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stage,11 第三話③

「も、もう一人仲間がいるって……? どういうことだ? まさか、見えてるのか?」


 恐る恐る聞き返すとリゼは首をかしげた。


「見えてル? じゃなくて、聞こえてるンダ」

「は?」


 どうやらアスカが見えているわけではなさそうだが、聞こえてるとは一体?


「金属がこすレル音が混ざった足音。リゼとガウル達が出会ってカラずっと聞こえてル。リゼ達が止まルと音も止まル。また歩き出すと聞こえだス」

「つまり、遠くで見守りながら、ついてきている仲間がもう一人いるってことですか?」

「ウン。そうダ」


 いや、それっておかしいだろう――と、思うがなんか嫌な予感がし始めて、オレは声に出せない。


「えっと、鎧を着た人の足音ということでしょうか? でも、そんな人は見かけてませんし、足音も聞こえませんけど……」

「リゼ。耳はイイ。だいぶ遠く、後ろの方ダ」


 と、リゼは後ろを見る。オレ達もそれに続くが、後ろには鎧を着た人どころか、普通の人もモンスターすらいない。

 ただ、思い当たるふしはある。アスカもそれは同じようで、オレの肩をポンポンと叩く。


「――ねぇ。やっぱりサンブセロンで私が見かけたあの騎士に、ずっと跡をつけられてるんじゃないの?」

「オレもそう思いかけたけど、どうしてあいつがオレの跡をつけるんだよ……」

「だから言ったじゃない。あの人はガウルの命を狙う暗殺者――」

「やめいっ!」


 そう思いたくないから考えないようにしてたのに。アスカの奴、他人事ひとごとだと思って笑ってるけど、またこれも催し物(イベント)感覚だな……

 なんとか本当に後ろにいるか確かめたいところだけど、妙な動きをしても気付かれるだろうし……って、気付かれなきゃいいのか。


「そうだ。アスカ、お前が見てこいよ」

「え? ああ、そっか。私の姿って見えないから、私が引き返して見てくればいいのね!」

「そそ。はぐれてもオレが英雄剣を抜けば、アスカはオレの隣に瞬間移動できるんだし、問題はないだろ?」

「なるほど、そうだったわね。んじゃ、ちょっと見てくるわ!」


 と、アスカは一人で走って引き返す。もしあの騎士が跡をつけていても、アスカの姿は見えないから気付かれないだろう。これでアスカが真相をつきとめてくれるはず。

 と、姿が見えなくなるくらい離れた瞬間、アスカはいきなりオレの隣に瞬間移動して戻ってきた。


「うあっ! ビックリしたぁ……。せっかく走ったのに英雄剣を抜かないでよ!」

「抜いてねぇよ。あれ、もしかしてお前って一定以上離れたら、勝手にオレの隣に戻っちまうんじゃないのか、これ……」

「あ、そうかも」


 思えば、中断から復帰する時はいつもオレの隣だったアスカ。あれも実は中断地点に復帰した瞬間、オレの隣に飛んできてただけなのかもしれない。


「便利なような、使えないような……」

「とにかく私が見に行くのは無理そうね。いい案だと思ったけど、残念ね」

「ま、まあ、気のせいだろ! 日が暮れちまうし、さっさと次の街へ行くぜ!」


 アスカやリゼにそう言ってオレは歩きだした。ちょっと納得がいかないような表情をしつつも、リゼもオレに続いて歩きだした。





 ――遠くに防壁ぼうへきが見えてきた。モンスターの侵入を防ぐ大きな壁に囲まれている街は、大抵が人口の多い大都市だと本で読んだことがある。

 しかし、ホントに壁でぐるりと囲まれた街があるとは、田舎の村育ちのオレにとっては驚きでしかない。


「あの街がシューレイドの街みたいですね」

「王都、あの街なのカ?」

「いや、王都はもっと南だよ」


 どれだけ行き過ぎたんだとしょんぼり顔のリゼに、オレはコソコソと話しかける。


「で、足音の方はまだ聞こえるのか?」

「ウン。聞こえるゾ」

「近付いてきたら教えてくれよ?」

「でも、街に入ると他の音に混ざってわからナイ。誰の足音か聞き分けられるほど、音、近くないカラ混ざるとわからなくなるンダ」

「マジかよ……」


 都会の雑踏ざっとうの中、いきなり後ろからグサッ――は勘弁かんべんしてほしいが。リゼの耳も頼れないか……


「すまナイ。王国の鎧の音にも慣れてないンダ……」

「いや、いいんだよ。もっと近くで聞こえてたら誰の足音か判別できるんだろ? すごいな、さすが忍者だ」

「べ、別に……。覚えれば誰だって、できるコト。リゼ、すごくナイ」


 ほほを赤らめて反応するリゼ。なかなか可愛らしい。

 と、そんな彼女がいきなり険しい顔になって勢いよく街の方へ振り向く。


「どうかしたのか?」

「悲鳴……聞こえタ……」

「え?」


 近くには誰もいないし、かろうじて人影が見える街の入り口まではまだかなりの距離がある。悲鳴どころか話す声すら聞こえない。

 オレとシェルティが顔を見合わせた瞬間だった。今度はオレ達の耳にも届くほどの爆音が街の方から聞こえ、さらには黒煙こくえんが立ちのぼるのが見えた。


「あ、あれは……」

「何、ぼやっとしてるの! ガウルの出番って感じじゃない! 行くわよ!」


