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stage,20 第五話③

「あれがキジン、『生きとし生けるもん全ての敵』じゃ……」


 宙に浮かぶ人型の機械を見上げて鬼人がつぶやいた。これまでの余裕はなく、少し震えているようだった。

 直後、人型の機械が床に降り立つと激しい突風がオレ達に吹き付ける。転びはしなかったが、その風は熱を帯びていたからか肌がヒリヒリと痛む。床に散らばってたウニも全て部屋のすみに吹き飛んでいってしまった。

 そして、オレはそいつが床に仁王立ちしたまま動かなくなったことを確認してから鬼人に問う。


「あいつが……キジン? 待てよ! 鬼人はお前だろう!」

「ちゃう。わしは鬼の人と書いて『鬼人きじん』、奴らは機械の人と書いて『機人キジン』じゃ」

まぎらわしいわっ!」


 同音異義語かよ。わざわざ同じ音の名前を名乗るなよ……


「ですが、生きとし生けるもの全ての敵というのは?」

「機人は『無機物むきぶつ生命体せいめいたい』。色々矛盾(むじゅん)しとるように聞こえるかもしれんが、機人の狙いはこの世から有機物ゆうきぶつ――要するに人間も鬼人も、とにかく生きもん全部を消し去ること……」


 鬼人の説明にオレ達は息をのんだ。でも、とりあえず言いたいことがある。


「鬼人機人って言われても、何が何だかわからないぞ!」

「やかましいわ! ほんなら便宜的べんぎてきに儂を鬼人、機人あっちを『機界人きかいじん』にしちゃる。それでええじゃろ!?」

「ああ。で、つまり機界人は世界を滅ぼそうとしてるヤバい奴だと?」

「ヤバいとかの問題じゃねぇ。命あるもん全部消そうとしょんじゃぞ? じゃから、儂が体を張って封印しとったのに、封印が解けたんはあんたらが儂をいじめたせいじゃけんな!」


