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stage,12 第三話④

「大丈夫。まだ……戦エル」


 なんとか無事だったようで、リゼがゆっくり立ち上がる。とりあえずはよかった。


「でも、どうしてだ? あいつは〈ラプソディ〉でオレに注目してるはずだろ? なんでリゼを攻撃したんだ?」

「リゼが強力な攻撃しちゃったから、敵の注目がガウルからはずれちゃったのよ」

「より危険な方に注目するってことか……」


 もしも魔族とラットが同時に出てきた場合、オレは当然、危険な魔族の行動しか注視ちゅうししないだろう。敵だってそれは同じというわけか。


「とりあえずもう一回〈ラプソディ〉を使うけど、それからどうしよう」

「リゼに頼ってばかりじゃダメだ。だけど、リゼの攻撃すら当たらないのに、オレがのろくさ近寄ったって当たるわけが――」

「あっ、ガウル。あの技!」

「そうだ。〈ステップ〉か!」


 覚えたての新技――〈ヒロイック・ステップ〉。短距離を秒速二十メートルで移動できるというもの。


「じゃあ、行くわよ。タイミング見計みはからって使うわよ?」

「わかってる!」


 そして、オレの体は魔族に向かって走りだす。いきなり使って驚かせば、絶対に当たるはず!

 ある程度走り寄ってもまだ距離があるからか魔族は油断している。ここから一気に距離を詰めれば――


「今だ――〈ヒロイック・ステップ〉!」


 オレは一気に加速して剣を振るう。しかし、魔族はさっきの〈霧幻ミラージュ〉とかいう回避技を使うこともなく、ひょいと身をらして簡単に避けてしまった。


「は、外したっ」

「なんだ、今のは? 女の方に比べたら止まって見えるぞ?」

「ガーンッ!」


 魔族にバカにされた。でも、アスカもしぶい顔してたな。秒速二十メートルといっても、瞬間移動で攻撃をしかけるリゼと比べられてしまったら、全然大したことないだろう。

 覚えたての新技、やぶれたり!――って、なんのために覚えたんだ。この技……

 オレが絶望してヘコんでいる間にも、後方のシェルティはあきらめずに奮闘する。


「――〈スパイク・ソイル〉!」


 シェルティが長杖ロッドを地面に突き立てると、魔族の足元の土が渦巻いてきりのように突き上がる。しかし、魔族は微動びどうだにせず、案のじょう、それもバリアに弾かれてただの土に戻ってしまった。


「大地魔法もダメです。次は水魔法で――」


 シェルティは頑張ってくれているようだが、おそらく期待はできない。オレの攻撃も同じく期待できない。結局、リゼに頼るしかないのか……


「リゼ、さっきの〈刺蜂殺シホウサツ〉って技、またすぐ使えるのか!?」

「いや、一度使うと次、三百秒後ダ」

「三百って、五分かよ!」


 マズい。魔族からの攻撃を完全に避けきるのは不可能。今もジワジワと体力が削られている。

 オレはアスカの回復スキルがあるし、シェルティは魔族にはガン無視されてるからいいだろうけど、リゼがそこまで耐え抜けるかどうかわからない。だが、耐え抜いたところで技が当たらなければ勝ち目はない。


「ほらほら、どうした! 逃げ回るだけか!?」

「ガウル! 避けてばかりじゃ勝てないわ。私達が攻撃してあいつが〈霧幻ミラージュ〉とかっていう避け技を使った直後に、リゼに追撃してもらったらどうかしら?」

「オレの攻撃は〈霧幻ミラージュ〉を使われなくても避けられちまっただろ。それにリゼの攻撃も技を使われたら簡単に避けられちまう。あの技自体を封じなきゃダメなんだよ!」

「どうやって?」

「それを考えてるんだよ!」


 オレとアスカがめてる間にシェルティは再び魔法を放つ。


「――〈スラッシュ・カーラント〉!」


 だが、激しい水流の刃も魔族を守るバリアにはばまれてしまう。しかし、水圧までは防ぎきれなかったのか、魔法に押された魔族の体がグラリとかたむいてよろけた。


「そこダッ――〈影絶エイゼツ〉!」


 その一瞬の隙を見逃さずにリゼが追撃するが、〈霧幻ミラージュ〉使った魔族の体は霧のように消えてしまった。次の瞬間、魔族が現れたのは――オレの目の前っ!


