この子あってのこの親ありですわ……!
そんなこんなでタイタン国王、ライゼン王とお妃様のコプラ様の御前でございます……。
ライゼン王は眼鏡を掛けたゴリラ風、コプラ妃は妖艶なウサギ風の獣人さんみたい。昔歴史の教科書で見た、中国の皇帝様とか皇后様が着ているような豪華な服を纏っている。
彼は炎をイメージした荒々しい装飾が付いた大きな玉座に腰掛けていて、肘掛けの辺りに彼女が横に座っているようだった。
第一印象はあれだね……美女と野獣だわ。
あまり王子様と似てないなと思って、小声でこっそり獏くんに尋ねてみたら、タイタン国は一夫多妻制で、王子様は1番目のお妃様の子供なんだって。ちなみに、今目の前にいるのは3番目のお妃様だとか。なるほど、理解したわ……。
そして、歓迎ムードとは程遠い、とても二人とも険しい顔をしながらこちらを見ているよ……。
まあ、理由はどうあれ、獏くんの片手に実の息子が捕まえられてたらそんな顔にもなるよね!
挨拶の前に喧嘩売っちゃったレベルの話だね!
私としてはもう心臓が口から飛び出そうなぐらいビクビクしてるんだけど!?初対面で怒られる気配MAXなんですけど!?
険悪ムード漂う室内……。胃がキリキリして穴開きそう……!
そんな中、口火を切ったのはライゼン王だった。
「クロム国王……今日は貴殿の婚礼の報告に我が国に来たと聞いているのだが……これはどういう事なのかね……?」
ライゼン王は捕まったままの王子様に視線をやりつつ、獏くんを威嚇するように睨み付けている。冷静には聞こえる低い声からは、沸々とした怒りも感じられる。プレッシャーが凄いのよ……!
多分、今すぐにでも激昂したい気持ちはあるんだろうけど、目の前にいるのは曲がりなりにも他国の王。下手すれば、戦争案件だもんね。
怒り出す前に、とりあえず訳を聞いてから、って事があるんじゃないかと思った。あくまで推測だけども。
「ライゼン王……貴殿の仰る通り、私達は婚礼のご報告に参りました。それに相違はございません。ただ、その前に起きたトラブルで、無礼と知りつつ、貴殿の御子息を拘束させて頂いた次第です。それも訳あってです。一旦話を聞いて頂けますか?」
テンパりまくっている私とは反対で、獏くんはまるで動じておらず、極めて冷静に笑みも浮かべつつ、ライゼン王と対峙しているよ。流石、一国の主だわ……!
「……トラブルとな?何ぞ……そこな我が子が貴殿等にしたというのかね?」
彼は片眉を上げ、怪訝そうな表情で隣の王妃を見る。彼女も知らないといった風に不安そうな表情で首を振っていた。
おろ?もしかして、王子様のした事をご存じないとか??
「……その訳……聞かせてもらおうか、クロム国王……!」
こちらへ向き直りながら、返答次第では容赦しないと、ライゼン王は険しい顔でそう言った。
……で、獏くんはライゼン王に向かって、王子様が何をしたかと、これまでの顛末を話した訳です。
「まさか……それは本当なのか……!?」
と、ご夫妻共々明らかに動揺しているみたい。
察するに……本当に把握してなかったっぽいね。それはそれで不味いのでは……??
「ええ……私としても非常に心苦しい所ではありましたが……」
獏くんはそう神妙な表情を浮かべながら、ふうと一つ溜め息をついていた。
そして、未だに獏くんに吊られたままの王子様を見れば、青ざめきった顔でガタガタと震えている。
「オ、オレが……や、やった、証拠……なんて、な、ないぞ……!」
反撃するように、か細い声で、王子様は呟いた。
おっと!?ここで白を切るつもりなの!?
王子様の呟きを聞き逃さなかったライゼン王、はたと閃いたように態度を翻した。
「そ、そうだな!その通りだ!!我が子がそんな常識外れな馬鹿を仕出かす訳がなかろう!証拠だ!その攻撃をしたという確固たる証拠はあるのか!?」
一つ突破口を見つけたと言わんばかりに、先程までの動揺はどこへやら。
一転して我が子の擁護と獏くんへの批難へ走り始めたライゼン王……小狡いわー!
玉座から立ちあがり、獏くんへと詰め寄る姿勢のようです。
そ、そんな……証拠だなんて……!!
……確かに私は彼が攻撃してきた所は見てないし、ロゥジさん達も誰がそうしてきたかは知らなかったみたいだし……。
「ば、獏くん……?」
不安に駆られた私は獏くんを見る。
すると、安心してと言うように、彼は笑みと共に私に向かって一つウインクして見せた。
え……だ、大丈夫って事でいいの?私、もう緊張し過ぎで倒れそうなんだけど……!
ヒヤヒヤする展開の中、獏くんは冷たい笑みを浮かべながら、
「ふふ……勿論……証拠ならありますとも……ライゼン王?」
「「「「え!?」」」」
獏くんがそうさらりと言いのけると、彼以外の私を含む全員が驚きの声を上げた。
一番驚いてるのは、当人の彼だった。
証拠ってのは彼が苦し紛れに言ったはずの言葉だもの……。
「……これは御子息の持っていた記録石です。拘束の際にこれも回収させて頂きました。この中を見れば、一目瞭然だと思われますよ……!」
獏くんは懐から出したそれを床にそっと置くと、魔力を込め始めたみたい。
確か……そうすると映像が再生されるはず。ちょっと前に獏くんも使ってた、私にとっては未だに恥ずかしい思い出のあれだね!
「……!!ちょ……ま、待ってくれ!!」
すると、先程まで震えるばかりだった彼は急に慌てたように、吊られたまま激しく抵抗し始めた。
あれれ?証拠が映っている以上に、何か彼にとって不味いものでも映ってるのかな……?
ま、まあ……とにかく見てみよう……!




