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新生活を異世界で。  作者: 凍々
待ちに待った式当日のお話……です。
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夫婦初めての共同作業なあれです……。

 獏くんの機転の利いた対応には、来ていた方々からも拍手喝采が上がっていた。

 彼はそれに驕るわけでもなく、照れる素振りも見せず、涼やかに笑みを浮かべながら、

「皆々様、この度は元義母の仕業で大変お騒がせを致しました……!そして……討伐にご協力頂き、誠に感謝しております!憂いも無くなった今、再度宴をお楽しみ頂ければ幸いです。重ね重ね本日はご参列を頂き、心より感謝を伝えたいと思います……」

 深々と頭を下げ、落ち着き払った獏くんの言葉に、改めての拍手喝采が上がる。

 本当だったらこんな日に立て続けに事件が起きて、腸の煮えくり返る思いだと思うのに。

 言葉と態度だけでこの場を治めてしまうなんて、私には到底できないよ……。

 私だったらただただパニクって終わるわ……。

 重ね重ね脱帽ですわ……そして……すっごく格好いいよ、獏くん!!


 獏くんへの拍手喝采も一頻り終わった辺りで、彼は私の手を取り、観衆の前に歩み出した。

「皆々様……宴の再開の前に一つ催し物がございます。あちらをご覧下さい……」

 彼がそう言いながら指した先は、会場の中央。

 皆の視線が集まる先に、そそっと移動する私達。

 ……そこには、あの騒ぎでも全くの無傷だった塔の如くそびえるケーキがあるのです。

 結婚式、ケーキ、新郎新婦、催し物……って言ったら、もうあれしかないよね??

 何をするのか、興味津々の様子の皆々様であります。

 辺りの視線が集まった所で、獏くんは観衆に向けて話し始めた。

「これはウエディングケーキ、と言われるもので、彼女の故郷の婚姻の儀で用意されるものです!このケーキを新郎新婦が力を合わせて切る事で、夫婦初めての共同作業……つまり、これからの生活を共に歩んで行く最初の一歩になる儀式なのです!!」

 熱の籠った獏くんの説明に、観衆からはおお!と歓声が上がった。

 ふふふ……私としては、このケーキを見た時から正直ワクワクはしてたのですよ……!

 まさかね……異世界でケーキ入刀なんて事出来るなんて思っていなかったし、獏くんがそこまで考えててくれただなんて……感激で胸が一杯なのです……!

 いざケーキの前に立ってみると、クリームとかチョコとかの甘~い香りや瑞々しい果物の香りが鼻を擽る。

 見た目は何段か数えられてないけど、段ごとに色が違っていて、色とりどりの飾りと果物とが綺麗な虹色のテイストでございますよ。

 これも獏くんが今日早起きして作ってくれたらしくて、彼の苦労とこだわりが垣間見える一品になっております……頑張ったね……!

 そして、大きさに気後れしてしまう私。

 だって、私の背の三倍はありそうな高さなんだもの……。

 あの……これに入刀しちゃって大丈夫なのかな……??

 バランス崩したりとかしないのかなぁ……とか、折角の装飾が勿体無いなぁ……とか思っていたら、

「ふふ、心配しなくて大丈夫だよ?ひぃちゃんに食べて欲しくて頑張って味もこだわってみたから!」

 と、キラキラ笑顔とガッツポーズ付きな斜め上の回答が返ってきたのですよ。

 ち、違う……違うんだよ、獏くん……!

 そりゃあね、食べる上でね、味は大事だけれども!!大事だけれども!!!

 とりあえず、そっか!良かった!と無難な言葉を返した私でした……うぅ。


「それでは、入刀させて頂きます……!」

 そう言いながら、獏くんは収納(インベントリ)からケーキ入刀に使う大きめナイフを取り出すかと思いきや、握られていたのは、刃渡り一メートルはあろうかという大きな刀みたいなものだった。

 銀色の刀身にはうっすらと赤い波紋が輝き、背の部分はギザギザと尖っている。持ち手も同じく銀色だけど、何やら凝った装飾がされている。武骨な印象だけど、申し訳程度に赤いリボンも括られているような感じですよ。

 刀というか、これは青龍刀とか言う類いのものでは……!?

 ……少なくともケーキを切るには向いてない。

 獏くんが取り出したそれを見て、周囲が一気にざわめき立っている。

 あれは……もしかしたらクロム国の国宝級の武器では……?なんて聞こえてきてるのは、私の聞き間違いであって欲しいなぁ……。

 あの……ケーキ入刀って言っても、ほんの少し端っこをサクッと切るだけなんだよ?

 この刀で切ったら真っ二つになりそうなんだけど……切り倒すんじゃないんだけど……大丈夫なのかな……!?

「じゃあ、ひぃちゃん、行くよ……!」

 戸惑いつつも、彼の手にそっと私の手を重ねた。

 えっと……こうなったらもうやるしかないよね??

 願わくば、爆散なんて事にはなりませんように……!!

 皆の視線が集まる中、私達はそっとケーキへ刀を振り下ろしたのでした……。


 ……ケーキ入刀は終わりましたよ、ええ。

 ほんの少し一度切り込みを入れた瞬間に、ケーキがバラバラの細切れになってね?

 あんなに立派にそびえていたケーキが一瞬で崩壊する様は、それはそれは圧巻でしたとも……!

 それで、目の前で起きた事に呆然としている間にね、いつの間にか用意されてたお皿に、あっという間に取り分けも終わっててね?

 今は皆で食べてる最中ですよ、はい。

 獏くんに聞いたら、入刀したらそうなるように魔術的なものを組んであったんだって。

 そうなる前に教えて欲しかったかなぁ……心臓に悪いから……!!

「ま、まあ……気を取り直してよ、ひぃちゃん。それに折角作ったから沢山食べてよ!」

 私が不機嫌に見えたのか、取り繕うと少々慌て気味の彼だったけど、皆喜んでくれてるし、獏くんが気合いを入れて作ってくれたケーキも美味しいから……今日は良しとしておこうかな?


 私の前に取り分けられたケーキをぱくり。

 ……うん!ケーキとっても美味しい……!!

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