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stage,19 第五話②

 放たれた銃弾はまっすぐ鬼人の胸に当たった。しかし、爆発もせずにポロッと床に落ちてしまった。


いてぇのぅ、いきなり何すんじゃ!」


 銃弾が当たった場所をポリポリと掻きながら鬼人が怒る。全然、痛くなさそうなんですが……


「銃弾が効かない!? やはり豆鉄砲ではないからか……」

「違うだろ。絶対違うだろ!」


 アスカを疑う勇気って必要だと思うんだ。


「鬼人の肌は鋼鉄よりも硬いといわれていたが、本当だったのか。しかし、魔法弾が爆発しないのはなぜだ……」


 呆然としてるオレ達を鬼人はあわれむように眺めている。


「その武器、何も知らずに使つこうとるようじゃな。皮肉なもんじゃ……」

「何の話だよ! お前、銃に詳しいのか!」

「さぁて、どうじゃろうか? 愚かな人間さんは知らんでもええことじゃ」


 あいつ、絶対に何か隠してるけど話を聞ける状況でもない。アスカが〈ラプソディ〉を使っても、オレに向かって来るどころか一歩も動こうとしない。あいつにも効果がないのか……?


「武器が効かないなら魔法はどうですか!――〈スラッシュ・カーラント〉!」


 いつぞやのようにシェルティが不意討ち気味に叫ぶ。しかし、鬼人に向かう水流は途中でフッと消えた。何かバリアにはばまれたわけでもなく、まるでなかったことのように跡形もなく消滅した。


「魔法が消えた……だと」


 サアルをはじめ、オレ達は目を丸める。

 何が起こったのか理解したシェルティは、顔面を蒼白させている。


「〈マジック・キャンセラー〉です……。自分の魔力より弱い者が発動させた魔法を強制的に無効化する魔法です。恐らく、サアルさんの魔法弾が爆発しなかったのも、そのせいだと思います……」

