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stage,32 リゼ編④

 ──例の洞窟はあっさり通過した。この前、手が付けられないほどのラットの大群に襲われた場所だとは思えないほど、平和な道のりだった。


「この調子なら、あっさり〈技能神スキルしんほこら〉に着けそうだな」

「何事もないノガ一番ダナ!」


 だが、オレ達の行く手にポツンと女神像が置かれていた。

 ここは周囲には何もないただの草原の中を延びる細い道の途中。特別な施設もなければ、観光スポットでもない。そう、ただの道。


「えっと……あれってセーブポイントってやつだっけ? なんでこんな所に唐突に置かれてるのかな……?」


 オレは嫌な予感を胸にいだいて声を震わせた。


「ボスよ! この先にきっとボスがいるわ! じゃないと、こんななんでもない所にセーブポイントがあるわけないじゃない!」

「力一杯に自信満々で言いきられても困るわ!」


 強敵ボスがいつ現れるのかわからないのも怖いけど、わかるならわかるでそっちも嫌だ! わかってて突っ込んでいくなんて、どんな肝試しだよ……


「何の話ダ?」

「あ、ああ。アスカが言うには、この先に強敵が待ち構えてるらしい」

「戦女神様は危機を予見よけんデキルのか! さすがダ!」

「いや、予見できるのは女神像を置いてくれた人だと思うぞ……」


 どいつもこいつもアスカをムダに誉め讃えてやがって。アスカは普通の女の子だってオージンが言ってたじゃないか。


「とにかく、この先に強敵がいるってわかってるなら、回り道で避けて進むとかできないのか?」

「できないでしょ。祠は目と鼻の先みたいだし、祠の入り口にいるんじゃない?」

「祠に強敵が潜んでるなんて聞いてねぇし、なんでオレが来るタイミングで強敵が待ち構えてるんだよ。なんか理不尽な罠にハメられてる気がするんだが……」

「ガウル。大丈夫ダ、リゼもついてるゾ」


 自信満々に胸を張るリゼ。オレには不安しかないが、安全な料理を求めてリゼのために進むしかないのか……

 覚悟を決めて先に進むと、山肌にぽっかりと口を開いている洞窟が見えた。


「あの洞窟が祠の入り口か?」


 オレがそうつぶやいた瞬間、上の方から女の声が響く。


「おやおや、こんな所に人間がいるじゃないか」

「ガウル、上ダッ!」


 リゼに言われて空を見上げると、そこにはコウモリのような羽根を羽ばたかせ、空を舞う人ならざる者の姿があった。


「って、おいおい! 強敵って魔人かよっ!」


 そう、あれは魔人。魔族の一種族で鬼人のオージンとは別種族。シューレイドの街で見かけて以来、ここ最近は見ていなかった。

 しかも、あの魔人は女の姿をしている。魔人にも女はいるようだ。

 コウモリのような羽根と青い肌と、羊のように巻いた角は男と変わらないようだが、なめらかに曲線を描く細い体のラインと、大きな胸は人間の女と一緒。

 男女の見た目の違いは人間に似てるんだな……


「……胸がデカい。アスカにケンカ売ってるな……」

「はあ? どっちがケンカ売ってるのよ……ガウル?」


 ヤベッ、うっかり声に出しちまった。アスカの敵視がオレに向く……

 ここは無視して話を進めてごまかそう!


「──おい、魔人! なんでこんな所にいる!」

「あんた達に話す義理はないね!」

「じゃあ、話さなくていい。オレ達はそこの祠に用があるだけだから、ここは通らせてもらうぜ!」


 オレが魔人を全力でスルーしようとすると、アスカがオレの肩を掴んで引き止める。


「ちょっとガウル! 戦わないつもり!?」

「バカかよ。今は戦闘要員はオレとリゼのふたりだけなんだぞ? シューレイドの時はシェルティもいてあれだけ苦戦したっていうのに、ふたりで戦うなんて無茶にもほどがあるだろ」

「それはそうだけど……」


 まだ何か言いたげなアスカを無視して歩きだすと、魔人は祠の入り口に着地してオレ達を指差す。


「通すわけにはいかないね。ワラワがここにいると知られたからには、生きて返すわけにはいかないのさ」

「お前のことを知るために来たんじゃないっての!」

経緯けいいなんかどうでもいいさ。姿を見られたという結果は変わらぬのだから」

「理不尽な! そっちが勝手に姿を見せたんだろ!」

「では、死ね」

「話を聞けっ!」


 ダメだ、あの魔人。アスカ並みに話を聞いてくれない!


