誓うに決まってます!!
私と獏くんが揃った所で、何処からかゴォン……と重厚な鐘の音が一つ響いた。
恐らくは開始の合図なんだろう。
鐘の音が響き渡ると同時に、ざわついていた式場内が、スッと静まり返った。
「はいはい~。御両人様が揃ったわね~。では、これより……クロム国国王夫妻の婚姻の儀を始めます」
その言葉を境に、フェンさんが纏う雰囲気が変わった。
穏やかさは変わらずだけど、この間聞いたような間延びした口調ではなく、重みのあるしっかりしたものになっていた。
細い糸目はスッと見開かれ、深い緑の目がこちらを見据えている。
仕事モードって事なんだろうか……獏くんが先生って呼ぶのが分かった気がする……。
照明も相まって、神々しさも感じるほどだもの。
祭祀長と呼ばれるのは伊達じゃないって事だわ……。
こちらの言葉で祝詞的なものを唱えた後に、フェンさんは獏くんを見て、
「花婿……バクゥ・ジン・クロム。貴方は、花嫁を妻として迎え、生の続く限り、彼女を護り、慈しみ、愛を育み、共にこれからの生涯を歩む事を誓いますか?」
「はい!誓います!!」
大分食い気味の返事。まるで開会式の選手宣誓だわ……。
思わず吹き出しそうになったけど、本人は大真面目に言ってるんだから、それは失礼だよね。
でも……誓ってくれて良かった……!!
まさかここまで来て、誓わないって事はないはずだけど、本当に安心できたわ……。
フェンさんは獏くんの言葉に一つ頷いた後に、今度は私の方に視界を移して、
「花嫁……ヒカゲ・アリノ。貴女は、花婿を夫として定め、生の続く限り、彼を支え、慈しみ、愛を育み、共にこれからの生涯を歩む事を誓いますか?」
「はい……誓います!」
緊張でちょっと声が裏返っちゃった気もするけど……返事は勿論誓うに決まってます!!
隣の獏くんが安心したような笑顔を浮かべていた。
多分獏くんも同じ事を考えてたのかな……似た者同士だわ……。
私の言葉にも一つフェンさんは頷いてみせた。
「……お二人の誓いの言葉、私祭祀長フェンとこの場の参列者全てが聞き届けました……。また、クロム族創造者、闇を司るジン様も聞き届けて下さったでしょう……」
向かい合うように指示があって、私達はそっと体勢を変える。
「それでは……魂を結ぶ、誓いの口付けを……」
獏くんとバッチリ視線が合った。
彼の顔は思った通り、真っ赤だった。うっすら汗もかいてるみたい。
獏くんも緊張してるんだね……私もだけどね!
肩にそっと手が置かれた。その手が若干震えている。
い、いよいよ……いよいよなのね!?
瞬きもせずどぎまぎしていると、目を閉じて……と口パクで言われて、私はスッと目を閉じてその時を待つ。
それから間もなく……唇に柔らかい感触が当たった。
こっそり薄目を開けると、間近には獏くんの顔。
わ、わ、わ、わ!!
し、しちゃった!?こんな公然の前で……キスしちゃった……!?
恥ずかしいけど……嬉しい!!嬉しいよ……獏くん……!!
私達の誓いのキスを見届けた後に、フェンさんは満足そうに大きく頷いてから、高々と両手を掲げた。
「ここに新たな夫婦、家族の誕生が相成りました事、私祭祀長フェンが宣言致します!!どうぞ、ご両人にどうぞ祝福を!!」
フェンさんの言葉の後、式場中に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
耳が痛くなるくらいとっても激しい、盛大な拍手。
鐘の音が拍手の中に遠く響く。
それと何処からともなく舞い降りる花弁とシャボン玉。
多分誰かの魔法なのかな?
何だかテーマパークの中にいるみたいな不思議な感じ。
祝福は暫く続いた。
「では……これを持ちまして、クロム国国王夫妻の婚姻の儀を終了とさせて頂きます。この後は、バクゥ様……」
フェンさんの合図で、獏くんが一つ前に踏み出した。
目の前の参列者に深々と礼をした後に、居ずまいを正して、静かに話し始めた。
「……この度は私共の婚姻の儀にご多忙の中ご参列頂き、誠に感謝しております。この後はささやかながら宴の席を設けております。心ばかりの料理とを用意しておりますので、どうぞご移動下さい……」
獏くんが指を鳴らすと、式場の後方に転移の門が開き、皆はそれに向かって動き出していた。
皆が移動し終わると、式場内には私と獏くん、それとフェンさんの三人が残された。
さっきの賑やかさが嘘のように静まり返った式場。
結婚式……無事に終わったって事だよね……。
「うふふ~お疲れ様だわね~」
普段の調子に戻ったフェンさんが笑顔でこちらを見ていた。
「先生……この度はお付き合い頂き、本当にありがとうございました……!」
獏くんはフェンさんに向けて、深々と頭を下げて、感謝の意を示した。
私も慌てて、頭を下げる。
「いえいえ~。こちら式の婚姻の儀しかした事なかったから~ちゃんと務められたか分からないけど~、いい経験になったわぁ~」
と、フェンさんは身体を震わせながら、穏やかな笑顔で笑っていた。
えっと……結婚式が終わったって事は……次は披露宴になるのかな?
ちょっと気疲れしちゃったのか、正直眠くなってきちゃったんだけど……。
そんなグロッキーな私に獏くんがそっと耳打ちしてきた。
聞いたら、腕によりを奮った料理を用意してくれてるって!!
やったー!!やる気出てきたぁぁぁぁ!!!




