やっと一安心……からの!?
ま、まあ彼等のご事情はさておき、王家への挨拶は出来たみたいだから良かったのかな?
とりあえず目的はこれで達した訳だよね……?
ほっと胸を撫で下ろした私。獏くんの方を見れば、同じように少し安堵したような雰囲気になっていた。
あとは帰るだけ……と思っていた矢先、リーン王から、
「あ!二人共、祭祀の場行くんでしょー?良かったら僕が案内してあげるよー!」
そうだった!他の国に着いたら、その土地の創造者に挨拶しなきゃいけないんだった!
1つ前のタイタン国では祭祀の場に行く所じゃなかったし、最後の国はしっかり挨拶しておかないとだよね?
でも、王様直々に案内してくれるなんて……ネオン国でもそうだったけど、かなり畏れ多いよね……。
リーン王の言葉に少し思案するような仕草を見せた獏くんだったけど、考えが纏まったみたいで、彼に向けて、
「ああ、まだリュート様にご挨拶していなかったね……。折角なんで案内を頼めるかな、リーン王?」
「任せといてー!」
元気にピッと片手を上げて返事してくれたリーン王。まるで、先生に呼ばれた小学生みたいに無邪気に見えた。可愛い。
「あ!バクゥ王が泳ぎが苦手なのは聞いてるけどー、彼女は泳げるのかなー?それによって案内の仕方が変わるんだけどー?」
恥ずかしながら……と、首を横に振る私。
多分、魔術の補助があっても、私は駄目な気がするのよ……。
私の返事に残念そうな表情を浮かべたリーン王。
「そっかー。一緒に泳げないのは残念だけど、それなら、フフドを呼ぶから待っててー!」
そう言って、彼は勢い良く水の中へ潜って行ってしまった。
……フフドって……誰?新しい名前が出てきたよ??
獏くんの方を見ると、多分知っているらしい風だけど、ふふふと笑って流されたのですが……。
私知ってるよ!あれはまた驚かせようと思って隠してる系の笑顔だ……!
も、もうちょっとやそっとじゃ驚かないんだからね!?
そんな中、今まで無言だったソーマ王が口を開いた。
「……フフドは我が国のドラゴンの名で、祭祀の場を守っているのだ。我らの祭祀の場はこの王城の下、水底にあるのでな、本来は潜ってむかうのだが、全てのものがそうではない。フフドはそういったもの達の助けをしてくれるのだ……」
そう掛からずこちらには来るだろう、とソーマ王は言った。
待つ間、リーン王が潜っていった方を見つめていると、青く深い水の底に何かキラリと光るものがあった。
ん?さっきまでは何もなかったと思うんだけど……何だろ……?
もう少し近付いて見てみようかと、足を踏み出そうとした瞬間に、獏くんにすかさず抱き上げられてしまった。
ついでにどこから出したのか大きめの傘まで開いてる。
急な事で戸惑う私だったけど、その直後に光った所から天井まで届きそうなぐらいの大きな水柱が上がった。
準備の良かった獏くんが傘をさしててくれたから、被らずにすんだけど……激しく傘を打つ水の音が凄いんですけど……!!
もしかして……危ないからって止めてくれた……のかな?
とりあえず、獏くんにありがとうと伝えたら、えへへと口元を弛めて笑ってた。
……打ち上がって落ちてくる水も落ち着いてきたみたい。
獏くんが傘を閉じた後、辺りの様子に驚く私。
見れば、辺りはゲリラ豪雨でもあったのかってくらいにびしょ濡れの感じ。一緒に打ち上がったらしい魚や海藻なんかも散らかってた。
これだけ大変な状況になってるけど、ソーマ王は慌てる風もなく王座に座ったままの所を見ると、わりとよくある事なのかもしれない。流石、現地の人は違うなぁ……。
……なんて、感心してる場合じゃなくて!!
もっと、手前、手前を見て、私!!!
そう……目の前には何かぬっと大きなものが現れてるのですよ……!!
恐る恐るその方向へ視線を動かしていくと……!!
な!な!!な!!!
何か……首長竜?ネッシー?みたいの出てきたぁぁぁ!!?
全身は深緑の細かい鱗に覆われていて、光を受けて波打つように光っている。水面を覆い尽くす程の巨体には、するりと伸びた長い首。しなやかそうな背鰭も備えているみたい。頭部には冠のように立派な鰭が見える。水晶玉のように澄んだ両目には、私と獏くんが映っていた。
思わず、獏くんの後ろへ隠れてしまった私。
「へへへー!二人共お待たせー!」
ネッシー?の背中には、こちらに向けて手を振るリーン王の姿が。
どうやら、この首長竜さんが、さっき話に出ていたフフドってドラゴンみたいだね……。
「さっき紹介したフフドだよー!可愛いでしょー?」
そう言いながら、リーン王が背中をさすると、嬉しいのか、フフドは目を細めて、クルルルル……と低く唸り声を上げた。
えっと……可愛いかはさておき、大人しそうではあるのは分かりました。はい。
「さてとー、じゃあ二人共ー、あのゴンドラに乗ってくれるかなー!」
え?ゴンドラって??と、リーン王の指差す方を見ると、ソーマ王が従者を伴って、何か奥から引っ張ってきているのが見えた。
それは透明のガラスで出来た箱みたいなもので、銀色の縁取がされていて、上部には長めの鎖が取り付けられているみたい。丁度獏くんと私、二人が立って入れるぐらいの大きさだった。
これに乗れば、そのまま祭祀の場で参拝が出来るんだって。その為のガラス張りみたいだね。
不安に思ったのは、水圧とか大丈夫なのかとかどのくらい潜るのか分からないけど、中の酸素は持つのかなって事なんだけど……。
獏くんにそっと聞いてみたら、
「……ああ、あのゴンドラには強固って防御魔術と呼吸って補助魔術が組まれているから、見た目よりずっと頑丈だし、中で窒息なんて事にはならないよ。それに俺がついてるし、間違ってもそんな事にはならないから安心して、ひぃちゃん!」
……だって。獏くんがそう言うなら……大丈夫だよね!
じゃあ乗り込むかと、ゴンドラの方へ向かうけど、扉がないみたい……?
どうしたらいいのかと戸惑ってたら、ゴンドラの側面にソーマ王が手を翳すと、扉の形に光の線が入って、しゅんと入り口が現れた。
ほえ……魔術って色々と便利だねぇ……。
私達が乗り込んだのを見届けると、再びソーマ王が扉を閉じてくれた。
「二人共大丈夫かなー?それじゃ、フフドー、宜しくねー!」
返事をするように、フフドはクォォォォ……と静かに一つ鳴くと、首を伸ばして、ゴンドラの鎖を噛んで、持ち上げ始めた。
思ったより揺れもなく、私達の乗ったゴンドラはゆっくりと動き、そして静かに水面下へ引き込まれていくのでありました……。