 勝手に前に走りだすアスカ。いやぁ、むしろ回れ右した方がいい状況じゃあ……


「ほら、早く来なさいよ! 離れすぎたらダメなんだから。また私をムダに走らせる気!?」

「わかったよ。行きますよ!」


 と、オレが駆けだすと、アスカの声が届いていないシェルティはオレのその行動に驚く。


「えええ、行くんですか? なんかヤバそうですよ?」

「すまん、シェルティ。そりゃオレもわかってるんだが……」

「いや、行こウ。絶対、何かあっタ。それでも困難に立ち向かうは、リゼ、尊敬スル!」

「あはは……ありがとう」


 オレが自主的に立ち向かってるわけじゃないんだけどなぁ。まあ、気にはなってるんだけど。仕方ない、行ってみるか……





 ――シューレイドの街は混乱を極めていた。オレの村の全人口よりも多い人達が、我先われさきにと逃げ回っている。爆発があったのは街の中心部、とにかくオレ達は逃げ惑う群衆ぐんしゅうをかき分けてそちらに向かった。

 街の中心部には大きな噴水ふんすいがある広場があった。普段ふだんならここも、村とは比べものにならないくらい多くの人でにぎわっているのだろう。しかし、今はオレ達以外の人影はない。

 代わりにたった一つ、噴水の上に浮かぶ()()()()()()の姿があった。


「あ、青紫の肌、コウモリのような翼、羊のような角……。まさか魔族……ですか」


 シェルティがくちびるを震わせてつぶやいた。


「間違いない。オレも故郷の村で襲われたことがあるからわかる。あれは魔族だ……」


 シェルティもリゼも魔族を前にするのは初めてなのか、オレのその言葉に戦慄せんりつを覚えたように、表情を強張こわばらせた。

 奴らは翼がある。高い防壁も役に立たないのも仕方ない。このままじゃ、この街が全て破壊されてしまう。そんなことさせるわけには――


「――序盤の大ボスね。緊張してきたわ」

「このタイミングでその緊張感の無さはなんだよ……」


 この状況でも、アスカはいつも通りである。戦慄してたオレの方がバカみたいじゃないか。


「やい! 魔族! お前の好き勝手にはさせないぞ!」

「……ほう。まだワレに立ち向かおうとする人間がいたか……」

「うあ! しゃべれるのかよっ」


 初めて見た魔族は一言もしゃべってなかったのに、こいつはしゃべれるのか。

 オレの反応に、わった目でこちらをにらんでくる魔族。どうやら怒らせてしまったようだ。だって、知らなかったんだもん……


「我々が封印されてから『二千年』の間、人間は随分とおごり高ぶったようだな。我々がしゃべれることすら忘れたか。魔族をモンスターか何かだとでも思っているのか?」

「知らなかったんだよ! しゃべれるなら話して解決する気はないのか? そっちは一人みたいだし、たった一人で戦争を始めるつもりなのかよ!」

「戦争? 戦争とは、拮抗きっこうする力と力がぶつかり合い、争いまじえることだと思っていたが? お前達人間はアリを踏みつぶしても、アリに対する宣戦布告せんせんふこく見做みなすのか?」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な薄ら笑みを浮かべて反論してくる魔族。言い方が腹立つ。魔族にとって人間はアリ同然ってことなのか。


「アリだって必死に生きてるんだ。無闇に踏み潰してもいい権利なんて、誰にもない!」

「ガウル、よく言ったわ。カッコいい!」

「……すごいおだてられてる気分」


 オレの願いが叶うなら、緊張感をください。


「フッ……結構々々(けっこうけっこう)。ならば、かかってくるがいい。我がことごとく蹂躙じゅうりんしてくれようぞ。愚かなるにんげ――」

「〈ワール・ブレイザー〉!」


 魔族がまだしゃべっているのに、シェルティがいきなり後ろから炎の渦を発射した。


「シェルティ。お前それ、不意打ち……」

「何言ってるんですか! こういうのは先手必勝なんです!」


 だが、魔族の周囲に現れたバリアのようなまくが炎の渦をはじいた。


「え……」


 一瞬のことにオレ達はそろって目を丸くする。魔族はそんなオレ達をあざ笑う。


「ふはは。卑怯者に救いはないようだな」

「あの膜、確か初めて会った魔族も持ってたな。だったら、アスカ!」

「わかってるわ!」


 オレは英雄剣を抜く。あの膜なら〈ヒロイック・スラッシュ〉で斬り裂けるはずだ。


「――〈ヒロイック・スラッシュ〉!」


 放たれた光の斬撃。だけど、魔族は避けるどころか身じろぎひとつしない。直後、斬撃はシェルティの魔法と同じように弾かれてしまった。


「技が……効かない!?」

「はっはっは! 威勢がいいからどれほどのものかと思えば、〈パッシブ・ガード〉すらやぶれんとはな!」

「パッシブ……ガード?」

「魔族が持つ『全自動防御スキル』とでも言っておこうか。勝手に発動して敵の攻撃を軽減、あるいは無効化する。まあ、個体差によって防げるのは魔法攻撃か物理攻撃か、『いずれか一方のみ』だが」

「…………」


 オレ達は絶句した。強力すぎる魔族のスキルに絶望した――んじゃない!

