宴もたけなわでございます……。
その後、何事もなく時間は過ぎていった。
私が酔っ払ったお義父さんに絡まれまくって困ってたら、見かねた獏くんが若干プッツンしかかったりとか。流石に止めたけど。
フラロウスさんのファッションショーが唐突に始まったりとか。まるで手品みたいに次々と衣装が変わっていって見てて面白かったわー。モデルが全部おネエさんだったから絶妙な笑いが起きてたけど。
その後、酔っ払ったらしいアリーナちゃんが竜化して、一時大混乱が起きたりとか。どうも酔ったりすると魔力の制御が上手くいかなくなるらしいんだよね。
ちょっぴり羽目を外しすぎちゃった彼女はガチで獏くんに説教くらってたけどね。ロゥジさんも連帯責任で怒られてたっぽい……保護者は辛いよ……。
賑やかな披露宴的な感じで進んでいった。
私としては獏くんの料理が沢山食べられてるから、これ以上の幸せはないのですよ……どれも美味しいし、本当幸せ……!!
え?獏くんはって?
さっきから私の隣でニコニコしてるよ?
ニコニコと言うよりは……うっとりって方が良いかもだけど。
「はあ……いつ見ても良い食べっぷりだ……!作った苦労が一瞬で報われるよ……!ひぃちゃんのそんな嬉しそうな表情を見れるなんて……俺はなんて幸せなんだろうか……!!」
……だって。
あんまり見つめられながらだと、恥ずかしくて食べにくいってのがあるんだけど、正直空腹には勝てない。
……美味しいものは何にも勝るのです……!!
でもね、私ばっかり食べてるのも何だか気が引けるのですよ。
って事で、持ってたフォークにケーキの一片をぶすり。それを獏くんの顔の前にずいっと差し出す私。
いわゆるあーんの体勢でございます。
「え……くれるの??そんな……ひぃちゃんたら……!!」
私の動作に驚いたようだったけど、途端に緩んだ笑顔で、差し出したケーキをぱくり。
「んん~!美味しい、美味しいよひぃちゃん!!」
と、赤らめた頬を押さえながら、満面の笑顔で返してくれた。
自分で食べる時より、私に食べさせてもらった方がずっと美味しいよ!!なんて言ってた。もう……惚気ちゃって……!
良く考えたら、これってファーストバイトって事になるのかな?
新郎と新婦でお互いに一口ずつ食べさせあうんだけど、新郎からの一口には、これから食べるものには困らせないよ、って意味があって、新婦からの一口にはこれから美味しいものいっぱい作るね、って意味があったはず。
だけど……今まで一口どころか毎食作ってもらってるし、私は料理は唐揚げ以外は壊滅的に駄目だし……。
と言う事は……ファーストバイトが成り立たないって話なんだけど……?
まあ、今もこれからもきっと幸せだから良いかななんて。へへへ。
「ん?おお?そろそろ頃合いかのう?」
そんな中、なにげなく空を見上げていたお義父さんがそう言うと、皆合わせるように帰り支度のモードになった。
相変わらずの夕焼け空だから気付いていなかったけど、もう日にちを跨ごうかってぐらいの遅い時間だったみたい。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものなのです……。
帰りは獏くんと私でお見送り。
皆が帰るまでが結婚式だからね!!
お土産にはジン様の加護が籠った例のお菓子を手渡しで一人一人にプレゼント。
祭祀の場に行った時に食べさせてもらったあれです。
どうも他の国でも有名らしくて、皆喜んでたみたい。
空には次々と各国の龍騎車がお迎えに来ているのが見えた。
やっぱり国毎に違う作りなのと、それを牽くドラゴンも違うんだね……中々壮観ですわ……!
レディファーストなのかな、まずはピピリ様が帰る事になった。
(ふふ、今日はお招き頂いて嬉しかったですわ。また是非、カボ国へもお越し下さいね。あの人も待っていますから……)
私と獏くんの手を取りながら、淑やかに笑っていた。
「ええ、今日は遠路を遥々ありがとうございました、ピピリ様!ウィーにも宜しく伝えて下さい!」
華やかな香りを残して、ピピリ様は帰っていった。
その後はアルギ国王の二人のお迎えが来ていた。
「む……今日は……」
「今日は楽しかったよぅ!またアルギに遊びに来てねー!」
ソーマ様の挨拶に被せるように、食い気味なリーン様の挨拶。
コントのような流れだと、内心笑ってしまったわ。
アルギ国の方々は無言で獏くんに深々と礼をしていってた。
まるで神にお祈りでもするように厳かに。
こういった時にアルギ国の人達は言葉より態度で示すんだって。
獏くんの話では、私達は貴方方のこれからの幸せを祈っています、って取ればいいんだってさ。伝わりましたよ、ゼレハ女王様。
各国の来賓が帰っていった後に、クロム国の皆が帰る事になった。
フェンさん、フラロウスさん、アリーナちゃん、ロゥジさんは先にゴルディの街へと帰っていった。
酔い潰れてしまったおネエさんを軽々担いでいくロゥジさん……なんて男前なのかしら……!
実は……帰り際に一度フェンさんに抱きつかせてもらったのです。
ふんわりあったかな良い気持ちになれて、某アニメ映画のお子さまの気分になれたのは内緒のお話。
お義父さんとアサさんは一緒に帰るんだって。
どうやらアサさんのお店で今日の事を肴にもう一度飲み直すんだとか。
結構飲んでたのにまだ飲むんだ……二人とも強いなぁ……。
「それじゃあ……儂等も帰るとするかの!」
「ええ、ラディ様。ああ、バクゥ様、この度は良い嫁御様を見つけられました……!爺は心から嬉しく思っておりますよ。ヒカゲ様、これからもどうかバクゥ様を支えて下さい……!この後も仲睦まじく過ごされる事を爺は影ながら祈っておりますわい……」
アサさんが獏くんの手を取って、何度も頷きながら嬉しそうな顔で別れの挨拶をしていた。
「……ありがとう、アサ爺。それと……親父も……ありがとう、な」
獏くんの思いがけない言葉に、お義父さんは驚いた様子だったけど、すぐにニッと笑って、背を向けて歩いていってしまった。その後をアサさんが着いていき、二人は同時に空間転移で帰っていった。
言葉じゃなくて背中で語るって事かな……格好いい去り際だわ……!
……皆がいなくなって、会場には私達二人だけ。
思ったより静かになってしまってちょっと怖くなった。
「……じゃあ、俺達も帰ろうか、ひぃちゃん」
でも、今日からはひとりぼっちじゃない。
ようやく、正式に、家族として迎えてもらったんだもの。
大事で、大切で、大好きな旦那様がいてくれるんだもの。
とっても、とっても、とっても幸せだよ、獏くん。
彼の言葉にうん、と静かに頷く私。
こうして、山あり谷あり、波乱万丈の私達の結婚式は幕を閉じたのでした……!
めでたしめでたし!!




