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stage,31 リゼ編③

「オレも今、初めて知った大会だけど、なんでリゼが出場することになったんだよ……」

「すまん。研究所でチラシを見かけて、わしがエントリーしてしもうたわ」


 と、気まずそうに苦笑するオージン。なんて余計なことをっ!


「いや、なんでオージンが!?」

「リゼがガウルのために料理の練習しとるって聞いとったから、ちょうどいいと思うての」

「何がどうしてちょうどいいんだよ?」

「じゃって、ほら。一番下、よう見てみぃ」

「一番下?」


 オレはチラシの一番下に目をやった。そこにはこう書かれていた。

 ──『今年は特別審査員として、あの〈戦女神の英雄〉のガウル様もいらっしゃいます(予定)』。


「き……聞いてねぇよっ! よく見たら開催の日付、明後日じゃん!? なのに今日までオレは何も聞かされてねぇっておかしいだろ!」

「まあ、ガウルって英雄のくせにいつも暇そうにブラブラしてるから、当日に頼んでも大丈夫って思われたんじゃないの?」


 半笑いのアスカがそう言った。いや待てそれ、そんな無職の遊び人みたいな扱いするなよ。オレってこの国の──いや、この世界の要人ようじんだよね? そうだよねっ!?


「大体、機界人が復活して世界存亡の危機って時に、なんて平和ボケした大会を開いてるんだよ! この国はっ!」

「毎年恒例行事なのだ、仕方あるまい。ただ、近年は集客も減ってしまっていて、だから広告塔としてガウルに白羽の矢が立ったのだろうな」

「そんなんだったらさっさとやめちまえっ!」

「まーまー、落ち着きんさいや。『鬼の居ぬ間に洗濯』ってことわざ知らんの? 平和なことは平和なうちにやっとかんと、したくてもできなくなるかもしれんけぇの」


 いつものことながらヘラヘラ笑ってオージンがフォローしているが……


「言いたいことはわかるけど、鬼のお前に言われたら、すごい説得力がないんだけど……。つーか、お前ら何が何でもオレを引っぱり出す気だな……」

「というカ……ガウル。どうして、そんなに何が何デモ出たがらないンダ? まさか、リゼの料理を審査したくないノカ? さっき励ましてくれた言葉ハ、嘘だったノカ……?」

「うっ……」


 疑問符とともに背後から突き刺さるリゼの殺気。何……この八方塞がり……

 アスカはいつも通り、横で爆笑中。


「ウケるわー!」

「ウケるな! アスカもどうするべきか考えてくれよ!」

「どうするべきって、結局はリゼの料理スキルにかかってるんでしょ。だったら明日中にレベル上げちゃえば失敗しにくくなるんじゃないの?」

「な、なるほど」


 アスカが珍しくまともな意見を言った。

 オレの身体能力も『レベル』として数値化されてるなら、リゼの料理の腕前も同様に数値化されているということか。

 いや、でもレベルなんて明日中に一気に上げられるものなのだろうか? 前にラットをいっぱい倒しても大して上がらなかった記憶がある。


「料理の場合、具体的にどうすればレベルは上がるんだ?」

「手っ取り早く上げるなら『技能神スキルしんほこら』に行ってみてはいかがでしょうか」

「技能……神?」


 シェルティの提案にオレは首をかしげた。全く聞いたことがないフレーズだ。


「〈技能神の祠〉で神様に祈りを捧げると、ある程度スキルを上達できるんです。どれくらい上がるかは、人によって違ってくるそうですが」

「神頼みって、大丈夫なのか……それ。でも、時間がないし、それに懸けるしかないか。それで、その祠はどこにあるんだ?」

「この前、ブラック・ラットの大群に襲われたあの洞窟を抜けて、さらに西に行った場所にあると聞いています」


 この前、街の人の依頼でモンスター討伐に向かったあの洞窟の先か。あそこなら距離も遠くないな……


「一度行ったことがある場所の近くなら迷う心配もないな。よし! リゼ、明日行こうぜ。その祠に!」

「ガウル……。そこまで一生懸命になってくれるナンテ……リゼ、うれしい。さすがリゼの未来のダンナ様ダナ!」


 ……いや、このままじゃ大会でうっかり毒殺されそうだし……


「明日は大学院でどうしても外せない授業がありまして、わたくしは同行できませんね。ごめんなさい」

「儂も明日はサアルや他の騎士らと会議の予定じゃったの。機界人再封印への進捗しんちょく会議ってやつじゃ」

「ああ。明日のオージンの見張りは俺が引き受けるから、ガウルもリゼも手は空くだろうからちょうどいいが……」


 シェルティとサアルとオージンが予定があって来られない。あれ、それってつまり?