 キレる鬼人。いじめたって、そういうつもりで戦ってたんじゃないんだが。

 何か隠してるとは思ってたけど、こいつ、そんな大変なことを隠してたのかよ。


「それならもっと早く言えよ! 早く言ってくれてたら――」

っとったら、信じて素直に帰ってくれとったん?」

「うっ……」


 かぶせ気味に返ってきた反論は痛いところを突いてくる。まあ、たぶんオレ達は信じずに戦ってただろうな。結果的には同じ事態になってたか……


「もう一度、封印できないノカ!」

「封印の首飾りもげてしもうた。すぐに封印し直すんは無理じゃ」


 砕けて消滅した首飾り。あれを使って封印してたなら、確かにもう一度すぐに封印し直すのは無理そうだ。


「では、倒すしかないのだな」

「アホか。倒せるんじゃったら元々封印せずに倒しとるわ」

「おい、それって倒せないってことかよ!」

「あいつは殺すと大陸ひとつ吹き飛ばすくらいの爆発を起こす。じゃから、倒すなんて無理じゃ。あんたらホンマになんもかんも全部忘れしもうとるんじゃな。呆れるわ」


 呆れ顔でも口調は真剣に言い切る鬼人。ようやく事態のヤバさを理解したオレ達は揃って顔面を蒼白させる。


「大陸ひとつをって……なんだよ、それ! 確かにオレ達は機界人について何も知らないし、どうすりゃいいんだよ……」


 なぜか機界人はすぐに動きだそうとはしないが、このまま見ているわけにもいかない。困った……

 しばらくオレやアスカを交互こうごに見ていた鬼人は、「ハァ……」と大きく溜め息をついてから続ける。


「……じゃけど、弱らせりゃ儂の魔法で捕縛ほばくできるはず」

「なら、戦って弱らせれば捕まえられるのか!」

「そうじゃ。あいつは今、封印が解けたばぁで再起動しょーる途中じゃろうから、まともにゃ動けんはず。今のうちに体勢を立て直して畳みかけんさい!」


 なんか親身しんみにアドバイスをくれる鬼人。でも、やっぱりなまりが強すぎて困る。ばぁってなんだ、ばぁって。


「ガウル、さっきの突風で全員ダメージを受けてるわ。まずは回復しないと!」

「わかった。サアル、皆の回復をしてくれ!」

「承知。だが、全員となると時間が……」


 そうだった。サアルは一人ずつしか回復できなかったんだ。


「はあ? 一人ずつ回復する気か? あんたら、まさか回復専門員ヒーラーらんの!?」

「そうだよ、悪かったな!」

「あんたら、アホか。大馬鹿者おおあんごうか! ヒーラーも連れんでこんなとこまで来て、本気で儂や機界人を倒す気だったん? 世の中ナメとん?」


 オレ達をビシビシ指差しながら、ずいっずいっと詰め寄ってくる鬼人。近くで見ると目が金色に光ってて怖いです。


「まあええ、ほんなら儂を仲間パーティに加えんさい」


 鬼人の提案にオレとサアルが揃って「は?」と声を漏らす。脳が聞き漏らせと命令を下したかように、言葉が理解できなかった。


「なんじゃい。儂はこう見えてヒーラーじゃ。回復しちゃるけぇ、はよしんさい」

「お、鬼なのに回復魔法使えるのかよ!」

「使えるわ! 使えちゃ悪いんか!?」


 悪くはないがそんなイメージはない。そういえば、こいつから攻撃してこなかったのは、こいつがヒーラーで攻撃手段がなかったからだったのか? そりゃ〈ラプソディ〉も意味を成さないわ。


「って、じゃあ攻撃魔法は使えないのかよ!」

「攻撃魔法が使えるんなら、こんなことは頼みゃあせん! あんたらほったらかしてさっさと儂だけでどうにかしとるわ。それができんけん、こうして頼みょんじゃ!」

「まともに攻撃できない鬼って……」


 こいつ、実は相当ビミョーな鬼なんじゃなかろうか。さっきまで怖がってた自分がどこかいっちゃったぞ……


「待て! 俺は反対だ。魔族を仲間に加えるなどあり得ん! 口では都合のいいことを言って、腹ではよからぬことをたくらんでるに違いない!」

融通ゆうづう利かんっちゃなぁ! ほんならあれ見てみぃ!」


 と、あくまでも反対の姿勢のサアルに、鬼人が指差し示したのは機界人の胸。

 機界人の体は全身が白い金属でできているが、胸にだけ金色の紋章が輝いていた。それはどこかで見たことのある幾何学模様きかがくもよう


「ちょっと、ガウル。あれってサアルに見せてもらった銃の紋章よ!」

「本当だ。サアルの銃の紋章だ!」

「な、なぜ……機界人の体に、この紋章が……」


 銃を持つサアルの手が声とともに震えていた。

 そういえば考え込んだことがあったな。銃を作ったのは誰だ、と。


「まさか、銃を作ったのは機界人だというのか。それならば、なぜ人間がそれを使っている! 機界人のことなど誰も知らないのに!」

「どうせ都合悪いことは全部忘れしもうたんじゃろ」

「都合悪いこと?」


 肩をすくめる鬼人にオレはオウム返しする。オレ達が機界人や銃の秘密を忘れてしまったのは、意図的なものだったのか?


「昔、人間は()()()()()()をしとったんじゃ。機界人とともに儂ら鬼人や魔人を滅ぼすためにな。一方の機界人も数が少なかったから、機界人だけで鬼人や魔人を滅ぼすことはできんかったんじゃ」

「利害が一致して同盟を組んだのか。その時に人間は銃を与えられたんだな」

「そうじゃ。そして、形勢は見事に人間機界人同盟の方に傾いた。するとどうじゃ、機界人は人間を裏切ったんじゃ」

「機界人は最初から人間も滅ぼすつもりだったんですね……」

「生きとし生けるもの全ての敵ナラ、人間の味方するのは変だしナ」


 シェルティとリゼが察した通りだったのか、鬼人はうなずく。


「結局、人間は機界人にいいように扱われとったこまじゃったんじゃ。そんな恥ずかしい過去じゃけ、さっさと機界人のことも銃の秘密も忘れてしもうたんじゃろうな」

「じゃあ、なんでお前が機界人を封印してたんだ? 人間は鬼人の敵だったんだろ?」


 機界人を封じれば鬼人のためにもなるけど、人間を助けることにもなる。現に今、この世界に鬼人はこいつしかいない。ということは、機界人がこいつに封印されたあと、他の鬼人は人間に滅ぼされてしまったに違いない。たぶんそれがオレ達の知る『戦女神の英雄の伝説』だ。

 形勢が傾いてたならそうなる予測はついてたはずなのに、どうしてこいつは自分の身を犠牲にしてまで機界人を封印したんだろうか。


「確かに鬼人は人間の敵じゃ。でも言うたじゃろ? 儂にもプレイヤーがそばについとったって。そのプレイヤーも人間じゃったから、儂は人間を助けるために動いとったんじゃ」