「嬢ちゃん、よう勉強しとるのう。でも、そんならわかるじゃろ? 魔族わしらに魔力で敵う人間なんからんってな?」


 オレ達は絶句した。武器も効かない、魔法も消される。なら、どうしろっていうのか。こんなパターンな敵ばっかりで嫌になってくる……

 しかし、まだ何か手はあるはずだ。その思いは皆も同じだったようで、オレ達はあきらめない。


「――〈刺蜂殺シホウサツ〉!」


 鬼人の背後に瞬間移動したリゼが短刀ダガーを突き立てるが、刃は通らずに肌には傷ひとつついていない。


「チクリともせんぞ?」

「そんなっ、リゼが使える一番強い技ガ……」


 リゼの方へ振り向きもせずに、鬼人はオレの方を見たまま太い尻尾をムチのようにしならせて、背後のリゼをその尻尾で弾き飛ばした。


「――〈ディバイン・ブレイド〉!」


 間髪かんぱつれず、サアルが放った光魔法もスッと消えてしまう。鬼人は大あくびしながら無精ヒゲだらけのアゴをさすっている。


「アスカ! あれやるぞ、〈スワロゥ〉だ!」

「う、うん。わかったわ!」


 鬼人に駆け寄り、オレは叫ぶ。〈スラッシュ〉と〈ステップ〉の複合技――


「〈ヒロイック・スワロゥ〉!」


 光を放つ英雄剣を目にもとまらぬ速さで振り抜いた――はずだった。しかし、剣の刃は手の甲で受け止められてしまった。


「こいつ、素手でっ!」

「魔法剣も無力化されちゃあ、ただの剣。ただの剣じゃあ、儂の肌は斬れんぞ?」


 鬼人はその場で一回転ターンして、尻尾でオレの体を殴り飛ばした。

 仰向けに転ばされても痛みは少ないが、それ以上に絶望感がつらい。ことごとく何も通じない。


「くそっ……どうすりゃいいんだよ」

「どんなに足掻あがいてもムダじゃって。さっさとあきらめんさいな」


 鬼人がなぜ余裕そうにしていたのか、ようやくわかった。あいつはオレ達が何もできないっと知っていたのだろう。負けない自信ではない、負けない確信があったんだ……


「ガウル、しっかりして! なんとかできるはずよ、今までそうだったじゃない!」


 心が折れかけたオレを励ますように響く声。今ほどアスカの声が優しく、力強く聞こえたことはない。

 鬼人はそのアスカを冷たくにらんでいた。そういえば、あいつ、なぜかアスカを狙っていたが――


「しまった! アスカ、逃げ――」

「え……」

「姿が見えるんなら()()()()()もできるんじゃで?」


 オレが気付いた時にはもう遅かった。一直線にアスカに駆け寄った鬼人はアスカの胸ぐらをつかみ、片手で高々と持ち上げた。

 アスカは床から離れた足をジタバタと動かす。


「ちょっ、な、何!?」

「儂が用があるんは、女、あんただけじゃ」

「オレの体まで動かないっ……」


 アスカが捕まったせいか、英雄剣を構えたままのオレの体は、石像になってしまったように動かなくなった。

 サアル達には、鬼人が何もないのに何かをつかみ上げているようにしか見えていないと思うが、すぐにアスカが捕まったことを理解したようだ。でも、手を出せずにいる。理解できてもアスカは見えず、下手に動いて状況を悪化させることをためらっている様子だ。


「アスカを放せ!」

「必死じゃのう。こいつ――アスカっていうんじゃな。で、あんたはアスカのこと、ホンマに戦女神とでも思っとるんか?」

「な、何の話だよ!」

「アスカの正体の話じゃ。こいつは『プレイヤー』じゃろ?」


 鬼人の言葉の意味がわからず、オレは眉をひそめた。アスカは驚いて体を硬直させる。


「な、何を言ってるのよ……」

「プレイヤーは、この世界の次元の外から干渉かんしょうし、この世界の運命を『操作』する人。じゃから〈操作人プレイヤー〉じゃ。その正体は神でもなくただの人間。どうじゃ? ショックか?」

「いや、全然。薄々気付いてたから」


 その質問には真顔で即答するしかない。お前、戦女神じゃないだろーって何度思ったことか。

 オレが空気を読んでなかったせいか、鬼人は目をパチクリしている。


「なんか、もんげぇ拍子抜けじゃが……」

「それよりもあなた、なんでそんなこと知ってるのよ! 私のことが見えるのだって変じゃない!」

「そんなんは簡単なことじゃ。儂も()()じゃったからの。儂もかつて『プレイヤーに操られとったキャラクター』じゃけぇのぅ」


 オレは息をのんだ。アスカも同じような反応を見せる。

 この鬼人はオレと同じ? プレイヤーに操作されていた? 何を言っている……?

 オレには考えてもわからない。わからないが、何か嫌な予感しかしない。オレが知らないことをこいつは知りすぎてる。


「アスカ、英雄剣を捨てろ! 捨てればオレも動けるようになる! なんかよくわからないけど、こいつはヤバい!」

「捨てろって言われても、どのボタン押しても動かせないの! 『状態異常・束縛そくばく』って文字が消えないのよ!」

「くっそ……。オレの体なのに、なんで動かせねぇんだっ!」


 首から上だけ動かしてもがくオレをあざ笑うように、鬼人は余裕に満ちた顔で見下ろす。


「足掻くな。すぐ楽にしちゃる。アスカをこのまま戦闘不能にすりゃあゲームオーバー。この戦闘は終わる」

「アスカを殺すつもりか!」

「殺しゃあせん。さっきも言うたじゃろ? アスカの本体はこことは次元の外にある。じゃから、ここで何されても本体は痛くもかゆくもないはずじゃ。現にこうして首根くびねっこつかまれとっても悲鳴もなけりゃ苦しみもしとらんじゃろう?」


 確かに言う通りだが、オレが死んだ場合とアスカが戦闘不能になった場合とでは何が違うんだ。

 くそ、オレはそれすらも知らない。


「ようわかっとらん顔しとるな? アスカが戦闘不能になれば時間をさかのぼって、儂と戦う前の扉の前に戻されるじゃろう」

「オレ達も時間をさかのぼるのかよ……」

「いいや、戻るんはアスカだけじゃ。『平行世界へいこうせかい』ちゅうんじゃったか、儂もようわからんが、別の時間軸じかんじくにある過去のこの世界に転送されて、あんたとはここで永遠におさらばじゃ」


 平行世界――空想小説で読んだことがある。

 とある分かれ道を右に曲がって来たオレとは別に、同じ分かれ道を左に曲がったオレがいる世界があって、その世界とは永遠に交わることはない。右に曲がったオレが左へ行ったオレに会えるわけがないのだ。

 アスカも戦闘不能になれば、ここと同じ世界だが今のオレがいない過去の世界に飛ばされる。鬼人はそういうことを言っている。


「まあ、安心せい。儂はプレイヤーの存在を消したいだけじゃけぇ。プレイヤーさえ消えてくれりゃあ、あんたらは見逃しちゃる。こいつと別れたあんたらは平和に暮らしましたとさ――で、ええじゃんか」


 ヘラヘラと笑ってそう言う鬼人。アスカがいなくなった世界で暮らす?

