窓の外は火の海でした……。
とりあえず襲撃も落ち着いたという事で、私達はタイタン国の城に向かう事になったのです。
……勿論、件の王子様も連れてです。
荒れた大地に赤々と流れる溶岩の川を越え、切り立った山々をすり抜けて、龍騎車はぐんぐん奥地へ向かっているようだった。
流石、火の創造者イブリスの土地……焦熱地獄です……!!
進む度に、室内の温度も上がっているのか、まるでサウナの中にいるみたいに暑くなってきてるよ……!
領地に入る直前、獏くんが気遣って、冷却って魔法を掛けてくれたんだけど……今は焼け石に水状態で、もう暑くてたまらんですわ……!
格好も問題だと思うんだよね……ここでドレスは暑いのよ……!
獏くんには申し訳ないんだけど……今すぐ脱いでシャワー浴びたい……!!
涼しげに笑う獏くんに励まされながら、暑さに必死に耐えて、漸く辿り着いたのは一際大きな山の頂だった。
火口に当たるんだと思うけど、その頂上はぽっかりと大きな穴が空いていて、そこから更に下に降りていくらしい。その先にタイタン族の住み処があるんだって。
どこまで降りていくんだろう……全然底が見えそうになくてちょっと怖いんですけど……!?
暗闇を進んでいくと、揺らめく光が遠くに見えた。
近づく度に見えてきたのは大きな祭壇。その中央では激しい炎が天を点くように立ち上っていた。
祭壇の回りは大きく広く開けた場所になっていて、地面や床からは金属だろうか、刺々しい塊が至る所から飛び出している。
洞穴も沢山あるようで、見た感じそこに彼等は暮らしているのかな?どの人も慌ただしく出入りしたり、大きな鉱石を担いでいる人もいるようだった。
広場のような場所に龍騎車は降りたみたい。獏くんに手を引かれて外に出た。
……やっぱり暑いね、ここは……。薄暗さも相まって熱帯夜な感じだわ。
あ!アリーナちゃんもロゥジさんも無事だったよ!
見た感じはどこも怪我はしてないみたい……良かったわ……。
彼の話では、領地が見えた直後から攻撃が始まったらしくて、攻撃自体は全てアリーナちゃんの張った防壁で防ぐ事は出来たけど、その余波で車体まで衝撃がいっちゃったみたい。
今は修復っていう魔術で車体を直しているついでに、各種メンテ中だって。アリーナちゃんも人化してお手伝いしてたよ。
修理に回っているロゥジさんとアリーナちゃんを残して、私達はタイタン族の城に辿り着いたのです。
城に着いた時、獏くんは王子様に掛けてた拘束とかを解いたんだけど、その途端に脱兎の如く逃げ出そうとしたので、改めて獏くんに捕まってた。
もうね、ここまできたら諦めて素直に謝った方が良いと思うなぁ……。
逃げ出したくなる気持ちは私も分かるけどね、経験則からいくと誤魔化すよりポイント高いよ??
ここで、獏くんから聞いた、タイタン国の紹介コーナーのお時間でーす。パチパチ。
この国を治めているのは、獣人であるタイタン族。六大陸の中で一番人口が多く、国の約九割は彼等獣人が占めているんだとか。
以前は純血に拘るプライドの高さから、他種族の介入を酷く嫌っていて、混血なんて認めないという保守的な考えを持つ人達が多かったようだけど、少しずつ緩和はしているみたい。これはフェンさんも言っていた事だね。
火の創造者イブリスの加護を受けた土地は荒野と火山帯で出来ており、地上は滅多に雨も降らず、高熱で乾燥しきった気候なので、タイタン族は地下を切り開いて生活しているそう。地下は地下で暑いらしいけど。地下には武器や防具、果ては日常品にも使われる様々な鉱物資源が豊富で、鉱物の輸出は各国で一番。その加工技術も優れているんだって。
ちなみに、王子様がしきりに言っていた、角付き、という言葉だけど、タイタン族の人々がクロム族を指して使う、所謂蔑称に当たる言葉らしい。
かなり昔らしいけど、彼等がクロム国に攻め入った事があるらしい。
腕力と兵の数には自信のあった彼等は、序盤こそ有り余る力と数でクロム族を圧倒した。けれど、それはクロム族側の作戦だった。魔術と知力に長けていたクロム族は、まんまと誘い込まれた大勢のタイタン族を広範囲魔術で一掃。その際に主力部隊を失った彼等は為す術なく、瞬く間に戦況は逆転し、戦はタイタン族の大敗で幕を閉じたんだとか。タイタン族は死傷者を多数出したけれど、クロム族は治療や防御魔術が発達していたお陰で、死傷者ゼロ、ほぼ無傷で戦を終えたらしい。
こちらは全力を出したのに相手は本気ではなかった、と当時のタイタン族は酷くプライドを傷つけられたんだとか。
その辺りの遺恨が未だに残っているらしく、戦の生き残りの古参の人達、戦を知る人は、角付き、とクロム族を呼んで、裏で忌み嫌っているんだってさ。
若い人達はそう呼ぶことは殆どないらしいけど、王子様の場合は、王家のプライドもあるし、未だにその恨みを持った古参の人達が妙な話でも吹き込んでいるんだろうって獏くんは話してた。
話を聞いてて思ったのは、やっぱり戦争なんてない方がいいって事。勝っても負けても何かしら残るんだもの。
平和が一番だよね、うん。
……話が長くなっちゃったけど、もうすぐ国王様達に会えるみたい。
場が荒れないと良いなってだけ、今は祈っておこう……。