「お前にもアスカみたいな奴が……。って、どういうことだよ。アスカ?」

「知らないわよ。これはオンラインゲームじゃないからプレイヤーは私しかいないはずだし。でも確か、『前作』で鬼の主人公がいたはずよ。まさか、その時の記憶を引き継いでるの? なんのためにそんなこと……」


 前作? 引き継ぐ? 相変わらずよくわからん話をするアスカ。

 でもこの鬼人、オレと同じ境遇きょうぐうで人間の味方みたいな口振りだが、やっぱり納得はいかない。


「だったらなんでアスカを狙ったんだよ」

「儂が機界人を封印できたんはプレイヤーがもたらす『キセキの力』のおかげ。その力は万能じゃ。キセキの力の封印を解けるのも『キセキの力』しかない。じゃから、プレイヤーの存在が邪魔じゃった。放置したら機界人の封印を解かれると思うたけぇな……」


 確かにアスカと英雄剣の力は奇跡と呼べる。できないこともできるはずだ。しがない自警団員だったオレが伝説の英雄になれたのだってそうだろう。結局、機界人の封印を解いてしまったわけだし。

 この鬼人もそんな力を使って、あの機界人を封印していたのか。こいつはオレやアスカすら知らない色々なことをまだまだ知っていそうだ。だったらここはやっぱり言う通りにするのが最善か。