 そりゃあアスカは無茶苦茶で無責任で、オレも振り回されてばかりで早く解放されたいって思ってる。だけど、二人でいることを楽しんでた自分もいた。知らず知らずにつのっていた想い――『オレはもっとアスカといたい』。

 ドクン……と、胸の中で熱く燃えるような感情が生まれた。またこの感じだ。


「放せよ……。アスカを今すぐに放せ!」

「何じゃと? 儂に指図さしずするんか?」


 鬼人は鋭くオレをにらみ返した。しかし、胸の中の感情ちからに突き動かされている今のオレは、恐怖など微塵みじんも感じなかった。


「オレはアスカを殺させはしない!」

「じゃけぇ、死にゃあせんって言うとろうが!」

「もう二度と会えないなら死ぬのと同じだ! 殺されるのと同じだ! オレはそんなことはさせないっ!」


 熱い感情――それは使命感にも思えた。どこから湧いて出たのかもわからない。なんで恐ろしい鬼人を前にこんなこと言ってるのかもわからない。

 だけど、揺るがなかった。ただ一心にオレは――


「――オレはアスカを守りたいんだっ!」

「ガ、ガウル……」


 アスカが目を丸めた直後、カランカランと英雄剣が床に落ちた音を聞いてから、オレは自力で英雄剣を投げ捨てたことを自覚した。

 その時にはすでに腰にたずさえていたもう一振りの普通の剣を抜いて、鬼人の胴をいでいた。

 しかし、剣は硬い岩を叩いたように止まってしまう。鬼人もアスカを吊り上げたまま微動だにしなかった。


「そんな普通の剣でどうにかできると思ったんか?」

「まだだ! オレはまだっ!」


 剣が折れても腕が折れても構わない。オレは剣に全ての力を込めた。

 すると、鬼人の胴に血がにじみ出し、鬼人はギョッと目を丸めてアスカを手放し、後方に飛び退いた。同時に剣がバキンと折れる。


「な、何したっ! この〈鬼人の鋼肌(オーガ・スキン)〉が普通の剣に破られるはずなかろう!」


 脇腹を押さえたままうろたえる鬼人。オレは自分が何をしたのか理解できていない。とにかく剣を振り抜いただけだ。


「オレが知るかよ! 大丈夫か、アスカ!」

「あ、ありがと……。助かったわ」


 アスカは笑顔だった。とりあえず無事でよかった。


「プレイヤーが引き出す『英雄キセキの力』か……。じゃけぇ、プレイヤーは邪魔じゃったんじゃっ!」


 怒鳴る鬼人。キセキの力……?

 すると、このチャンスを狙っていたのか、シェルティの声が後ろから響く。


「召喚魔法なら無効化される範囲外から攻撃できるはず――〈マリン・サモニング〉!」


 シェルティの狙い通り、天井に貼り付くように展開した魔法陣は鬼人から離れていたためか消えず、そこからまた黒いモノがボタボタと降り注ぐ。でも、それはナマコではなく――


「痛ぁっ! おいこれ、『ウニ』かよっ!」


 海の中にいるイガ栗。山村さんそん育ちのオレにはそんな認識の黒くてトゲだらけの海洋生物。中身は食べるとうまいらしい。


「魔法だと消えちゃうので、本物のウニですから気をつけてください」

「言うの遅いわ。二、三個突き刺さったっての!」

「なぜ、ウニなのだ。シェルティ殿……」

「召喚できるモノで一番痛そうだったからです」


 シェルティはにこやかに言い切るが、剣も銃弾も効かないのにウニなんて――


「な……ななっ!?」


 あれ、鬼人が悲鳴にならない声を出して震えてるんですが……?


「なして、ウニがこんな……よ、よせっ! 儂は……トゲがっ!」


 異常にガクブル震えだす鬼人。さっきまでの余裕なんて跡形もない。


「トゲ?」

「ん……。ああっ! 思い出したわ!」

「いきなり大声出すなよ……。で、何をだよ、アスカ」

「鬼がひいらぎの葉っぱを嫌いな理由よ! 鬼は肌は丈夫だけど目だけは弱くて、柊のトゲが刺さるが怖いからだって!」

「え。えぇー……?」


 鬼さん、まさかの極度の先端せんたん恐怖症っ!?


