないのでね……」


 魔人の手に渦巻く黒い霧が集まっていく。

 見たことのない攻撃手段だ。〈ラプソディ〉でオレに引きつけてるからオレに攻撃してくるんだろうけど……


「ダメだわ! ガウル、今すぐリゼを後退させて! あれって無差別広範囲攻撃よ!」

「えっ……。アスカの言ってることはよくわかんねぇけど、リゼ! なんかヤバい。下がるんだ!」


 オレの呼びかけにリゼがこっちに振り向くが、それと同時に魔人が黒い霧をまとった手で地面を殴りつけて叫ぶ。


「──〈旋霧スパイラル〉!」


 殴った地面を中心に、黒い霧が竜巻となってオレとリゼに襲いかかった。

 オレ達の体は軽々と巻き上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。


「大丈夫! ガウル!?」

「いってぇ……けど、オレはなんとか……。無差別広範囲攻撃って、要するに範囲内にいる奴を誰彼構わずふっとばす攻撃かよ。そうだ、リゼはっ!?」


 見れば、オレと一緒にふっとばされたリゼも痛そうな表情を浮かべてよろよろと立ち上がっている。


「無事みたいだけど、リゼのHP、今の一発で半分くらいに減っちゃってる。オージンにもらった〈回復石〉使う? 今、取り出すからガウルからリゼに渡してあげて」


 と言って、アスカはオレの体を操ってカバンをあさりだす。

 が、ちょっと待て。あれって触ったら勝手に回復魔法を発動させるって言ってた気がする。しかも使用回数にも限界があるとか。


「待て、アスカ。先に〈エール〉でオレのHPを満タンにした方がいいんじゃないか? じゃないとオレが〈回復石〉に触った瞬間、回復しちまうだろ?」

「ああ、そうか。ダメージを受けて触ると勝手に回復しちゃうんだっけ。ガウルは私の技で回復できるんだし、もったいないわね。じゃあ、先に〈エール〉を使ってガウルのHPを満タンにしてから──」


 オレにしか効力がないアスカの回復技、〈ヒーリング・エール〉でオレのHPを回復させたアスカは、改めてオレの体で鞄をあさりだすが、何かに気付いたように、ふとつぶやく。


「そういえば、ダメージを受けてて触ると勝手に回復しちゃうこの石を持ったままいれば、あの魔人みたいにダメージを受けた瞬間に回復できるのかしら?」

「は? いや、あいつの場合はダメージを受けてから回復してるんじゃなくて、受けるはずのダメージがそのまま回復に変わってるんだろ?」

「あ、そっか。ダメージを受ける代わりに回復してるってことね。だからリバースってことなのね」

「ん……? いや、待てよ。それって……?」


 あの技の名前は〈ダメージ・リバース〉だった。つまり受けるダメージが反転して回復している。なら、回復されたらどうなるんだ? それも反転するなら……?

 そんなこんなでオレとアスカがモタモタしているうちに魔人がこっちに駆け寄ってくる。


「なんか小賢こざかしいことでも企んでるのかい? だけど、何をしようと妾は倒せない! ダメージを受けないのだから!」


 〈旋霧スパイラル〉という技も再装填時間リロードタイムがあるのだろうか、連発してくる気配はないが、このまま攻撃され続けてたらオレの身がもたない。

 いちばちか、さっき直感に賭けよう。


「アスカ! 一度剣をしまってくれ! 試してみたいことがあるんだ」

「は? どうするつもりよ!」

「いいから、早くしろって!」


 アスカは渋々英雄剣を鞘に収めた。その瞬間、敵の標的がアスカに移る。


「ちょっと! 〈ラプソディ〉の発動中に剣をしまったら私が標的になるの!? 聞いてないわよっ!」


 魔人に駆け寄られてうろたえるアスカ。オレもそんなこと知らなかったが、むしろオレから注意がそれたことは好都合だった。

 オレはリゼに渡すはずだった〈回復石〉を魔人に向かって振りかぶる。


「これでも……くらいやがれっ!」


 アスカに向かう魔人の後頭部を狙って、オレは〈回復石〉を思い切り投げつけた──がっ!

