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stage,10 第三話②

 眠ったままの女の介抱かいほうはシェルティに任せ、オレは回復薬やアスカの回復スキルで治療中。


「状態異常を治すのも回復魔法よね?」

「ああ。薬でもいいけど、値段が高いからたくさんは買えないぞ。それにすっげぇ苦くて飲みたくないんだよなぁ、あれ」

「アイテムを使うのに好き嫌い言われても……。でも、やっぱり回復魔法使いは必要みたいねぇ」


 眠りこけてるあの女が回復魔法を使えるなら、即仲間入りなのだが。近付いて見た時に腰に『短刀ダガー』が見えたし、魔法使いっぽくはない。


「そうそう。さっきの戦闘でレベルが上がって新技を覚えたわよ」

「さっきの、ってオレは何もしてないのにレベルが上がるのかよ?」

「そりゃ経験値は入るからね」

「経験値……。確かに、あまり経験できなそうな経験はできたが……」


 あと少しでお空のお星様。なかなかできる経験じゃないけど、経験する必要もないし、したくもなかったわ。


「――で、新技とは?」

「〈ヒロイック・ステップ〉。短距離を秒速二十メートルのスピードで移動できる。ただし、無敵時間は発生しない……らしいわ!」


 また何かを見て読み上げてるだけか、アスカの奴。


「またイマイチわかりにくいな。秒速二十メートルって結構な速さだけど」

「――あ、そっか。こっちもなぜかメートル法なんだっけ。一瞬、なんで通じるのよって思ったわ」


 ちなみに重さはグラム。これもアスカの世界と同じなのだろうか。話がれるから今は聞かないでおこう……


「秒速二十メートルって言えばなんかすごそうだけど、普通の人間が普通に走って百メートルを十秒切れるんだし、その倍速ってことでしょ。十秒に一度使えるみたいだけど、無敵時間もないなら使いどころは難しいかもね」

「ん……んん?」


 アスカの世界の人間は、()()が普通に百メートルを十秒で走るだと……?

 なんて恐ろしい世界だ。オレなんかが走って逃げてもすぐに捕食ほしょくされてしまうじゃないか……


「……やっぱりソースかケチャップをかけられるのかな。オレ」

「何の話よ。顔があおいわよ?」

「まあいい。〈ステップ〉だったな? 一応、覚えておくよ」


 〈ガード〉同様、きっと何かの役に立つのだろう。しかし、攻撃系の技は〈スラッシュ〉だけ。伝説の英雄なのに、こうも攻撃技がないのはどうしたものか。オレの実力レベルが足りてないってことか。


「ガウルさん、女の人が目を覚まされましたよ」

「おう、そうか。とりあえず事情は聞いておくか」


 眠っていた女に近付くと、ぱちくりとまばたきをしてこちらを見つめる女。その姿を見てアスカがつぶやく。


「着物に短いはかま? それに足袋たびかしら。パーカーのフードみたいに背中に頭巾ずきんらしてるわね。よく見たら濃い紫色だけど装飾そうしょくも少なくて全身黒っぽいし、なんか『忍者にんじゃ』みたいな格好の人ね」

