大人げないって?……イラッとしたから仕方がないのですよ……。
獣人の国、タイタンに着いた直後、何者かに攻撃を受けた私達。
我慢してたらしいけどプッツンした獏くんが、その何者かを連れて戻ってきたよ。
連れて戻ってきたのが、なんと……タイタン国の王子様なんだってさ……。
もう唖然を通り越して言葉がないわ……。
攻撃を受けたのも分からないけど、その張本人を、しかも王子様を連れてきちゃうって……何でなの……?
器が大きいって見るべき?それとも向こう見ずって見るべき?
ナニガ、オキテルノカ、ヨク、ワカラナイヨ……??
呆然とするそんな私の目の前で、獏くんは吊り上げた王子に向かって鬼の形相と殺気混じりの視線で睨み付けている。負けじと王子も涙目ながら睨み返しているけど……迫力の差は歴然です。
蛇に睨まれた蛙状態ってこう言う事を言うんだと思う……。
「い、いい加減、離せよぉ!こらぁぁ!!」
「おいチビ……どういう了見で攻撃したんだ……?俺だけじゃなく、我が国の希少なドラゴニアと優秀な御者も傷付けようとした挙げ句、誰よりも大事な俺の嫁まで巻き込もうとしたな?ああ!?」
「オ、オレは敵を排除する為に先陣を切っただけだ!つ、角付き達なんかに我が国の領土は踏ませるものかぁ!!」
「は?今日訪問する事は連絡済みだ。お前の親父から聞いていないのか??」
「え?そ、そんな話は聞いてないぞ!そうやってオレを謀るつもりだな!?やはり角付きは信用ならないな!!」
「はあ……俺達は戦をしに来た訳じゃないんだが?いくら子供とは言え、いい加減にしろよ……?」
会話を聞いているに、どうにも噛み合ってないような……?
それに、獏くんを指してやたらと、角付き、って言ってるけど……あんまり良い意味では使ってないみたいね……。
しっかし……何でこの子はこんなに敵対心を顕にしているのかが不思議なんだよね。
もしかして……タイタン国とクロム国って仲悪い……?
「お前がタイタン国の王子だからってな……俺の女神に危害を加えようとした時点で、お前は俺の敵だ。俺は敵にはどんな奴にも容赦しないが……」
殺ってやろうか?……と、より語気を強めて詰め寄る獏くん。
その迫力と怒気に、王子はヒィと小さく悲鳴を上げていた。
……殺っちゃまずいよ!殺気が駄々漏れですよ!!
本当に獏くんは怒ると怖い怖い……!
「……お、おい!そ、そこの女ぁぁ!」
急にこっちに矛先が向いた!?
急なキラーパスをもらった私はどうしていいか分からず、とりあえず辺りを見回した。
えっと……この車内に女性と言うと……私だけですよね……?
「……そうだよ!お前だ!この馬鹿を止めろぉ!オレはタイタン国の王子だぞ!!こんな事して……親父が黙ってないぞ!!と、とにかく!早くオレを降ろさせろぉぉ!!」
相変わらず獏くんに吊られたまま、ジタバタし続ける王子様。
でも……遠慮のない彼の言葉にカチンときた私。
むむ……いくら王子様って言っても……ちょーっと言葉使いが悪いんじゃないかしら??
子供の言う事にいちいち目くじら立てても仕方ないとは思うけど、言って良い事とそうでない事は分かってほしいかな……!
しかも、人の旦那様に向かって馬鹿って……(確かにちょっとそれはと思う時は少なくないけど)それはないわ……!!
親がどれだけ偉かろうが、それは貴方が偉いのとは違うと思いますけどー??
多分あれでしょ?王子様だからって好き勝手してきて、回りもイイヨイイヨで来ちゃった節でしょ?
甘々の甘ちゃんで育ってきたって事でしょ?
あ、何だか物凄くイライラしてきた……!!
もうあれだよね、ガツンとやっちゃっていいよね?ね?ね??
「ひ、ひぃちゃん……?か、顔が怖いよ……!」
え?そんな事ナイヨー?いつも通りダヨー??
珍しく笑ってみたら、こっちを見る獏くんが震えてるし、王子様も何だか顔色が悪いみたい……何でかしら??
とりあえず、何でか大人しくなった王子様。
きっと、私が知らない内に獏くんがしっかり怒ってくれたんだね!流石獏くんだわー。
とりあえず降ろしてはもらった王子様だけど、また暴れられても大変だって事で、獏くんの魔術で拘束はされてるみたい。
ついでにギャーギャー五月蠅いって事で、沈黙ってのも掛けたんだって。
さっきから何か言いたい事があるみたいで、ご不満顔でこちらに向かって激しく口を動かしているけど、魔術で声が出なくなっているからただの口パクにしかなってないのが残念だね!
……うん。不謹慎かもだけど、ちょっとすっきりしたわ。
獏くんも同じ気持ちなのか、いつもよりニコニコしているみたいに見える。
さっきの顔……かなり怖かったからね……やっぱり獏くんは笑ってる顔の方がずっと良いわ。
ひぃちゃんのおかげで助かったよー、なんて言ってたけど、私は何もしてないからね?ね?
さて……本筋から逸れてしまっていたけど、タイタン国に挨拶に行かないとだよね?
今日中に回るって話はまだ継続中らしいから、こんな所で詰まってちゃいけないんだよね?
獏くんに尋ねてみると、私に向かって頷いた後、少し意地の悪い笑顔を王子様に向けながら、
「ふふ、そうだね。彼の両親……特に母親には報告もしといた方が良いだろうし……引き渡して次のアルギに向かおうか、ひぃちゃん?」
母親に報告、と言う言葉に、王子様は不味い……!と青ざめた表情で口をパクパクしてる。
表情から察するに……彼にとってかなり都合が悪いみたいね。
ふむふむ……お母さんの前では良い子ちゃんでいたい感じかな?
……それなら尚の事、伝えておかないと……ねぇ??