「くそ! アスカ、リゼ! 戦うぞ!」

「承知シタ!」


 リゼは短刀ダガーを構え、オレも英雄剣を抜いた。

 まずはアスカに〈ラプソディ〉を使ってもらって、魔人の注目をオレに集中させるいつもの戦法でいくしかない。これでどこまでもつか……


「〈ダメージ・リバース〉!」

「へっ?」


 アスカが〈ラプソディ〉を使うと同時に魔人が何か魔法を唱えた。しかし、一瞬だけ魔人の体が紫色に光っただけで何も起こらない。


「攻撃魔法じゃない? でも、なんだ……さっきの技……」

「ふふっ。これで、あんた達に勝ち目はないよ」


 二本の短刀を構えた魔人が〈ラプソディ〉の効果でオレに向かって突進してくる。でも、それはオレ達の戦法だ。オレが敵を引きつけてる間にリゼが威力の高い暗殺剣で仕留める。

 この魔人も、あっさりオレ達の術中じゅっちゅうまってくれたが、なんだろう……この胸騒ぎは。

 オレと向かい合って武器を振るう魔人の背後に、瞬間移動でリゼが現れた。


「〈影絶エイゼツ〉!」


 リゼの多段攻撃は魔人の隙をつき、全てクリーンヒットした。こいつは厄介な物理攻撃用の〈パッシブ・ガード〉のスキルを持っていないようだ。

 もしかしたら、これって楽勝?


「あれ……? ガウル、なんか様子がおかしいわ!」


 余裕の笑みを浮かべていたオレだが、アスカは反対に焦りだす。リゼの攻撃をくらったはずの魔人は、まるで何事もなかったように立っていた。


「おかシイ……。確かに手応えはあったノニ、傷をつけられナイ……」


 リゼが呆然としている。リゼの攻撃は何かバリアーに阻まれたわけでもなく、確かに魔人の背中を()()()()()

 なのに、魔人は血を流すどころか、肌すら斬られていない。

 あきらかに動揺を見せるオレ達に魔人は不敵に笑う。


「だから言っただろう? あんた達に勝ち目はないってね!」


 魔人の手から放たれた黒い弾がオレの足元で爆発して、オレは地面に転がった。


「クソッ……またこのパターンかよ」


 英雄剣の力で普通より体が丈夫になったオレは、吹き飛ばされてもあまり痛みを感じないが、敵に攻撃が通らないんじゃ、どのみち勝ち目はない。


「とにかく、いろんな攻撃をしてみるしかない──〈ヒロイック・スラッシュ〉!」


 〈スラッシュ〉で飛ばす斬撃は魔法攻撃扱い。ならば、と思って使ってみたが──


「あいつ、避けない!?」


 不敵に笑ったまま魔人は斬撃の直撃をくらう。


「だから、ムダって言ってるでしょ? 何度も言わせるんじゃないよ!」


 魔人はオレ達をさげすむようにそう言って笑った。


「すっげぇムカつくんだけど、どうなってやがる……」

「回復してる……」


 アスカがぼそりとつぶやいた言葉に、オレは驚いて聞き返す。


「回復って、どういうことだよ?」

「わかんない。だけど、普通なら攻撃を受けたらダメージをくらってHPが減るでしょ? でも、あいつ回復してるのよ!」

「それって……。そういえば、さっきの技! ダメージ・リバースって言ってなかったか!?」


 リバースは逆転とか反転って意味だったはず。ということは──


「くらったダメージが反転して回復してる……のか?」


 オレの言葉にアスカもリゼも目を丸めた。

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