「忍者……?」


 アスカの言葉をオウム返しした瞬間、女は勢いよく立ち上がり、短刀を構えた。


「なぜ、わかっタ! 忍者だっテ!」

「…………」


 ものすごい片言かたことな言葉(づか)いで叫ぶ女。ツッコミ待ちだとしか思えない。


「今……自白じはく、したよね?」

「くっ、知られたカラには、お命チョーダイ!」

「理不尽っ!」


 いきなり飛びかかってきた女の短刀を、オレは思わず英雄剣ではなく自分の剣で受け止める。


「……止められタ。リゼのかたなが……」

「お前、『リゼ』って名前なのか?」

「なぜ、知ってル!?」

「今、自分で言っただろ! いい加減にしろ!」


 何なんだ、この理不尽な危ない奴は。アスカは後ろで腹を抱えて笑ってるし……


「待ってください。忍者さん! ガウルさんは倒れていたあなたを助けてくれたんですよ!」

「え、そう……なのカ?」

「そうだよ、そうですっ! だから、武器をしまえってば!」


 つばぜり合いしながらオレが必死に訴える。

 すると、シェルティの助けもあって、ようやく武器をしまうリゼという女。


「申し訳ナイ。誤解していタ」

「まあいいけど……お前、どうみても外国人だよな?」


 服装もそうだが、しゃべり方からして異国人なのは明らかだろう。


「リゼ・ファイザン。それがリゼの名ダ。森使国しんしこくから来タ」

「森使国って、南の大陸にあるナンスッド森使国か」


 王国がある大陸の南の海の果てにあるもう一つの大陸。自然豊かで森が多いらしいその大陸に、森使しんしと呼ばれる君主くんしゅをおく国がある。それがナンスッド森使国だ。

 そういえば、森使国の『暗殺者アサシン』を忍者って呼ぶって本で読んだことを思い出した。


「――アスカ。忍者って暗殺者のことか。でも、暗殺者って感じはしないけどな」

「うん、しないわね。モンスターに眠らされてたり、自分で正体をばらしてたし、思いっきり忍者ですって服装で動き回ってたら逆に目立つわよ。ま、メインキャラが目立つ浮いた格好なのは、ゲームなら普通のことだけど」

「普通なのか……? オレが一番地味な格好してるぞ……」


 オレが主人公みたいなこと言ってたくせに、オレは『自警団員その二』みたいな軽装の鎧に地味な麻服あさふく

 アスカと二人でコソコソ話していると、人(なつ)っこいシェルティは警戒心もなくリゼに手を差し出す。


随分ずいぶんと遠くから来られたんですね。大変だったでしょう。わたくしはシエ・ルティ・ラミス・アレヴァトレと申します。シェルティと呼んでください」

「あ、オレはガウルだ。ガウル・フェッセラース。よろしくな」

「……ガウル、シェルティ。うん、覚えタ。ヨロシク」


 シェルティのおかげか警戒心をくリゼが笑う。やっぱり血生臭ちなまぐさいイメージの暗殺者とはほど遠い。

 と、オレ達が話していると後ろでアスカがぼやく。


「私だけ自己紹介が必要ないって、なんか寂しいわね」

「気持ちはわからなくもないけど、仕方ないだろ」

「まあ、そうなんだけど……」


 決して仲間はずれにしてるわけじゃないけど、確かにアスカからしてみれば疎外感そがいかんがあるか。

 だからって、ここに戦女神のアスカがいるんですって二人に言っても信じてもらえるかどうか。


「――どうかしたカ? リゼがそんなに珍しいカ?」

「い、いや、そうじゃないんだ。オレ、森使国には詳しくないんだけど、森使国の人は皆、リゼみたいなしゃべり方なのか?」

「違ウ。リゼが『世界共通語』、難しくてしゃべれないダケ。下手クソだから間違ってたリ聞きづらかったリしたら、先に謝ル」


 今、オレ達がしゃべっている言葉を世界共通語という。読んで字のごとく、世界のどこでも通じる言語だ。


「仕方ないですよ。森使国は独自の文化で、今でも国内では独自の言語を使ってるんですから」

「同じ外国人でも、シェルティはしゃべり方うまいよな?」

「うまいも何も、わたくしの故郷の首長国セイオヴェストも話す言葉は王国と同じですよ。海外ですけど森使国よりも王国と近くて交流も深いですし、大昔は王国領だったので文化に大差はないんですよ」

「へぇ、そうだったのか」


 村を出たことがないので王国のことさえ知らないことも多いのに、さすがに他国の文化や歴史までは詳しくない。


「――そういえば、アスカも同じ言葉だよな?」


 と、ふと疑問を感じてオレはアスカに尋ねる。


「そりゃあ当然よ。言葉が同じなんて都合つごう上の問題でしょ。いくらこのゲームがリアル志向だからって、言葉まで通じなかったら大変じゃないの。あ、メートル法なのもそのせいかもね」