「アスカ。オレはこいつを仲間にしてもいいと思う」

「私はいいわよ」


 笑顔で即答するアスカ。絶対に何も考えてないだろ。まあいいか、アスカの清々(すがすが)しさにはもう慣れたし……


「じゃあ、こいつに仲間になってもらうぜ」

「ガウル! 貴様、正気か!?」

「ヤバそうだったらシェルティにウニを出してもらって、ウニ風呂にでも突き落としとけばいいだろ」

「何、その拷問。鬼か、あんたら鬼じゃろ!?」

「鬼はお前だっつうの!」


 ま、普通の人間でもウニ風呂は拷問だけど。


「まあ、ええわ。ほんならよろしゅう頼むわ。儂の名は『オージン』じゃ」

「俺はまだ認めたわけでは……」

「サアル。アスカからのお願いでも聞けないのかよ」


 必殺・アスカからのお願い。これで落とせないサアルではない。

 案の定、サアルはビシッと敬礼する。


「承知。ウニ風呂の手配は任せろ!」

「なんかフクザツな気分じゃが……。まあええ、のんきに話しとる暇はない。さっさと回復いくで!――〈リザレクト・ウイング〉!」


 あっさり詠唱を終えて鬼人――オージンが声を発すると、彼の背中から羽根のように白い光が吹きだし、オレ達の体を包むと一気に体が軽くなる。


「さらに攻撃強化(バフ)――〈オフェンシブ・ビート〉! もひとつ守備強化――〈ディフェンシブ・ビート〉!」


 妙なノリで魔法を唱え続けるオージン。様々な光がオレ達を包み身体が強化された気がする。


「すごい。力が湧いてくる……けど、鬼に回復支援されてるのがなんか嫌だ」

「使うんが女でも鬼でも魔法の効果は変わらんよ?」


 いや、気分の問題なんだけど……

 サアルは明らかに気分よさげに銃を構える。


「確かに鬼人の助けを借りるなど俺もしゃくではある。しかし、今ならいける!」


 と自信満々に放たれた魔法弾だったが、機界人の姿がスウッと消えて、それは虚しく壁に当たった。

 何が起きたのかわからずに、アゴが外れるくらいあんぐりと口を開いて落ち込むサアル。


「おえん! ほれ見ぃ、モタモタしょーるけぇ再起動終わっちもうたが!」

「あれハ……〈霧幻ミラージュ〉! シューレイドの魔人と同じ技ダナ!」

「そうじゃ、よう知っとるの。奴は次に姿を見せた瞬間、()()()()一直線上にレーザー砲を放つ。避けんと体が蒸発するで!」

「次、どこに現れるんだよ!」

「無差別なんじゃから、んなもん知らんわ」


 キョロキョロと辺りを見回すオレにオージンはあっけらかんと答えた。


「知らんって――」

「来たで! いぬいの方角!」

「イヌイってどっちだよ!」


 そう言いながらも、オレ達にも機界人が部屋の左奥に現れたのが見えたから回避する。だが、オージンの言葉に惑わされたのか、シェルティが逃げ遅れてしまった。

 するとオージンが素早く駆け寄り、シェルティを片手で脇に抱えて跳び退く。


「嬢ちゃん、モタモタしすぎ!」

「うっ。助けていただいたのですが、鬼さんに抱えられてるのは助かった気分がしないです……」


 ちょっとした幼女誘拐事件の現場を見た。しかも犯人は露出狂ろしゅつきょう

 そして、機界人は砲撃後すぐに姿を消した。


「おい、あれじゃ攻撃できねぇだろ!」

「レーザー砲を撃つ前に攻撃を当てればひるむはずじゃ! 一度過去に戦っとるけぇ、行動パターンは読める!」

「姿を見せると同時にレーザー砲を撃つのに、どうやってその前に当てるんだよ!」


 すると、真剣な面持おももちでその話を聞いていたリゼがつぶやくように答える。


「……わかッタ。いけるカモしれなイ」

「リゼ? 目を閉じて何を!」


 目を閉じて深呼吸したリゼの姿がフッと消えた。そして、何もない場所に瞬間移動する。それと同時に機界人がその場所に現れた。


「〈刺蜂殺シホウサツ〉!」


 リゼの攻撃は見事に当たり、機界人が膝を突いて倒れ込む。


「今じゃ! 畳みこめぃ!」


 オージンのかけ声とともにオレ達は皆で機界人に攻撃をしかけた。

 オレは英雄剣を振るい、リゼは怯ませたあと続けざまに斬り刻む。それがやむと同時にシェルティの魔法とサアルの魔法弾が激しく爆発した。そうしておのおのが数回攻撃を当てると、機界人は再び消えてしまう。


「また逃げた! でもリゼ、お前どうしてあいつの場所がわかったんだ?」

「『音』だ。あいつ、体からウィィーンって聞いたことない音をだしテル。すごい耳障みみざわりな音ダカラ、嫌でも現れる場所わかるゾ!」

「あいつ、機械だから排熱ファンでもついてるのかしら」


 リゼには聞こえないのに真顔でうなずいて答えるアスカ。また謎単語を発してるが今は無視。


「そうか。すごいな、リゼの耳にはまた助けられたぜ。次も頼む!」

「お安いご用だ。リゼ、頑張ルッ!」


 そのあとも同じ要領でオレ達は機界人を追い込んでいく。〈パッシブ・ガード〉のようなスキルを持っていないのか、驚くほど戦いやすい。これならいける――と誰もが確信する。


「忍び姉ちゃんもやるのぅ。儂と戦うんは相性が悪かったようじゃが、かなりの腕利きじゃな」

「まだまだダ。ガウルに相応ふさわしい女になるため、目下もっか修行中ダ!」

「……まだそれ言うのね……」


 その話、今後どうしよう……。その前に、機界人をどうにかしないとどうしようもないんだけど。

 そして、シェルティが長杖ロッドに激しい緑色の光を灯してリゼに言う。


「リゼさん! 次に怯ませたらすぐに退避してください。わたくし、大きいのぶちかまして差し上げます!」

「わかったゾ!」


 ぶちかまして差し上げるって……。シェルティ本気の殺戮さつりく天使モードか!?

 約束通りにリゼが〈影絶エイゼツ〉で機界人を怯ませて退避すると、シェルティは力一杯に叫ぶ。


「――〈デストロイヤ・ゲイル〉!」


 ドンッと爆発音を響かせて長杖から放たれた突風が、機界人の胸をへこませ、その巨体をも吹き飛ばして壁に叩きつけた。

 しかし、反動でシェルティも後ろに吹っ飛び、オージンのみぞおちに頭突きしつつ一緒に倒れ込む。


「痛いわ……嬢ちゃん、なんしょんよ……」

「うう、また鬼さんに捕まってしまいました。屈辱です……」

「自分から飛び込んで来といてそりゃないわ!」


 シェルティの魔法は誰かを巻き込むか自滅するか、どっちかしかないのだろうか。でもよかったぁ、オレ、真後ろにいなくて……


「ガウル、見て! 機界人の様子が変よ!」

「えっ……」


 アスカが指差す先を見れば、壁際に倒れ込んでいた機界人の体の色がどんどん変色している。


「おい、鬼人! 奴の色が白から赤へ変わっている! あれは一体どういうことだ!」

「ホンマにやかましい奴っちゃな。ありゃあダメージをくらって攻撃パターンが変わる合図。ここからがいわゆる本気モードじゃ!」

「本気モードって……」


 すごくヤバそうな響きなんですが……それ。

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