ちょっと良いとこ見せたかっただけかもだけど、人に迷惑かけるのは止めましょう!
魔力が充填されたのか、記録石からスッと音もなく映像が浮かび上がってきた。思い思いの顔で皆映像を見つめている。
初めは真っ暗な映像とガチャガチャという音の後、パッと光が入り、映ったのは、タイタン国の地上だろうか。背景に火山や溶岩、山々が連なっているのが映っている。
そして、何やら自信に満ちたような、悪巧みを閃いたような、ニヤニヤした王子様が中央に映っていた。
――……っと、きちんと動いてる……よな……?ここに置いておけばバッチリ映るだろう!!へへへ!!
身だしなみをちょちょいっと整えた後、彼は記録石に向かって、胸を大きく張りつつ、話し始めた。
――……コホン!親父から聞いたけど、今日この国に、クロム国から国王が来るらしい!!ふふん!角付きの王なんて大した事ない奴に決まってらぁ!第一王子である、このリビトが……少し遊んでやろうじゃないか!!オレがすこーし弄ってやれば、きっと泣きべそかいて出てくるぞ?楽しみだな!!
彼は空を仰ぎながら、ブツブツと何やら言っている。
――ふふふ……オレが角付きの王を倒せれば、父上も母上達もきっと喜んでくれるし、オレの地位ももっと上がる!……って爺やも言ってたしな!!念の為、国宝の滅爪も持ってきたし!これなら大丈夫だろ!!
そうニヤニヤした彼の手には、子供の手では不釣り合いな銀色に光るメリケンサックに鋭い爪が付いたものが握られていた。
多分、あれが国宝……だよね?
殴られたらひとたまりもなさそう……!
――……おかしいなぁ……そろそろ来るはずなんだけど……あ!来たぞ、来たぞ!?
そう叫ぶ彼の前方、遠くには、黒い影がポツンと映っている。あれは私達って事だね?
――ん?呑気に龍騎車なんて乗ってきやがって……オレだってあんまり乗せて貰ったことないのに……角付きのくせに!!
その後はまるで八つ当たりをするように、龍騎車に向かって滅爪とやらを振り始めた。
振る度に何もない空間に爪痕が刻まれ、その爪痕は勢いをつけて目標である私達の所へ飛んでいっているみたい。
獏くんがそっと教えてくれたんだけど、使用者の魔力を使って魔力の刃を作る事ができ、魔力の質で威力が変わる魔道具の一種なんだって。ただ、本来は近接用だから、距離が離れると威力は落ちちゃうらしいけど。
――えい!!そりゃぁぁぁ!!でぇい!!……くそぉ!ドラゴンが邪魔で車両まで当たらないじゃないか!くそ、くそぉぉぉ!!
一心不乱に滅爪を振り続けている彼だけど、段々とペースが落ちてきたみたい。
――やべっ……魔力が足りなくなってきたぞ??そ、そうだ!マルビルは……って!?
ドーピングしてまで攻撃を続けようとした彼の前に、ふっと現れる一つの影。ば、獏くんだ……!
――はっ!?お、お前は……や、止めろぉ!!離せ!!離せってぇぇぇ……!!
映像は恐らく獏くんが王子様を捕まえた所だろう、そこでぶつりと終わっていた。
ああ……宣言してた通りで、バッチリ映っちゃってたね……色々と……。
もしタイトルをつけるなら……そうね……。
《オレ、他国の王に喧嘩売ってみたwww結果は如何に!?》
……とかいう子供のイキリ動画になりそうね……。
映像が終わった今、得も言われぬ沈黙が流れているよ……当然の事だけども。
これは見る方も見られる方も辛いものがあるよね……ここが地獄か……!!
「……と、言う訳ですよ、ライゼン王……」
そう冷静に伝えている風の獏くんだけど、肩がフルフルしてる所を見ると……多分、笑いを堪えてるみたいだね……。
き、気持ちは分かるけど、そこはスルーしてあげて……!!
まあ、求められていた証拠もバッチリ示した所で、王子様を床に下ろした彼。ついでに取り上げてたらしい国宝の武器もライゼン王に返してた。
……そうだね、子供には危ない代物だからね!!親御さんには返さないと、だね!
受け取りつつも、ちょっとの間呆然とフリーズしてしまったライゼン王であります……無理もないやね……。
それから我に返ったのか、その場でぐぐぐっと力を溜めるような動作をし始めた。
ライゼン王の挙動に機敏に気づいた獏くん。
「おっと……これは危ないな……?」
と、私を背中に庇う体勢を取ると、何やら呪文を唱え始めた。
呪文と共に何か薄い虹色の膜が私達を包んでいくようだった。もしかして、防御の結界的なものなのかな?
結界を張り終わった直後、ライデン王がすぅーと大きく息を吸い込む動作を見せた。そして……!
「こ、この……馬鹿者がぁぁぁぁ!!!!!」
静かだった室内に激しい怒声が響き渡った。
まるで火山が爆発したような、激しい怒りが解き放たれたようだよ……!
赤々としたオーラを背に、髪は逆立ち、顔は仁王像のような強い威圧感。足元の床は彼を中心にメキメキと砕けて、宙に舞っている。
ま、まるで……スーパー何とか人みたいになってる……!?
幸い、獏くんの張ってくれた結界でその衝撃は届かないみたい……助かったぁ……!
でも、結界越しに聞こえるのは……あ、あれに近いわ!アリーナちゃんの咆哮みたいな轟音です!!
「ふう……回避壁張っといて正解だったな……。あ!ひぃちゃん大丈夫??」
「だ、大丈夫……かも……?」
それなら良かった、と獏くんはいつもの笑顔で笑ってた。
多分、ここで駄目と言おうもんなら、キレた獏くんまでこの騒ぎに参入しかねないと思った私。これ以上の騒ぎはちょっとキャパオーバーなんですけど……!
長い怒声が終わり、轟音は収束していったけど、まだそこには怒り収まらぬ様子のライデン王が、床を踏み抜きそうな勢いで重い足跡を響かせて王子様に近付いていってる。
お怒りが直撃した王子様と言えば、衝撃に耐えられなかったのか、壁際まで吹き飛ばされてしまったらしい。
「ご……ごめん……なざい……!!ぢ、父上を喜ばぜだがっだのです……!」
息も絶え絶えな様子で這いずりながらも必死に弁明する王子様だけど、怒髪衝天の王様には届かないみたい。
「ええい!私が喜ぶだと!?言い訳など聞きたくはない!!!お前は……お前という奴は……何を仕出かしたか分かっているのか!!私だけでなく、この国の全ての者に泥を塗る真似をしおって!!!」
そう言うと、ライデン王はリビト王子を床から乱暴に拾い上げると、城の奥へと凄い足音を響かせながら、去って行ってしまった。
慌てて王妃様もその後をそそくさと追っかけて行ってしまったから、残されたのは私達だけだったのでした……。
遠くから鳴き声だか悲鳴が聞こえた気がしたけど……気のせいだよね……きっと……。
……はい……てな訳でタイタン国への訪問は終了致しました!
これ以上厄介事に巻き込まれては堪らないって事で、速やかに引き上げて、最後の訪問国へ向かいます!!
もう精神的にしんどさMAXなんですけど……頑張ってみるよ……!