「どういう都合なんだよ……」


 もう悩むのも面倒だし『神様だから』で納得しておこう。

 オレがコソコソとアスカと話しているうちに、シェルティがリゼに尋ねる。


「リゼさんはどこに向かわれていたんですか?」

「王都ダ。王国で『伝説の英雄』が復活する日が近イ――それが、森使陛下(へいか)予見よけん。リゼ、英雄に会いに来タ。でも、居場所知らないから、王都で聞くンダ」

「えっ……」


 いや、それ多分オレのことなんだけど……


「伝説の英雄の話はわたくしも知ってます。魔族が勢力を拡大してるのはどの国でも同じなんですね。やっぱり英雄が復活する日も近いのでしょうか……」

「ウン。陛下の予見、よく当たル」


 伝説の英雄の話をしているシェルティとリゼ。オレが口を出せずにいると、アスカがそんなオレをひじ小突こづく。


「ほら、言っちゃいなさいよ。オレがその英雄だって。というか、そもそもなんでシェルティにもすぐに話さなかったのよ?」

「まともに戦えないオレが英雄ですって言っても説得力ないだろ。戦女神いくさめがみの英雄は人間の頂点に立てるっていわれるくらい、すごい存在ってイメージなんだから……」


 戦いが下手なのは、ほとんどアスカのせいだけど。

 オレ自身が持っていた英雄のイメージだって激しく砕け散ったっていうのに、他人まで巻き込みたくないんだよな……


「でも、いつかは知られることでしょ?」

「うーん、そうなんだよなぁ。今がチャンスっぽいし、さらっと言ってしまうか……」


 抵抗はあるし、信じてもらえなかった時の不安はある。だけど、このままじゃだましてる気もするし、ここは勇気を出して――


「リゼ。英雄と()()する気ダ!」

「は……?」

「陛下が言っタ。リゼは英雄と運命を共にする星のモト、生まれたト。運命を共にする、つまり結婚ダ! だから、リゼ、王国に来タ」

「…………」


 リゼの発言に、オレは開いた口をふさげない。結婚ってなんだよ、村の奴らよりヤバい話の流れ……


「まあ、ステキですわね。運命の人が英雄さんだなんて。きっと英雄さんはご立派なお人だと思いますよ。文武両道ぶんぶりょうどう百戦錬磨ひゃくせんれんま勇猛果敢ゆうもうかかん冷静沈着れいせいちんちゃく。素晴らしい殿方とのがたというイメージです!」

「リゼもそう思うゾ! 人の頂点に立つべき男ダ。シェルティは、そんな英雄と結婚したいと思わナイのカ?」

「と、とんでもない! わたくしなんかじゃ分不相応ぶんふそうおうです。お話しすることさえ、ためらっちゃいますよ……」


 夢と理想の英雄の話にはなが咲く。そんな英雄はどこにもいないと知っているオレは絶望するしかない。


「なんか急にラブコメ展開ね……」

「言える空気じゃないだろ。今……」


 どんな罰ゲームだ。これは……

 しかし、ここまで伝説に尾ヒレがついてるのもどうなんだろうか。まさか、二人が外国人だから……?


「ち、ちなみに、二人共さ。伝説の英雄についてどれくらい知ってるのかな? 使ってた武器とか、さ?」

「海をも割る大魔法使いですよね?」

大蛇おろちも一撃で仕留しとめル槍使やりつかいダロ?」


 即答する二人の意見は真っ二つに割れた上に、本物の英雄像に全然かすりもしていない。

 オレが言葉を失ってることに気付かれたのか、シェルティは苦笑してほほをかく。


「ごめんなさい、ガウルさん。実はわたくし、詳しくは知らないのです。世界の危機に王国で戦女神様と共に英雄が目覚めて世界を救ってくださるというところまでは有名なのですが、その他の具体的なことは曖昧あいまいで……」

「リゼも自信、なくなってきたナ……」


 苦笑するシェルティとリゼ。そういえば長老が言っていた。英雄の伝説は王国の人ですらはっきりと知っているわけではない。尾ヒレヒレがついて広まっていても、それは仕方のないこと。それが()()というものだ――と。