 オレは思わずアスカに耳打ちする。


「――おい。今、あいつ……、弱点までペラペラしゃべってくれたぞ?」

「時々いるわよね。余計なこと言って自滅する敵」

「いるのかよ、そんなバカみたいな奴っ」


 と、とりあえず、最初に出会った魔族は剣を弾いていて〈スラッシュ〉で倒せた。今回は魔法と〈スラッシュ〉が弾かれた。つまり〈スラッシュ〉の斬撃は魔法攻撃扱いで、最初の魔族は物理攻撃だけを、今いるあいつは魔法攻撃だけを弾けるということ。

 そうだとわかってしまえば話は早い。


「つまり、剣で直接斬ればいいってことか」

「ガウル。敵の目を引いててくれないカ? リゼ、そのうちに技を打ち込ム!」

「大丈夫か? リゼ一人で?」

「忍びの技、多分、役立つハズ」

「わたくしはどうにかあのバリアを壊せないか、魔法攻撃を続けてみます!」

「わかった。二人共、頼んだぜ!」


 オレ達は散開さんかいし、アスカが〈ラプソディ〉を使って魔族を引きつける。


「まずは男、貴様からだ!」

「願ったり叶ったりだよ、全く!」


 目をつけられるのはウンザリだけど、そうも言っていられない。

 しかし、リゼと共にする初戦が魔族相手とは。リゼのこともまだよく知らないってのに。


「――アスカ。リゼは本当に大丈夫なんだな?」

「忍者や暗殺者アサシンは、攻撃力の数値は特別高くないけど、命中率やクリティカル率がズバ抜けて高いから、結果的に高いDPS(ディーピーエス)を叩き出せるそうよ。でも、DPSって何かしら? ガウル、知ってる?」

「知るかぁっ! 叩き出すってならダメージか何かだろっ!」


 魔族が手から放つ魔法の黒い砲弾を避けつつ、質問されたオレは叫んで答えた。

 なんでオレが知ってると思った、というか、なぜアスカは知らないんだ――と、言いたいことは多いがそんな暇はない。


「あと回避率も高いから敵の攻撃を避けやすいけど、HPたいりょくや防御力は召喚士シェルティよりちょっと高いくらいでほとんど変わらないわ。攻撃をくらえば一気にピンチよ」

「なるほど。だからオレに敵の目を引いててくれって言ったのか」


 すると、回り込むように走っていたリゼの体に気流がまとわりついた瞬間、彼女の姿が消えて一瞬で魔族の背後に移動した。


「なっ――」


 空中に浮かんだままなのに背後をとられて魔族が息をのんだが、時すでに遅し。


「――〈刺蜂殺シホウサツ〉!」


 背後から翼の付け根を短刀で貫かれ、魔族は片翼かたよくを斬り落とされて地面に墜落した。

 リゼはもう一度瞬間移動してスタリと地面に降り立つ。


「うわぁ……。やっぱり暗殺者は敵にしたくないなぁ」


 むしろオレもあれくらいかっこよく強力な技を決めたいところだが、技は地味だし名前はダサいし、英雄なのに……

 一方、飛べなくなってしまった魔族はよろよろと立ち上がる。


「おのれ……人間の分際ぶんざいで……」

「ほとんど自滅じゃないか。お前」

「黙れ! いい気になっていられるのも今のうちだ!」

「じゃあ、今のウチに倒すまデ!」


 再び魔族の背後に瞬間移動したリゼが両手に短刀を構えて追撃する。


「〈影絶エイゼツ〉!」


 二振りの短刀から連続で繰り出される斬撃。しかし、魔族の体が霧のように消えて空振りに終わる。


「なんダッ!?」

「絶対回避からのカウンター秘技(ひぎ)、〈霧幻ミラージュ〉。貴様の攻撃など、当たらねば怖くはないわ!」


 魔族の体はリゼの背後に再び実体化して、相変あいかわらず言わなくてもいいことをペラペラしゃべりながら、すきだらけのリゼの背中に、手から放った魔法の黒い砲弾をぶつけた。そして、リゼの体が地面を勢いよく転がる。

 マズい。リゼの体力はシェルティと大差ないって言ってた。自慢の回避率も不意をつかれたら意味がない。


「リゼッ!」


 オレは慌てて倒れたリゼに駆け寄った。

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