 魔人はくるりと後ろを向いてそれを手で受け止めた。


「こんな石つぶてで不意討ちのつもりかい? 馬鹿にされたもんだね!」

「それがただの石なら単なるオレの悪あがきだったけどな!」


 魔人が握った〈回復石〉が緑色に輝き、魔人の体を光が包む。


「なっ──これはっ!」


 目を丸めた魔人だったが、直後にビクンと体をくの字に曲げてその場に倒れ込んだ。一気に効力が発動したのか、悲鳴すらあげることもなく魔人はビクンビクンと体を痙攣けいれんさせて動かなくなった。


「うわ、倒し方が地味!」


 思わず叫ぶオレ。元が回復魔法であるがゆえか、当然ド派手な爆発とか起こるわけもないんだが。


「……何ガ、起きたンダ?」


 呆然としているリゼ。アスカも何も言わずに目をパチクリとしている。


「あいつが使ってたスキル〈ダメージ・リバース〉は、受けるダメージを反転させて回復してたんだ。つまり、あいつを回復してやれば……」

「そうカ! それも反転してダメージに変わるンダな!」

「そういうこと!」


 リゼは安心して笑顔を見せ、オレもそれに笑顔を返す。オージンの持たせてくれた石でなんとか勝てた。オージンがいてくれたらもっと楽に勝てたんだろうなぁ。


「って、ガウル! あんた、また忘れてるでしょ! 敵は倒されたら黒い霧になって消えるって!」

「へ? ああっ! あいつ、まだ消えてない!」


 倒れた魔人の隣に転がった〈回復石〉は、さっきまでの光を失って黒ずんでいったかと思うと、パキンと割れて砂になった。


「オージン、アレには使用回数ガあるって言っテタ! 限界がきて壊れたんじゃナイカ!?」

「くそ、倒しきれなかったのかよ!」


 状況は一気に悪くなった。もう一度英雄剣を抜いて構えてみたものの、トドメを刺そうにも攻撃したらあいつは回復しちまうし、回復を反転させようにもオレ達にあいつを回復させる手段がない。

 オレ達が何もできないでいると、魔人はヨロヨロと立ち上がり、声と体を震わせる。


「……この魔力は、鬼人特有の……」


 すると、魔人は溢れる怒気を隠すことなくオレ達を鋭くにらみつけた。


「なぜ人間風情(ふぜい)がこの魔力を扱っている! まさか、鬼人が復活したのか……くっ!」


 最後に一瞬、苦虫にがむしをかみ潰したような表情を見せたかと思うと、魔人は翼を広げて飛び去っていった。


「……あれ? 逃げたのか、あいつ」

「みたいね。戦闘も終了したみたいだし、一応私達の勝ちってことでいいんじゃない?」


 アスカはそう言って英雄剣を鞘に収めた。

 でも、なんであいつはオレ達にトドメを刺そうとしなかったのだろうか。大ダメージを受けてたとはいえ、自分で自分を傷付ければスキルの効果ですぐに回復できたはずだし。

 オレ達がまだ〈回復石〉を持ってるかもしれないと警戒したのだろうか……?


「ガウル? 何をぼさっとしてるのよ。とりあえずリゼを回復してあげないと。彼女、ダメージ受けたままよ」

「ああ、そうか。リゼに使うはずだった〈回復石〉を使っちまったんだったな」


 悩んでても仕方ない。退いてくれたならそれでいいか。

 そう結論づけてオレは鞄から回復薬を取り出し、リゼに手渡す。


「すまん。リゼがケガしてるってのに〈回復石〉を敵に使っちまって」

「謝るコトじゃない、お陰で勝てたんだカラ」


 リゼはケガをものともせずに笑ってそう言った。

 さて、まさかの魔人との遭遇だったが、ここからが本題。オレ達は目の前にぽっかりと口を開いた〈技能神スキルしんほこら〉らしき洞窟の前に立つ。


「いよいよ祠ダナ!」

「敵、もう出て来ないよな? もうオレ達、回復手段が限られちまってるし、次も切り抜けられる自信はないぞ……」

「大丈夫でしょ。もうセーブポイントないし」


 オレの不安と心配をよそに、ケロリとした顔のアスカが言い放った。

 誰が置いたかわかんないセーブポイントやらが根拠って、すっごい不安なんだけど……

 でも、本来の目的は祠でリゼの料理の腕の上達をはかること。ここで引き返しても地獄の料理大会で、どのみちオレは死んでしまう。


「……よし。行くか」


 いろいろとあきらめて、オレは先頭をきって洞窟に足を踏み入れたのだった。

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