 要するに、国内ですらそうなんだ。異国育ちの二人がちゃんと知ってると思う方が間違いだ。つまり、戦女神と話せるとか、そういうことも知らないってことだろう。


「ほら、今よガウル。さっさと言っちゃえ!」

「い、言えるかぁっ! なんだよ、この流れは。余計よけいに言えなくなったじゃねぇか。とにかく、もっとちゃんと実績じっせきを残してから伝えるよ……」

「だらしないわね。ちょっとどうなるか興味あったのに……」


 アスカの奴。オレで遊んでるな……


「――何が言えナイ? ガウル?」

「い、いや、なんでもない。それよりも、森使国があるのは王国の南だろ? 王都もここから南だぞ? 南から来たんだったら行き過ぎてないか?」

「なん……だっテ……」


 南から来たならここに着く前に王都を通っているはず。しかし、気付いてなかったのか呆然とするリゼ。なんだ、リゼも天然か……


「王国の街、どこも人が多くて発展しテル。リゼにはどこが王都かわからなかっタ。聞こうにモ、リゼは話すの下手。失敗シタ……」

「ふふふ。リゼさんは天然さんなんですね」

「シェルティ。お前、自分が天然って言われるのは嫌がるのに、他人には容赦ようしゃないんだな……」

「……何かおっしゃいました? ガウルさん」


 黒い笑顔で詰め寄ってくるシェルティ。いつ、あのナマコを口に突っ込まれてもおかしくない。怖い怖い!


「とりあえず、リゼ。オレ達も王都を目指してるんだ。案内してやるからついてこいよ」

「かたじけナイ。恩は必ず返すゾ」


 こうしてオレ達はリゼと同行することになった。しかし、なぜかアスカはニヤニヤと笑っている。


「――なんだよ、アスカ。なんで笑ってるんだよ」

「連れてったら遅かれ早かれリゼと結婚しなくちゃいけなくなるんじゃない? まさか、まんざらでもないって思っちゃってたりして。リゼって金髪美女だしねぇ」


 確かにリゼは美人だ。暗いイメージの暗殺者には似つかわしくないとも思える。

 リゼは胸も大きいし背も高い。たぶん、オレよりも少し年上で、アスカやシェルティにはない大人の女の魅力が――って、何を考えさせられてるんだ、オレは!


「思ってねぇよ! 迷子になったり、モンスターにやられてた奴を放っておけないってだけだよ!」

「ふーん、へぇ……。でも今、リゼの胸、見てたでしょ?」


 バ……バレてるっ!?

 ここは冷静にごまかそう。そうさ、オレは冷静沈着な英雄なのだからっ!


「誤解するなよ。オレは……そう、リゼのステータスを見てたんだ!」

「見えないでしょ、あんたには! そんなに目を泳がせなくったって別に怒ってないわよ。ま、胸だけで女を判断する男は、天誅てんちゅうでもくらえばいいとは思うけど」

「充分、怒ってるじゃんか……」

「ガウルは巨乳、年上好み――と、メモメモ」

「メモるなっ!」


 完全にアスカにおちょくられてる。厄介事に首を突っ込ませたのはアスカの方だろうに。


「――さっきからガウル。誰と話してル?」

「リゼさん……。それには触れてあげないでください。ガウルさんは正常です、安心してください」

「そうカ。王国には、正常な変質者もいるんダナ。興味深イ」

「ちょっと待てぃ! もうやだ……こんなの!」


 アスカだけじゃなく、皆から遊ばれてる……。正体を言うも言わざるも、どっちにしろ地獄な気がしてきた。





 ――リゼを連れてオレ達は街道を南下し続ける。そして、地図を見ながらシェルティが言う。


「もうちょっと南にシューレイドという街があるみたいですね。今日中に着けるでしょうか」

「ふむ……。これくらいなら夕方には着けるんじゃないか?」


 オレとシェルティが二人で話していると、リゼはそれに加わらず、なぜか立ち止まった。


「――どうしたんだ? リゼ?」

「一つ聞きたイ。お前達、もう一人仲間がいるノカ?」

「えっ……」


 リゼの質問にシェルティは首をかしげ、オレとアスカはそろって目を丸めた。まさかアスカの存在に気付かれた……?

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