「ちょっ――」


 ヤバい。今は奴はオレに注目してたんだった。

 オレもアスカも話し合いに夢中になりすぎて避ける間もなく、魔法の砲弾が腹に直撃したオレは後方に勢いよく吹っ飛ばされていた。


「ガウル!」

「……くっそ、痛ってぇ。早くどうにかしねぇと……」

「スキルや回復薬アイテムじゃ回復が追いつかないわ。このままじゃ……」


 アスカは〈ヒーリング・エール〉を定期的に使ってくれているが、あれも何秒かに一度の制限付き。回復薬の回復量も微々(びび)たるもの。わかりやすいまでのジリ貧状態だ。そもそも、回復役がいないのに魔族と戦ってることが大問題な気がしてきた。

 すると、オレを助け起こしに来たリゼが謝る。


「すまナイ。よろけた隙をつけバ、当てられると思っタ。だけど、当てられなかっタ……」

「どんな体勢でも使えるってことか。卑怯ひきょうすぎるだろ、あの技!」


 もうちょっと激しく転ばせると使えないかも。いや、そもそもどうやって転ばせるんだ――って、そういえばなんであいつ、よろけたんだ?

 よろけたりすれば隙が生まれるし、そこをリゼに瞬間移動で攻撃される危険性は考えてないのか? オレだったらシェルティの魔法もリゼの攻撃も、どっちも〈霧幻ミラージュ〉で避けちまうけど、それができない理由でも――あ。もしかしたら!


「――まさか、〈霧幻ミラージュ〉にも何秒かに一度の制限があるのか!」

「あ、そうかも。だから無効化できる魔法や、のろいガウルの攻撃には温存おんぞんして使わないのね!」

「ホントのことだけど、のろい呼ばわりされるのは嫌だな……」


 オレが体を動かしてるんじゃないもんっ――って思ってる場合じゃない。ならばオレの攻撃で〈霧幻ミラージュ〉を使わせ、リゼにトドメを刺してもらうしかない。


「……確か〈スラッシュ〉は斬撃も飛ばせるけど、剣を振り抜く速度も人間業にんげんわざとは思えない速度だったよな?」

「ええ。刃も見えないくらいだったと思うけど?」

「よし、ならオレに考えがある――」


 オレは考えついた作戦をアスカに伝えた。





 ――シェルティが長杖の先に緑の光をともす。


「もう風魔法にけるしかありません!」

「ムダなことを!」

「ムダだとしても! 〈バースティン――」

「今だ! アスカ!」


 シェルティの魔法発動に合わせてオレは魔族に突っ込んでいく。


「〈ヒロイック・ステップ〉からのぉーっ〈ヒロイック・スラーッシュ〉!」


 〈ステップ〉で加速した上に、〈スラッシュ〉で目で追えない勢いで斬りつける。〈ステップ〉だけだとダメでも、これなら魔族も本気で避けざるを得ないはず!

 だが、二つの技を同時に使うと、なぜかオレの体まで光り輝き始めた。


「へっ? なんだこれ!?」

「二つの技を同時に使うと『複合技ふくごうわざ』に変化する現象。〈ヒロイック・コンビネーション〉……らしいわ!」


 なんでもかんでもヒロイック付ければいいってもんじゃないだろう……と、つっこんでる暇はない。

 オレは〈ステップ〉以上の速さで距離を詰め、目にもとまらぬ速さで剣を振るう。そう、それは空気を切るように飛ぶツバメのごとし!


