呆れを通り越すと何も言えなくなるってあるよね……。
すぐ戻ってくるよ、とその話の通りで、獏くんは三分もしない内に部屋に帰ってきた。
カップ麺出来るより早かったわ……流石の獏くんであります。
まあ、一人で帰ってきた訳だけど、肝心の彼女は何処に連れてかれたのかしら……??
「ただいまーひぃちゃん!!」
なんて、さっきのお怒りも何処か置いてきてしまったのか、笑顔で戻ってきた彼です。
「あ、あの、獏くん、ナナヤさんは……?」
「ん?研修室に放り込んできたよ?」
さらっと言われたけど、研修室とは何ぞ??
獏くんが教えてくれたけど、ナナヤさんだけじゃなくて何かしらのミスをした人が送られる場所なんだとか。そこは魔術で空間と時間が歪んでいて、視界を埋め尽くさんばかりの指導書が並んでいるのと監視人のデバイさんって方がいらっしゃるんだって。監視人の指導の元、勉強し直して合格だったら出られるとか。
ちなみに中での一日が外では一時間ぐらいらしい。某国民的人気の漫画にもあったよねそんな設定……。
「彼女は研修室の常連だからね。何度行って帰ってきても、全く手の掛かる奴だよ……」
獏くんは溜め息混じりにそう言っていた。
基本的なものは身に付いているそうだけど、新しい何かが出来るようになると、他の何かが抜けてしまう。その繰り返しだとか。
どうも監視人さんも手を焼いているらしいよ。
私も仕事してた時は……結構ポカやって怒られたり慰められたりしたっけなぁ……なんて少し思ったりした。
何故に彼女が獏くん付きのアーゼなのか。それは彼女がこの城で一番の新人さんだから、らしい。
普通考えれば経験のある古株の人が就くべき立場なんだろうけど、あえて大変な難しい役職を与える事で、成長を見込めるはずという点とこれからの職務への見極めも兼ねてるとか。
うーん……ややブラック気味な感じもするんだけど……。
「まあ、この城に採用したからにはそれなりに実力や耐性があるんだよ。そうでなければとうに辞めていくからね」
部下を育てるのはなかなか難しいよ、と獏くんは苦笑いしながらそう言っていた。
「あ!ひぃちゃんに一つお願いと謝らなきゃいけない事があるんだった……!!」
突如何かを思い出したように顔色を変えて、私を見る獏くん。
お願いとか謝るとか藪から棒で何の話……??
またもや戸惑う私を、とりあえずとソファーに座らせた彼。
どうやら慌てているような感じがする。何か起きちゃったのかな……??
獏くんは私の隣に座ると、
「まずはパレードの事を伝えてなかった事を謝りたいんだ……!一応王家の婚姻の儀の後に御披露目で国を回る事になっているんだけど、伝えられていなくてごめん!!ひぃちゃんは目立つ事は嫌いだと思うんだけど、俺の立場もあるから、それには一旦参加をしてほしいんだ……」
本当に申し訳ない、と深々と頭を下げる彼。
そんな……獏くんが謝ったりする事じゃないのに……。
パレードってのは、さっきナナヤさんが言ってた事だよね?
それがこの国の王様に嫁に来た務めなら仕方ない事だもの。
大勢の前に出るなんて、それはそれは恥ずかしいけど……。
毎日やるとかじゃないんなら、頑張れる……気がするし。
「獏くん……謝らないで。私は大丈夫、だよ?」
「うっ……!ありがとう……ひぃちゃん!!」
顔を上げたら、若干涙ぐんでたよ彼……そこまでなの!?
「それで……パレードなんだけどさ……」
うんうん。
「実は……この後すぐに出発になるんだけど……」
うんうん……うん?
え?ええ??えええ???
そ、それは聞いてないんだけど……!?
だって明後日に予定変更したんでないの!?
思わず詰め寄ってしまったら、若干引き気味に獏くんが言った。
「ご、ごめん!さっきナナヤを問い詰めたらさ……」
……どうやらあの彼女、日時の変更を知らなかったばかりか、当初の予定でそのまま推し進めてしまったらしく、各地でもう待機の状態にしてしまったんだとか……。
早い所では昨日の深夜の時間帯から待ち構えている方々もいるとかいないとかだって話……。
あのとんでもない慌てっぷりはそこからも来てたのか……納得です……。
「……と、いう訳なんだ……」
眉を八の字にして明らかに困り顔の獏くんであります。
ああ……やる気が空回りしてるってこういう事ね……!
何だかんだで国全体を動かせるなんて……将来は大物になれそうだね彼女!
とりあえず話はそれくらいにして、想定外ながら私達はクロム国を巡る挨拶パレードに向かう事になったのでした。
ほぼヤケだけど……何度目かの龍騎車で出陣じゃぁ!!




