陽気な王は森に笑う……。
ゼレハ女王への謁見は無事終了したらしい。
まあ、殆ど獏くんが話をしてくれたから実感が沸いてない所はあるけど、主に結婚のお祝いの言葉とこれからの激励のお言葉を頂いたらしいです。
彼女の話す金属音に似たあの音は、本来のネオン族の言葉なんだって。この世界における共通語もあるらしいんだけど、彼女等には発音が難しいんだって。通常は御側付きの人が通訳に入って会話するらしい。理解できてる獏くん凄い……!
その後は、ネオン族の祭祀の場まで案内してもらって二人で土地神様にも挨拶してきたよ。塔の最下層にあったんだけど、何故か砂嵐が吹き荒れてて、目も開けられないくらいだった。クロム国の祭祀の場とはまた違った大変さがあったけどね。普段は風は吹いても、そんなに嵐が起きるなんて事はないらしいんだけど、獏くんがゼレハ女王から聞いた話では、シルキー様の機嫌が良い時はそう嵐が起きるんだってさ。嫌われた訳ではないみたいだから良かったかな?
しかも、帰りは女王様が自ら水晶の船を出してくれて、龍騎車まで送ってくれた。なんて恐れ多い事かしら……!
「キリキ……キリュ……キキキキ……」
彼女は別れ際にそう言って私の手を取ってくれた。
やっぱり意味は分からなかったけど、多分お別れの挨拶だと思ったので、ありがとうございますと伝えたらまた少しだけ笑ってくれた気がした。ついでにだけど、その時、何でか獏くんが照れていたんだよね。
彼女が引き上げた後、気になったので聞いてみた。
――次に来る時には子供の顔を見せておくれ――
……って言ってたらしいです。
うん……それ聞いたら照れちゃうというか、反応にちょっと困るやつだね……。
あ、そうそう!お土産にってあの美味しいって評判のザーロックのお肉を貰ったよ!帰ってから焼いてくれるって!楽しみ!
そんなこんなでネオン国を後にして、今は次のカボ族の国に向かっております。
カボ族って……植物みたいな見た目の人達だったはずだけど、この間ゴルディの街に行った時には会う事はできなかったんだよね。
結構獏くんとの話の中では何度も聞いたりしてるんだけど。主にご飯時にね。だからね、ちょっと楽しみにしてたのです……!
決して美味しいもの目当てではないよ?
どんな人達なのか獏くんに聞いてみると、快く話してくれた。
「カボ族についてかい?そうだね……彼等は六種族の中でも戦いを好まない温厚な種族さ。特性上、あまり国を離れる事が出来ないんだけど、大地の守護者ドーラの加護があるから、六大陸の中で一番肥沃で豊かな自然を生かして、農業に従事する人達が多いかな。ひぃちゃんも良く食べている野菜や果物、薬草の殆どはカボ国からの出荷なんだ。新鮮だし、旨いし、安全だし、彼等の作るものは外れがないんだよね……」
ほうほう!益々会ってみたい人達だね!
そんな話をしている内に、目的地に着いたらしい。
隣の国だからあっという間だったみたい。
見えてきたのは、森と山と花畑と川と……とても自然豊かな風景だった。
獏くんの話の通りで、確かに豊かな土地みたい。
前に訪れたネオン国の広漠な光景とはまるで正反対だね。
何となくだけど、クロム国に比べて、のどかな田舎の感じがする。
そして、龍騎車は森が少し開けた辺りに着陸したらしい。
扉を開いて、外に出ると、一面に緑が広がる静かな場所だった。
うーん……見てるだけでも癒される……。マイナスイオンもきっと出てるわ……。
グッと背伸びをして、深呼吸。
森の香りは気持ちが良いねぇ……落ち着くわ……!
獏くんが言うには、この国には城にあたるものはなくて、森の中に国王様はいるらしい。
少し森の中を歩くと、前方に際立って大きなこの木何の木ぐらいの立派な樹が植わっていた。
森の中で一番幹も枝も根も太くて逞しい。森の主といった風貌だった。
そして、その樹を指して、獏くんは私に言った。
「ひぃちゃん……この人がカボ族の国王、ウィードル様、だよ」
……んん??ど、どこにいらっしゃるの?
獏くんが教えてくれたんだけど、私には正直ただの大きな樹にしか見えないんだけども……?
もしかして……私には見えない何かが獏くんには見えてるの??
……と、戸惑っている私の頭の中に直接語り掛ける声があった。
わりと若めの落ち着いた感じの男性の声だった。
(……私が見つけられないかい?)
驚いて辺りを見回すも、やっぱり木々しか目に入らない。確かにさっきから何処と無く視線は感じているけど、その主が全く見つからない。
えぇぇぇぇ……ホラーな展開だよ……!
「ウィー……あまり俺の嫁を怖がらせないでくれないか?」
獏くんの呆れたような言葉に反応するように、目の前の大樹の幹がメキメキと音を立てて形を変えていく。
そして、幹からせり出してくる形で上半身だけの人が現れた。
生き生きとした立派な大樹をイメージするような筋肉質でわりかしごつめの男性。陽気さを感じる明るい顔立ち。何て言うのかな……イタリア系の感じ?
肌は薄い緑色で、所々が樹皮に置き換わっているようだ。髪はドレッド風に纏められていて、青々とした蔦のよう。上半身は幹に根を張ったように繋がっている。
き、き、樹から人が出てきた!!
驚き、思わず後退る私に、その人は豪快に笑いながら話始めた。話と言っても彼に口はなくて、直接頭の中に聞こえてくるような不思議なものだったけど。
(ハハハ!つい悪戯心が出てしまってね、すまないね、バクゥ。それと可愛い娘さん……彼の妃と言った方がいいかな?ようこそカボ国へ!私がウィードル・カボ・ドーラ!この国を治めるものだよ!気軽にウィーと呼んでもらっても平気さ!)
彼の言葉に呼応するように、周囲の木々が、花達がざわざわとざわめき始めていた。まるで彼に歓声を送る観衆みたいに。
ま、またキャラの濃い人が出てきた……!?あわわわ……!




