まるで転校生の如くな挨拶でございました……。
徐々に開いていくカーテンの向こう側には……開けた遠くに人、人、人だらけ!
何処から沸いてきてるのかって位の黒山の人集り。
こちらを見る人々からは数多の歓声と拍手がガラス越しからも伝わってくる。
何だか車両が揺れてる感じもする……外に出たら気絶しそうよ?
見える景色からすると……多分祭祀の場の前に停まっているみたい。
そして何処からか花火の音も聞こえてくるし、中央の開けた道沿いには屋台らしきものも見えてるし。
さながらお祭り騒ぎだわ……あわわ目眩がぁぁぁ……!?
覚悟はしてたけど……思った以上なんですけども……!?
座ってはいるけど、ちょっと腰が抜けちゃうぐらいには驚きまくってますわよ……!?
獏くんは笑顔で手を振ってれば大丈夫って言ってたから……とりあえずそうしてみようかな……。
そう思ってぎこちないながらも頑張って笑顔を作って、眼前の人達へ手を振ると、より歓声が大きくなった気がした。
ちょっと遠くだから見え辛い所はあるんだけど……この間街に来た時に感じた畏怖の視線も嫌悪の表情も見えなかった。
祝ってもらえてる……で大丈夫……なのかな……?
横を見れば、歓声を送る観衆を前に、満足そうな笑顔を浮かべながら、彼は大きく頷いていた。
「……ほらね、やっぱりひぃちゃんは皆に愛されるべき人なんだよ……!」
勿論俺が一番愛してるけどね!と小声で惚気る獏くんであります。
もう……他の人に聞こえたら恥ずかしいんですけど……もう!
暫く外に向けて手を振っていた私達だけど、おもむろに獏くんが立ち上がった。
手には何か紋章の刻まれた石を握っているみたい。
え?え?何か始まるの!?
彼は慌てる私に向かって笑顔で一つウインクをした後、観衆に視線を戻してその石を口元に話し始めた。
『……諸君!!今日は早朝から私達の為、集まってくれた事……心より感謝している!!』
『兼ねてより伝えていた通りだが……彼女を、ヒカゲさんを妻として、妃としてこの国に迎える事が出来たのだ!これは一重に親愛なる諸君の理解と協力があってこその結果であると思っている……本当に、本当にありがとうと伝えたい……!!』
『この場を借りて誓おう!これからの我が国の発展と守護を!!親愛なる諸君等と……何より愛しき妻に、だ!!!』
獏くんの数々の言葉に、聞き入っている観衆は大いに歓声を上げていた。
な、何で車内にいる彼の言葉が遠い観衆に届いてるの??
と、驚いていたら、いつの間にか車内に来ていたロゥジさんが教えてくれたんだけど、獏くんが持っているあの石は拡声石というらしくて、いわゆるマイク的なあれなんだって。なるほど!
獏くんだけじゃなくて、何故か私も一言挨拶をって事になったんだけど、気持ちは無理だけど断れる雰囲気ではなくて……獏くんに支えられつつも何とか立ち上がれた私です。
まあ……足は生まれたての小鹿宜しくガッタガタ震えてるけどね!
『え、え、えっと……み、皆々様、は、はじめまして……』
拡声石を受け取って、物凄く吃りながらも言葉を出すと、あれだけ賑やかだった観衆がすんと静かになった。
まるで先生の言葉を待つ生徒達みたいな感じ?
ちょ、ちょっと……そんなに構えられたら何も言えなくなっちゃうんですけど……!?
一旦深呼吸の後に言葉を続けた。
『わ、私は……ご存じの方もいるかと思いますが……この世界の生まれではありません。彼に助けられて、人間界からやって参りました……。まだこの世界には不馴れで、不束者ではありますが……精一杯努力致しますので……ど、どうぞ宜しくお願い致します……!』
もう言葉が出なくなるくらい緊張MAXだったので、最後に深々と頭を下げて終わりにした。
内容はとてもとても陳腐なあれだったけどね。
石を持つ手が震えて、危うく落としそうになったりしたけど、これが精一杯の今の気持ちなんです……大丈夫かな?
ちょっとの間の後に、獏くんの時ほどではないけど、拍手と歓声はそこそこに返してもらった感じです。
隣を見れば、満面の笑みの獏くんが激しく拍手しているし。
「ひぃちゃん……良かった!とっても良かったよ!!なんて謙虚で思いのこもった言葉だったんだろうか……!!」
どうやらうっすら涙ぐんでる様子もあります……いやいやそこまでじゃないよね!?
恥ずかしいやら、嬉しいやら……ともかく挨拶は出来たから私としてはやりきった感は満々ですわ……。
そういえば……何かもう一つ懸念してるとかしてないとか言ってた気がするんだけど……あれれ?




