空に浮かぶは、水の国……です。
さあ、気を取り直して……次のアルギ国へ向かわなきゃです!
えっと……次で最後だったよね??
気合いを入れるべく、グッとガッツポーズでもと思った矢先に、ぐぅぅぅぅぅ……とお腹の虫さんが返事してくれたよ……!
いつもならね、何でこんな時に……!!と自己嫌悪に陥る所なんだけども、今回は仕方ないわ……。
だってね……お昼を食べて以来、何も食べれてなかったのよ……。
食べる暇がなかったというか、食べる気持ちの余裕がなかったと言うべきかな?
さっきの騒動も落ち着いた事と、あと一国で終わるっていう事で少し安心できて、それで空腹に気づけたみたいな感じだと思う。多分だけど。
私のお腹の音を聞いて、獏くんはハッとしたように側に寄ってきて、取り乱した表情で私を見やった。
「ああ……ごめんよ、ひぃちゃん……!俺としたことが、ひぃちゃんのご飯の時間を逃してしまうだなんて……!!」
今すぐ何か作るから!と慌てて、ミニキッチンに向かう彼であります。
うぅ……獏くん優しい……!!神レベルに優しい……!!
余程急いでくれたのか、多分5分も経たずに、獏くんは料理を作って戻ってきてくれた。
「出来たよー!待たせちゃってごめんね!」
彼が作ってくれたのは、カツサンドだった。結構多めの。
カリッと焼かれたパンの間に、きつね色の衣に包まれた分厚いお肉がサンドされてて、パンとカツの間にはみずみずしいヒーリャの千切りも添えてくれてるみたい。ソースの香りもしてきてて、匂いだけでもとっても美味しそう!
あの短時間でどうやって作ったのかは分からないけど……手軽にガッツリ食べられる系の料理が今はとっても嬉しい!!流石獏くん!!
「実はさ……俺も腹減ってたんだ。着くまでもう少しあるから……少ないかもだけど、一緒に食べよう?」
うんうん!!と激しく首を縦に振る私。
まるで子供のような返事の私に、獏くんは満足そうに笑ってた。
……まあ、例の如く、すぐ食べ終わっちゃったのですけど。
お肉がね、お肉がとにかく美味しかったのです……!
味は牛肉に近い感じで、程よい揚げ加減から生まれる食感……噛めば噛むほど溢れ出る肉汁……デミグラスソースが絡まるとより絶品ですたい。
聞いたら、ザーロックのお肉を使ったんだって。ネオン国でお土産にって貰ったやつね。
今までに食べたお肉の中で一番美味しかったな……思い出すだけで涎が出てきちゃうよ……。もっと味わって食べたら良かったと今更ながら後悔してるよね……。
まだ半分はあるから、今度こそ帰ったら食べようね、だって!
わーい!最後の訪問国も頑張れる気がしてきた!
我ながら非常に単純な事で喜んでるけど、食べる事は大事だからね!そりゃテンションも上がりますとも!!
お腹も程好く満たした辺りで、どうやら目的地に着いたみたい。
車窓の外、空中には大小様々な丸い水の塊がふよふよと浮かんでいるのが見えた。その上には陸地が乗っていて、森っぽかったり、建物が建てられていたり、何かのシンボルがあったりと、生簀みたいに網で囲ってあったりと、なかなか不思議な光景だった。
水の中には、キラキラと反射する動くものがいて、多分、あれがお魚なんだと思う。
水族館の水槽があちらこちらに浮いている感じで、とっても癒される光景だね……。
クロム国と似ていて、アルギ国は目の前にある水の塊からなる複数の大陸で構成されているんだって。
中央に一際大きな水の塊とその上に神殿みたいな立派な建造物があるんだけど、そこがアルギ王家の居城らしいよ。
水の創造者リュートを信仰する彼らは以前ゴルディの街で見たような半身が魚の様なマリューという人達と、リザーブという蜥蜴と人が合わさったような人達の二種類の連合体だそう。どちらも体には鱗を持つ事が特徴なんだって。
マリュー達は主に水の中で暮らすけど、リザーブ達は主に上の陸地の水辺で暮らしていて、上手い事住み分けはされてるみたい。お互いに補いあって暮らしているようです。
あ、リザーブ達は泳げない訳ではないし、マリュー達も水から離れられないって訳じゃないんだって。ゴルディの街で見かけたように、水分補給が出来れば基本的にはどの土地でも暮らせるみたい。流石にタイタン国みたいな暑い所やネオン国のような乾燥がキツイ場所は無理みたいだけど。
空に浮かぶ水の塊一つにつき、一つの村や町があって、それぞれに捕れるお魚も水質も違っているらしい。海水とか淡水とか汽水とかね。
前にも聞いた事だけど、主に漁業を生業とした人が多く、養殖なんかもしているんだって。あとは、泳ぎに来たり、釣りをしたりとかする他国の人も多いらしくて、観光地としても人気なんだってさ。
こっちの世界に来て、何度か食べさせてもらったお魚はほぼアルギ国からの出荷で、お魚の出荷だけで言えばこの世界の約8割のシェア率っていうから驚きだよね。
創造者の加護もあって、水産資源は非常に潤沢ではあるらしいけど、彼らはそれに驕らず、昔から出荷の上限を決めてそれを守り、同時に繁殖や保護にも力を入れているらしい。穏やかな昔ながらの暮らしを続けている事が、この国の繁栄にも深く関わっているんだよ、と獏くんは教えてくれた。
相変わらず、獏くんは博識だね……辞書要らずだよ……。
ここまで聞いて、はたと気付いた事があった私です。
もしかして……泳がなきゃいけない……のかな?
わ、私……恥ずかしながら……かなづちなんですけど……!?




