危機一髪……です!
声を上げるより早く、私は彼女の放った得体の知れない何かに囚われてしまったようだった。
気づけば目の前は暗闇、殺気か怨念か執念か嫉妬か絶望か、今まで感じた事のないとにかく良くない思念に包まれてしまったような感覚だった。
もがいても何かに押さえ付けられたように身動き一つ取れないし……。
「怖い……!嫌……嫌だよ……助けて……獏くん……!!」
私の助けを求める声も、暗闇に飲み込まれてしまったのか、誰からの返事も聞こえなかった。
「……あはははは!!妾を辱しめた罰よ!!そのまま朽ちるがいいわぁぁぁ!!」
絶望に打ちのめされそうな私の耳にそんな彼女の高笑いが響く。
うん……今回ばかりはもう駄目だわ……。
頼りになる、いつも守ってくれてる獏くんも側にいないもの。
短い間だったけど、こっちの世界で彼と過ごせたのは本当に良かったよ……。
どうしようもなくて生きるのを諦めかけていたその時だった。
驚いた事に、私の身体が光を放ち始めたのです!
「……え!?ええ??な、何??」
正確には、今着ているドレスが輝き出しているみたい。
ドレスからの光は徐々に強さを増して、辺りの暗闇を切り開くように広がっていく。
もしかして……私を……守ってくれている……とか……?
そして、大きく一つ、強い光を放った瞬間、私を捕らえていた何かは跡形もなく消え去って、元の空間に戻ってこれた……みたい。
私の周りには、お義父さんやフェンさん、アリーナちゃんやロゥジさん、そして……不安に満ちた涙目の獏くんがいた。
「た、助かった……の……?」
「ああ……良かった……良かった……ひぃちゃん……!!」
獏くんは放心状態になっていた私を強く抱き締めてくれた。
ごめんねと良かったと何度も何度も繰り返し呟いて、私を抱き締めたまま子供のように泣きじゃくる彼です。
とりあえず落ち着かせようと、彼の頭を優しく撫でてあげた。
ごめんね、獏くん……。
何が何だか良く分からないけど……心配掛けてしまって、本当にごめんなさい。
側にいたお義父さんが教えてくれたけど、随分と長く囚われていたように思っていたけど、彼女から放たれたあれに私が包まれたのはほんの一瞬の事だったらしい。
包まれた次の瞬間に、強い光が放たれて、あれは塵も残さず消え去ってしまったのだとか。
もしかすると、ここではない異世界に飛ばされそうになっていたのかもって……怖っ。
そんなの……考えただけで身体が震えるよ……。
とにかく、助かったから良かったよね?
「うふふ~♪間に合ったわねぇ♪」
ホッと一安心していた私の元に、周囲の人混みを割って、悠々と歩いてきたのは、フラロウスさんだった。
背中に大きな羽飾りとふりっふりのフリルが凄いドレス。はち切れんばかりの逞しい筋肉も輝いてます。
格好だけならまるで某劇団のトップみたい……。
おネエ様は色々と今日もキレッキレですね……!
ポージングしているおネエさんに目をとらわれていたけど、その遠くでカンビィ元前王妃が苦悶の表情でこちらを睨んでいるのに気が付いた。
「な、何故、何故……!?妾の呪術が効かぬ……!?」
彼女としては予想外の展開だったみたいで、動揺が隠せていないように見えた。
「バクゥ様から婚礼の儀の衣装を頼まれた時に、バクゥ様も仰ってたけど、恐らく貴女があれこれ邪魔してくるだろうって予想はついてたのよねぇ……」
「なっ……!」
え?そうなの?
戸惑う私に、いつの間にか泣き止んでいた獏くんが話してくれた。
「……そうさ、正確には人間界で襲撃された時から考えてた。わざわざあっちに出向いてまでひぃちゃんを狙ってきた所を鑑みるに、あのババアは執拗に君を殺そうって考えているのは明解だった。ルリィがやって来たのも、タイタン国の騒ぎも、この間の戦を仕掛けてきたのも、今回の事も、あのババアが仕組んでいるってね……」
え?タイタン国の事もカンビィ元前王妃が関わってたの!?
そんな前から考えていたなんて……全然気付かなかった……。
「だ・か・ら、バクゥ様からのオーダーは……愛する人を護る服!もしバクゥ様が側にいなくても、どんな脅威にもどんな禁忌の秘術にも、あらゆるものから彼女を護れるように、アタシが渾身の力を込めて仕上げたのよ~!!」
気合いと魔力を込めすぎちゃったから、おかげで倒れちゃったけどね♪と、ウィンクしながらの軽い調子でフラロウスさんはそう言った。
おおぅ……相変わらず顔の圧が凄いぜ……!!
と言うか、あの時の倒れた訳はそういう事だったんだ……色々と大変だったもんね。
そして、フラロウスさんはカンビィ元前王妃に向けてビシリと言い放った。
「アタシの力とバクゥ様の愛、そしてヒカゲ様の希望が詰まったこのドレスはいわば彼女を護る鎧よ!……貴女なんかの醜い、汚い力が届く訳ないでしょ?」
その言葉が止めになったのか、その後彼女は何も言い返すことはなかった。
「フラロウス……君のおかげで、ひぃちゃんを助ける事が出来たよ……心から、感謝するよ……!!」
そう言って、獏くんはおネエさんに深々と頭を下げた。
「バクゥ様ったらやだわぁ~!そんなお礼を言われるほどの事じゃないわよ~?アタシはアタシの仕事をオーダー通りに務め上げただけだものぉ~♪」
恥ずかしいのか、謙遜した様子でおネエさんは笑っていた。