「な、なんでじゃ……なんでこんなにトゲがぁっ!」

「あー……、本当っぽいなぁ。皆、あいつは目だけやわらかいからトゲが怖いんだってさぁ……」


 目をしっかりつむったまま震え叫ぶ鬼人にオレは確信した。確信したけど、呆れてなんか疲れがどっと押し寄せて来るんですが……


「ちなみに鰯の頭は臭いのが嫌なんだって。鬼は鼻もいいみたいね」

「そういえば、さっきアスカの正体をにおいで判別してたな、あいつ。それだけ鼻がいいから臭いのがえられないって、鰯ってそんなに臭いのか……?」

「鰯もチャレンジしてみましょうか? 頭だけ、というのは難しいですが、やってみるだけやってみましょうか?」


 なぜかやる気のシェルティ。笑顔が怖い。


「待て待て! 鰯の頭だけボタボタ降ってくる光景は、オレ達にも堪えがたいものがあるからやめろ!」

「そうですか……」

「それに多分、もう勝負あったかも」


 オレは呆れ果てながら鬼人に目をやった。鬼人は必死に逃げようとしているが、足がもつれてウニの海にダイブする。


「あああっ、トゲがっ、トゲが動いとるぅっ……ぁ……もう、儂……無理……」


 そう言い残して、目を回しながら鬼人は完全に気絶した。


「……あっけない……」


 勝てたのに頭を抱えるオレ。女三人は笑顔で喜んでるが、まあいいか。

 サアルだけは真顔で銃を片手に鬼人に近寄っていく。まるで棺桶かんおけ手向たむけられたウニの中で眠っているような鬼人に銃口を向ける。


「こいつは目が弱点なのだな? では、目を撃ち抜けばトドメを刺せるな」

「殺すのかよ? 確かにアスカを殺そうとしたのは許せないけど、なんか色々知ってそうだったし、捕まえて尋問じんもんするのはダメなのか?」

「甘い! そんなことを言っていて、もし何かあったらどうする!」

「うーん、まあそうだよな……」


 この鬼人、なんか違和感があったんだよな。オレ達のことは見逃すと言ったり、アスカ以外にはこいつから攻撃をしかけても来なかった。なぜ?

 疑問は残るが敵は敵。サアルは銃の引き金に指をかける。


「さらばだ、鬼人よ……」


 銃を撃とうとした瞬間、鬼人の首にかかった首飾りの石が激しく輝きだし、オレ達は後ずさる。


「なんだ!? 何が起きたんだ!」


 鬼人の首から離れた首飾りは勝手に宙に浮かび上がり、なおも激しく輝いている。

 直後に目を覚ました鬼人がつぶやく。


「……やっちもうた。復活してしもうた」

「復活? おい、お前! 何言ってるんだ!」

「『キジン』の復活じゃ……」

「は……?」


 いやいや、鬼人はお前だろう。とつっこむ前に、首飾りの大きな宝石がパキンと次々に砕け散り、いっそう激しく輝く光の中から出てきたのは、全身白い金属の鎧でおおわれた巨大な人。

 頭のてっぺんからつま先まで、完全に金属の鎧兜よろいかぶとで覆われている。高さは三メートルほどだろうか、普通の人間が鎧を着込んでいるとは思えない。


「な、なんだ……あれ……」


 よくわからない者の出現に困惑するオレ達。しかし、アスカだけは違っていた。


「ロ、ロボット!? ちょっと待ってよ! ロボットなんか出てきたら完全にSF(エスエフ)ファンタジーじゃないの! 剣と魔法のファンタジーはどこいったのよ!」


 また意味不明なことを怒鳴っているアスカ。この状況で謎単語は勘弁してもらいたい。


「ろ、『ろぼっと』ってなんだよ! アスカ!」

「えっと……なんていえばいいのかな。人型の機械? 人間が乗り込んで動かしたりするのが普通だけど、あの大きさじゃ乗り込む場所なさそうね。自分で動けるやつかな」

「は……? 機械、なのか?」


 やがて首飾りとともに光は消えて、その人型の機械は宙に浮かんだまま静かにオレ達を見下ろしていた。

stage,18で書き忘れていた後書きです。


なまりまくりの鬼人の言葉で一部『当て字』を使っています。がす(壊す)とか使つこうとる(使っている)とか。

意味を表す当て字なので、その漢字にそういう読みがあるというわけでもないのでご注意を。

宇宙と書いて『そら』、理由と書いて『わけ』と読む。そういう感じです。

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