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新生活を異世界で。  作者: 凍々
待ちに待った式当日のお話……です。
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お祝いは受け付けますが、呪いはお断りです!!

「き、今日ぐらいは……何とか堪えてみるよ……ひぃちゃんの為にも……!!」

 獏くんはググっと拳を握り締めながら、かなり悲痛な表情を浮かべていた。

 そこまで嫌かぁ……拗れきってるねぇ……。

 妙な気合いが入ってしまったようだけど、とりあえずはよしとしよう、うん。

 何とも複雑な獏くんと一緒にお義父さんの元へと向かう私達でありました。


 ……と、思ったのだけど、おかしい事に気が付いた私。

 元々夕焼け空の感じだから明るくはないんだけど、それにしても暗くなりすぎじゃないかなって事。

 それとバサリバサリと何かが羽ばたく音が木霊し始めていた。

 ふと空を見上げると、黒い雲みたいのが丁度私達がいる浮き島の上に浮かんでいるのが見えた。

 黒い雲みたいのの中に何やら光るものも見える。

 あれは……もしかして目……なのかな……??

「ね、ねぇ……獏くん……あれは何……?」

 怖くなった私は獏くんに空の事を伝えた。

 スッと彼が空を見上げると、すぐさま表情が変わった。

「ひぃちゃん……あれは……フロンの奴等だ!!」

「え?」

 ……良く良く目を凝らしたら分かってしまった。

 ……あれは雲じゃない。

 ……黒い羽の集まりだって。

 ……光っていたのは、狂気染みた無数の目だって。


 その直後だった。

「バクゥぢゃぁぁぁぁん!!!お義母様が来たわよぉぉぉぉ!!!!」

 怨嗟の声と言えばいいのか、とにかく寒気がしそうな、おどろおどろしい大声が響き、浮き島全体が激しく揺れ始めた。

 皆一様に耳を塞ぎ、苦痛の表情を浮かべているようだった。

 な、何なの……!?な、何が来たって言うの……!?

 混乱しきった私を守るように、獏くんはぐっと抱き締めてくれていたから、何とか気絶せずに済んだ……かも。

 暫くして声が止むと、黒い羽の集まりはバッと四散して、一人一人のフロン国の人になった。空を覆いつくさんばかりの数だ。声も発する事なく、ただその場で羽ばたき、赤い目をこちらに向けている。

 そして中央には黒のボロボロのドレスを纏い、背中に黒い羽を生やした女の人が現れた。

 精気のない青白い肌、長い髪は逆立ち、目だけは爛々と赤く光っている。口元は大きく裂けて、ギザギザの乱食い歯が覗き、だらりと伸ばした両腕には、長く鋭い爪が並んでいるようだった。

 一目見て分かる。明らかに正気の沙汰ではないと。

 さっきの声の中に、お義母様が、って言ってたよね?

 って事は……この女の人が……カンビィ元前王妃!?

「何でぇぇぇ!妾を呼んでくれなかったのかしらぁぁぁぁ……!妾は貴方の母親でしょぉぉぉぉぉ!!それにぃぃぃ!!何なのぉぉぉ!!その女はぁぁぁぁ!!!ルリィちゃんという許嫁がありながらぁぁぁぁ!!この裏切り者がぁぁぁぁぁ!!!!!」

 鬼の形相で、こちらを睨み付けながら、荒々しく吠え続ける彼女。もう人ではない、怨念の塊のようだった。


 極度の恐怖で気絶しそうになっている私の側で、ブチンと何か切れた音が聴こえた。

 それから、恐る恐る彼の方を見れば、何故か笑っている獏くんがいた。こめかみからは一筋血が流れているけど、気づいていないみたい……?

 よく見ると口元が震えているし、目は笑ってはいなかった。

 あ、これは……突き抜けちゃってます。お怒りの極地です。MAXです。天災が起きます!!

「ごめんね、ひぃちゃん……少し待っててくれるかな……()()()()してくるからさ……」

 その顔のまま、呟く獏くん。

 掃除って……あの人達に立ち向かうって事!?

 そ、そんな危ないの駄目!!

 獏くんなら負けないって何となく直感で分かるんだけど、でもあんな変な人達に関わったら駄目だってば!!

 嫌だって頑張って伝えたけど、獏くんは笑顔で首を横に振った。

「ごめんね……ここでケリを付けないと、また奴等が来ちゃうからさ。……ひぃちゃんを傷付けようとするクズ共は死に値するからね。それに……俺だけじゃないから大丈夫!」

 そう言う獏くんの後ろに、お義父さんやアリーナちゃん、ロゥジさん、フラロウスさん、リーン王やソーマ王、アサさんまで。その他の参列の方々が並び立っていた。

 皆一様にお怒りの顔です。

 ……多分、宴に水を刺されたってのが大きい気がするけど。

「こんな日に来やがって……皆殺しだ……!!!」

 そこからの獏くんとその他の皆様の連合軍は凄かった。

 迫り来るフロン国の軍勢を千切っては投げ、蹴散らしていく様は、まるで嵐のよう。

 打ちのめされたフロン国の人々が次々と落ちていってるし……。

 あれで本当に死人が出てないって嘘じゃないのかしら……。

 ちなみに、フェンさんは獏くんに頼まれたらしくて、ピピリ様と私を結界で守ってくれているのです。

 意図せずして女子会になってしまったのです。

 夕焼け空で大乱闘、結界越しにも伝わる修羅場っぷりですよ……。

「ふふふ~皆血気盛んだわね~」

 どこから取り出したか分からないけど、お茶なんか飲みつつ、のほほんと呟いているフェンさん。相変わらずですね……。

(そうですわね……全くこんな祝いの席を襲撃するなど、カンビィ様は余程根性がねじ曲がっていらっしゃるのね……!)

 同じく、お茶を手にそう言うピピリ様は笑顔だけど、目が笑ってなかった。怖い。

「あ、あの……あの方が、獏くんの……元お母さんなんですか……?」

「そうよ~。ああ~ヒカゲ様は、まだあの人に会った事なかったのね~?」

 はい、とおずおず頷く私。

 獏くんが物凄く嫌っていて、かなり悪い人ってのは聞いてたけど……あんなに化け物染みた人だなんて聞いてなかったのですが……。

 そうなのねぇ~、と少し困った感じの笑顔を浮かべた後に、フェンさんは事情を説明してくれた。

「多分~あの感じだと~マルビルの過剰摂取によるものね~」

 マルビルってのは魔力の供給に使うこちらの世界でいう栄養剤みたいなものだったはず。

 前にも聞いたけど、本来は魔力の枯渇を防ぐもの。

 だけど、飲めば飲むほど一時的に魔力量を増強する事も出来るんだって。

 ただ、過剰な魔力は肉体にも精神にも悪影響を及ぼすし、最悪死に至るから、どの国でもマルビルの過剰摂取は禁じられているんだって。

 用法、用量を守って正しく使いましょうってヤツです。

 フェンさんの話では、先の戦で失った魔力を取り戻すためにマルビルを過剰摂取した結果、精神が飛んで、魔術も暴走して、今回の暴挙に至ったんじゃないかって話。

 うぇ……まるで危険なクスリやってハイになって事件起こす人と同じじゃんか……。

 でも……何で今日なの……何でぇぇぇぇ……!!

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