「オレとリゼの二人きりかよ……」

「二人きりのデートですね! ごゆっくりお楽しみください」

「何を楽しめと? そもそもアスカもいるから二人きりでもなかったな……」

「ということは三角関係ですかっ!」

「……シェルティ。そろそろ黙ろうか……」


 興奮気味にどんどん話をあらぬ方向に進めていくシェルティ。

 リゼとアスカの三角関係って、命がいくつあっても足りないと思うんだけど。想像するだけで身の毛が弥立よだつ……


「なんで私の顔見て震えてるのよ、ガウル?」

「ああ、いや。なんでもないんだ……」

「よかったじゃない。これで成功すれば、リゼの好感度が一気にアップするかもよ?」

「そ、そうだな……」


 アスカの言動から察するに、アスカはオレとリゼの仲を深めようとしてくれている様子。どうやら三角関係になる可能性は低そうだ。でも、逆になんか企んでそうで怖い……

 この状況でアスカがオレに干渉してこないわけもないし、嫌だなぁ……明日、祠まででかけるの……





 ──翌日、オレとリゼは朝一で〈技能神の祠〉を目指すことにした。

 それを見送るようにオージンが玄関で待っていてくれた。


「おはよう、オージン。お前とサアルはもう少しあとでも大丈夫なんだろ? 見送りなんてよかったのに……」

「いや、あんたら二人だと回復要員がらんじゃろ? じゃけ、これを渡そうと思うての」


 と、オージンが取り出したのはまた魔法石のようだ。ただし、それは昨日の青い洗濯魔法石と違って緑色だった。


「これハ……なんダ?」

「それは『回復石かいふくせき』とでも呼んどこうか。儂の回復魔法が入っておってな、体力が減ったら触ってみんさい。勝手に回復魔法が発動して回復してくれるけん」

「へぇ! そいつは便利だ。それもオージンが作ったのか?」

「まあ、そうじゃ。あの洞窟のモンスターは大して強くなかったけん、使う機会はないかもしれんけど、回復アイテム使うよりは楽じゃけんの」


 オージンの気配りが心に染みる。アスカも含めてオージンが一番まともなオレの仲間な気がしてきた……

 オージンは鬼なんだけど。オレの周りって鬼より怖い奴らしかいないし……


「あ、そうそう。その回復石もまだ試作品での。十回くらい使つこうたらげてしまうんよ。それに、ちょっとのケガでも大ケガでも一回は一回じゃけ。ムダ遣いしたらすぐげるけんね? 使い時は考えんさいよ」


 要するに、HPたいりょくが少しでも減っていると、触った瞬間に一回分の魔法を使用してしまうということか。

 十回しか使えないなら、ここぞという時に使わないと、確かにもったいないな。


「ちょっとでも回復魔法が必要な状態だと判断しタラ、触ると勝手に魔法を発動さセルのか。すごい道具ダ」

「感度をよくしすぎてしもうての。でも、調整する時間がなかったんよ」


 リゼはオージンを誉めているが、オージンは苦笑していた。

 アスカはオレの横で話を聞いていたみたいだが、ちゃんとわかってて聞いてるのだろうか?


「──ということだ。アスカ、今の話は理解しただろう? ムダ遣いするなよ?」

「わかってるわよ。アイテムじゃ回復量は低いし、私の技の〈エール〉はガウルにしか使えないから、慎重に使うわよ」

「まあ、オージンも言ってたけど、あの洞窟のモンスターは弱いし、ブラック・ラットに絡まれてこの前みたいな状況にならない限り、回復石の使いどころは無いかもしれないけどな」


 ラットを見かけたら逃げよう。この前のように仲間を呼ばれて大群になられても困るから……


「じゃあ、リゼ。行こうぜ」

「承知シタ!」

「ほんならな~、気ぃつけんさいよ~」


 気の抜けた口調でぱたぱたと手を振ってるオージンに見送られ、オレとアスカはリゼと一緒に〈技能神の祠〉を目指す!

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