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新生活を異世界で。  作者: 凍々
待ちに待った式当日のお話……です。
82/114

結婚式と書いて、決戦と読むぐらいの心意気です!

 私、お風呂場なう。

 湯船の中で絶賛体育座り中でございます。

 へへ……入れたよ……ようやく入れたよぉぉぉ……。

 だけどね……とんだハプニングのせいで素直に喜べないんですけど……!

 ええ……危うく裸事件ですわ……、今さっき私が名付けたんだけどね。

 い、いずれはね?そうなる場面も来るはずなんだけどさ?

 やっぱり……雰囲気とかタイミングとかもあるじゃない?

 少なくともさっきは違うかなぁって……。

 ……なんて、考え始めたらまた恥ずかしさが戻ってきちゃったよ!

 湯船に浸かっている以上に身体全体が暑いわよ!

 私が沸かしちゃってるのかってくらい熱いですわよ!

 誰が聞いている訳でもないけど、お湯をバシャバシャ顔に掛けて気を反らそうとする私です。やり過ぎてちと溺れかけたのは内緒だよ?

 そういえば、獏くんの確認もせずに、こっち来ちゃったけど……大丈夫だったかな……?

 これまでの事を顧みると……多分大丈夫な気もするけど、早々に上がって謝らなくっちゃだよね。

 久々にやらかしたわ……うぅ、情けない……!


 お風呂を上がって、着替えて外に出ると、獏くんは応接セットのソファーで読書中みたいだった。

 そそっと近づいて、向かいの席に座る。

 私に気付いていないのか、それとも顔を合わせ辛いのか、獏くんの視線はまだ本に向いているようだった。

 でも……持ってる本が上下逆さまな所を見ると……動揺が続いているみたい……。ベタな戸惑い方だねぇ……。

 私が恐る恐る声を掛けてみると、驚いたようにバッと顔を上げた彼。

「ご、ごめんよ!考え事してて気付いてなかった……」

「ううん、いいの!さ、さっきはごめんね……獏くん……。色々と……しでかしちゃって……大丈夫……??」

 怪我とかしてない?と聞くと、まだ真っ赤な顔をした彼は、手と首を大きく振って、

「い、いや?!お、俺は全然平気さ!あ、謝るのは俺の方だし……。しっかり使い方を説明出来てなかったから……」

 と、逆に謝られてしまった。

 いやいや……どうなるかまで聞いてなかった私がいけないんです……獏くんが謝る所じゃないのよ……!

 まあ、まるで反応してくれないよりは良いのかもしれないけど……妻としては?

 その後、私こそ、いや俺こそと謝り合う展開になって、結局どっちも譲らない感じになって、途中から何だか可笑しくなってきて二人で笑って終わった。

 似た者同士、似たもの夫婦って事なんだよね、結局。

 前にもこんな事あった気がするなぁ……なんて思ったりして。

 まあ、いいか!この話はここでおしまい!


 と、場も和んだ所で獏くんが改めて、と話し始めた。

「……ひぃちゃん、俺達の式の事なんだけど……」

 ……結婚式ね!

 うん、忘れていた訳じゃないけど、最近色々とありすぎて……。

「そうだね……忙しくさせてしまってごめんよ……。まあ、各国の長にも一通り面通しは出来たし、式場やその他の用意も整ったんだ!あとは……日にちの事なんだけどさ……」

 えっと、元の世界では大安が良くて、仏滅は避けた方がいいとかあったけど、こっちの世界でもそういった縁起担ぎはあるのかな?

「……明日、にしようと思うんだけど、いいかな?」

 一拍置いてからの獏くん、満面の笑みであります。

「へ?」

 想像より早かった……思わず変な声が出ちゃったよ。

 ついでに軽くずっこけちゃったよ……!

 あ、明日でございますか!?相変わらず仕事が早い……!!

「本当は今日にしようかと思ったんだけど……昨日のでひぃちゃんも疲れてるだろうと思ったからね。でも、これ以上待たせてしまうのは俺としても、ひぃちゃんに申し訳ないから……」

 最後は少し苦しい表情をしていた彼。その表情にチクリと胸が痛む感覚があった。

 中々式を迎えられない事を、彼なりに思っている所があったんだね……。

 私の事なんてそんなに気にしないでいいのに……申し訳ないのは私の方なのに。

 あの時、死にそうになっていたのを助けてもらっただけで、私は感謝してもしきれないのに。

 何不自由なく、こちらでも暮らせているのは獏くんのおかげなんだから。

 式なんて挙げてなくても、私は獏くんと一緒にいられるだけで、今までの人生の中で一番幸せなんだもの。

 時々ね、ちょっと度が過ぎる事もあるし、怖い事もあったりするけど、私、今は凄く幸せなんだよ。

 ……獏くんは本当に優しい人だよね。

 以前も思ったり事だけどね、私なんかには勿体ない、本当に素敵な人よ。全くね。

 返事をしようと口を開こうと思ったけど、色々と思いが込み上げてきて、上手く言葉に出来そうになかった。

 その代わりに、そっと獏くんの肩とか腕にもたれかかってみる私。

 獏くんは一瞬びくりと驚いたようだったけど、彼はおずおずと私の肩に手を回して、軽くトントンと触りながら、

「明日で……良い……かな……?」

 じっと私と目を合わせて、緊張したように呟く彼。

 うん、と静かに頷く私。

 獏くんがそう決めたのなら、私は別に反対なんかしないよ。

「……っ、ありがとう!ひぃちゃん!」

 私の返事にパッと表情を明るくして、最後は感極まったのか、がばりと抱き付かれた。

 良かった、良かったと呟きながら、いつも通りの割と容赦ないハグで、ちょっと苦しかったけど、それだけ想っていてくれるからだと思えば、案外悪くないかもとか思えたり。へへへ。


 ……決戦は明日です。決定でございます。

 どうやら、リハーサルなしの一本勝負のようです。

 明日はこの世界で一番幸せな花嫁だってくらいの気概で望もうと思う訳ですよ!……言い過ぎかな?

 式を挙げる事はゴールではないけど、その先に進むための大事な大事なステップだと思う。

 どうなるかは開けてみないと分からないシュレディンガー的な話だけどね。

 でも、きっと良い日になるだろうって思ってる。

 私達二人だもの。何だって乗り越えられる、よね!!

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