「名付けて――〈ヒロイック・スワロゥ〉!」


 空気を読んで、なんでもかんでもヒロイックを付けてみました。

 そして、剣が魔族のバリアに触れるとバキィンと激しい音を立てて砕け散った。


「バ、バカな――」

「ついでにこのままトドメだっ!」


 そのまま振り抜いて魔族の胴を真っ二つにしようとしたが、刃が脇腹を浅くとらえた瞬間、魔族の体は霧となって消えた。

 そうか、バリアが消えたらシェルティの魔法も食らっちゃうから逃げるに決まってるよな。

 さて、オレも逃げないと。はて? どうやって逃げればいいんだっけ。考えてなかったぞ、あははは……


「――グ・ガスト〉!」

「まっ、またこれかぁあぁぁー……」

「って、きゃあぁ! ガウルさぁーんっ!」


 ちゅどーんと弾けた爆風がオレの体を上空に吹き飛ばした。

 一方、魔族は実体化した瞬間にひざを突く。


「仲間の魔法に突っ込んでくるとは、なんて奴だ……。しかし、〈パッシブ・ガード〉を破壊する剣だと? あれは――」

「……押さえた脇腹は痛むカ……?」

「っ!?」


 背後からの冷たい声と、生まれた殺気さっきに魔族が戦慄せんりつする。


「ちょうど五分ダ。ガウルとシェルティが作ってくれた機会、ムダにはしナイッ!」

「や、やめっ――」

「〈刺蜂殺シホウサツ〉!」


 魔族は背中から胸をつらぬかれ、地面に倒れて動かなくなった。

 こうして、オレ達は無事に魔族を打ち倒すことに成功したのである――以上、上空のガウルがお伝えしました。声は聞こえないのでリゼと魔族の会話はオレの想像だよ!

 と、いくら楽しく現実逃避しても、現実は一日で二度も空を舞っている。ひとつも悪いことしてないのになんだよ、この仕打ち!


「夕日が綺麗だ……、目にみるぜ。さてと――〈ヒロイック・ガード〉!」


 夕日はいつだって変わらない。オレもいつだって変わらない。こんな時でも冷静沈着に自暴自棄じぼうじき

 くして既視感デジャヴ満載で、オレは無事に再び潰れたカエルになった。そばのアスカは手で口をふさぎながら、声をこもらせてオレに言う。


「だ……大丈夫?」

「なんで笑いをこらえてるんだよ……アスカ……」

「いや、だって。頑張るなぁって思って」

「正直もう限界だよ……泣いちゃうよ……」

「まあまあ、新技もできたことだし良しとしましょ」


 組み合わせで新技か。こういうふうに強くもなれるのか。でも今は考えるのはあとにしておこう。本当に体が限界だ。


「体が重いぜ……」

「そういえば〈ガード〉使うと動きがにぶるんだっけ?」

「そうだけど、多分その効果もう切れてるから。単に無茶しすぎなんだよ……」


 まるでじいさんになったようにゆっくり起き上がると、そこへシェルティとリゼが駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫でしたか!?」

「あはは、まあ……なんとかな」

「ガウル、すごかったゾ。魔族にも恐れないで立ち向カウ。勝てたのはガウルのおかげダ」

「いやぁ、そこまで言われるとテレちゃうなぁ。でも、勝てたのはリゼの技のおかげだと思うぞ」


 オレ、飛んでただけな感じだし……

 まあ、散々(さんざん)な目にった気もするけど、魔族は倒せて街も救われたんだし、アスカの言葉通り良しとするか。


「リゼ、ガウルに興味がわいタ。返す恩もまた増えたシ、これから改めてヨロシクな!」

「ああ、リゼの技は強力だし心強い。こちらこそよろしく頼むぜ」


 ――こうして、夢は家事も暗殺もできるお嫁さんな忍者・リゼを正式に仲間に加えて、オレ達の旅はまだまだ続く。

 ……と、その前に今日はゆっくり休みたい。もう、立って歩くことすらままならない。


「街の皆に魔族は倒したって伝えて、今日はこの街の宿屋に泊ま――」


 と、オレがシェルティ達の方を向いて話している途中で、前方に誰かが地面の土をザンッと踏んで立ちふさがったことに気付き、そちらに目をやって驚いた。

 そこに立っていたのは、故郷の村(サーブルシュ)の近くで出会った()()王国聖騎士団オルダー・ブランの騎士だった。


「お前! やっぱりオレをつけてやがったのか!」

「…………」


 騎士はオレをけわしい顔でにらみつけ、無言のまま銃を構えてオレに銃口を向けてきた。これって、まさか……?


「な、なんのつもりだ……?」

「それで勝ったつもりか……。()()()()()め……」


 ボソリとつぶやいた騎士から突き刺さる殺気。

 体中から血の気が引いていく音が聞こえる気がした。騎士が何をしたいのか、何を言いたいのかわからない。頭の中が真っ白だ……

 でも、たった一言。以前、笑顔のアスカが軽いノリで言った言葉が、真っ白な頭の中に再生された。


 ――実は騎士のフリした暗殺者……なんちゃって――


「嘘だろ……おい。待て! やめろっ!」


 オレが叫んだ直後、タンターンッと意外と軽く乾いた銃声と「ガウルッ!」と叫ぶアスカの声が聞こえた。



 ――これがオレの人生たびの終わりなのか……?

第三話 雉も鳴かずば撃たれまい Clear!

 

 第四話 猿も木から落ちる

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