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新生活を異世界で。  作者: 凍々
待ちに待った式当日のお話……です。
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一難去って……?

 私の渾身の一撃と発言の後、会場には得も言われぬ沈黙が流れたのです。

 あれだけ滾っていた怒りが、沈黙と同時にスゥっと冷めていく。

 私の頭と背筋もスッと冷えていく感覚があった。

 ああ……やっちゃった……!

 ついに公然の場でやらかしたわ……!

 いくらお腹も空いてて、食べたいのを我慢していたとはいえ……。

 しかも……旦那様の前でよ……!

 もう、これは、引かれるどころか嫌われるヤツです……!

 成田離婚どころか式場離婚もあり得る展開じゃん……。

 あ、穴があったら入りたい……!

 入って上から蓋をしてもらいたい……!!

 短絡的な行動をしてしまった事で、鬱々した気持ちになって、今すぐこの場から飛び降りたい気持ちになっていた私を、後ろからそっと抱き締める感覚があった。

 驚いて視線を向けると、そこには穏やかな笑顔の獏くんがいた。

「……ひぃちゃん、落ち着いて。大丈夫だよ。この俺が……君を嫌いになる訳ないだろう?」

 むしろ惚れ直したよ、と耳元で囁かれた。

 彼の熱っぽい吐息が、私の耳元を擽って、何ともむず痒いし、恥ずかしくて、身体全体が熱くなってきてしまった。

 獏くん……こんな時でも優しい……。

 ……って、惚気ている場合ではなくて!?

「で、でも……でも……謝らなくっちゃ……!」

 獏くんの腕を振りほどき、謝ろうと動いた所で、サッと先に回られた獏くんに止められた。

「謝らないでいいんだよ、ひぃちゃん……。こうなる前にしっかりカタを付けてなかった俺が悪いんだ。ひぃちゃんに……愛する嫁に手を出させてしまったなんて……不甲斐なくてごめんよ……」

 そう言って、今度は前から抱き締められた。

 さっきよりも強い力だったので、ちょっと苦しい……。

 そんな私たちに対して、周囲からの視線が刺さる刺さる……。

 二重の意味で苦しいです……うぅ……。


 その後も暫く沈黙は続いていたけど、打開したのは一つの笑い声だった。

「ガッハッハ!!流石はバクゥの嫁じゃのう!!!実に気持ちの良い一撃じゃったわ!!!」

 スカッとしたわい!と、お義父さんが突如豪快に笑いだしたのだ。

 それにつられるように、周囲からは安堵の笑い声や拍手、そして歓声が上がってきて、場が和み始めたのが分かった。

「え……?皆怒ってないの……??」

 何だか拍子抜けしてしまって、思わず呟いた言葉に、彼は微笑みながら返してくれた。

「ふふ……怒るなんてとんでもないよ!皆ひぃちゃんに感謝してるんだ!やりたくても出来なかった事をひぃちゃんがしてくれたんだから!」

 獏くんの話では、カンビィ元前王妃はどの国でも厄介事ばかり起こしていたけれど、元とはいえクロム国の前王妃という事もあって大っぴらには処罰も出来なかったんだって。

 つまり、さっきのは意図せずして、皆の溜まっていた怒りを引き受けて、一撃食らわした形になった……って事らしい。

 感謝されてるって言われても……これは素直に喜べないんですけど……!?

 だって、空腹のあまりのやらかしだからね!?


 まあ、そんなこんなで宴が再開される事になった。

 会場は未だに惨憺たる有り様だけど。

 とりあえず、さっきやっつけてたフロン国の方々を総動員して片付けを急いでいるみたい。

 お義父さん達は、あの騒ぎの中でもちゃっかり各自でお酒やら食べ物を確保していたらしくて、もう騒ぎ始めていた。

 そんな中、片付けの終わったテーブルに案内されて、席に着いた私と獏くん。

 綺麗に片付いてしまった机上をみて、ああ……ここには愛しのご馳走ちゃん達がいたのに……!!と、かなり落ち込んでいたんだけど、

「ひぃちゃん……そんなに気を落とさなくて大丈夫だよ!」

 と、獏くんは収納(インベントリ)から、新しく料理を出してくれたのです!

 湯気も上がってて、出来立てホヤホヤ感凄い!

 もし食べられなかった時の為にって、多めに確保してくれたんだって!

 わあ!!とテンションが一気に戻った私。

「さっきの料理とは少し違うんだけど、良かったら食べてね!」

 一通り料理を出し終わると、獏くんは彼女の処遇に関して話し合わなきゃらしくて、席を外してしまった。

 ちょっと心細いのはあったけど……早速食べよう!!と、視界を上げると、その端に動くものがあった。

 それは……気絶したはずのカンビィ元前王妃だった。

 未だに拘束されたままだから、立ち上がる事は出来なかったようだけど、どうにか身体を起こして、こちらをギロリと憎しみの籠った目で睨み付けているようです……怖っ!!

 ギリギリと激しく歯軋りをしながら、髪を振り乱す様は、正気の沙汰ではない。

「くっ……相変わらず往生際の悪いババアだな……!!」

 彼女の挙動に気づいて戻ってきてくれた獏くんは苦々しげに呟いていた。

「こ、こ、こ、この女ぁぁぁ……!よくも……よくもこのカンビィに、妾に手を上げたわねぇぇぇ!!!」

 さっきの脆弱な感じは嘘のように、大きな奇声を上げ始めた。

 ……あ、生きてた!!

 気がついて良かった……じゃなくて、お怒りだよ!?

 そ、そりゃあ怒るわよね!?激おこですよね!?

 な、何だか背後に禍々しい黒いオーラ的な何かが揺らめいて見えるのは気のせいじゃないよね??

 ど、ど、ど、どうしよう……!!

 折角和んできた場に一気に緊張が走る。

 それぞれに表情も険しくなり、身構える皆様。

 私は再びの狂気に曝されて、身動き一つ出来そうにない。

「あんただけは……あんただけは……あんただけは……絶対に許さない……!!!道連れにしてやるわぁぁぁぁ!!!」

 その絶叫と共に、彼女の背後に揺らめいて見えた黒いオーラが、より深い黒になり、禍々しさを増したようだった。

 そして、そのオーラは実体を持ったように、得体の知れない何かに変化して、私へ素早く飛び掛かってきた!!

「ひぃちゃん!!!」

 迫る瞬間、スローモーションのようにゆっくりと流れて見える。

 え……ここで、こんな所で終わっちゃうの……??

 嫌……そんなの嫌だよ……!!

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