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新生活を異世界で。  作者: 凍々
六大陸(内1国は見送り)を巡った時のお話……です。
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砂の海の女王様にお会いしました!

 初めの訪問国、ネオン国へ向かっている私達。

 さっきのお昼ご飯でお腹も一杯になったので、座ったままついうとうととしていた時だった。

「……ひぃちゃん!ネオン国が見えてきたよ……!」

 距離としてはあと数十分の所まで来たらしい。

 獏くんは少し肩を揺すりながら起こしてくれて、私は眠たい目を擦りつつ、彼が指差す車窓の方を見た。

 車窓の外に見えてきたのは……空に浮かぶ砂漠だった。

 止めどなく流れる砂の海は、大陸の端だろうか、零れ落ちて外界へと流れて行くようだ。時折大きな蛇のような生き物が悠々と砂の海を泳ぐ様も見える。大陸の中央には、大地を貫くように巨大な結晶の柱がそびえていて、その柱を取り囲むように大小様々な結晶が浮かんでいて、それらは空の光を受けて赤く輝いているようだった。

 おお……思ったより凄い景色……!

 綺麗な景色ではあるけど……とても誰かが住んでいるようには見えないよ……?

 唖然としている私を見て、獏くんは何だか満足そうに笑った。

「ふふ……中々壮観だろ?あの国は別名を砂海の国って言ってね、国土の殆どは砂で出来ているんだよ」

 見る限りは一面砂だけに見えるけど、底に水晶の層があって大陸を支えていて、その水晶にはネオン族が信仰している風の加護神、シルキーの力が宿っていて、大陸全土を浮かしているのと、彼らの生活の糧にもなっているんだって。

 主な産出物は、砂と水晶。魔術の媒体に使われたりするらしい。あと、砂海(ここ)にしか生息していないザーロックという生き物のお肉が美味しいらしいよ。もしかして……さっき見かけたやつかな?


 突如、車体が動きを止め、車両全体が大きく一つ揺れた。

 突然の事で倒れそうになる私を支えてくれた獏くん。と、同時に窓の外へ視線を向けて呟いた。

「ふむ……どうやら迎えが来たようだよ、ひぃちゃん」

 え?お迎えって……ここまだ空中じゃ!?

 窓の外を見てごらんと彼に言われて、恐る恐る窓の方へ視線を向けると……そこには長い丈の茶色のローブを着た、そのフードを目深に被った子供のような人が浮いていた。足が少し裾から見えるけど、何となく甲殻質な感じがする。

「だ、誰!?」

 思わず声を上げると、私を宥めるように獏くんがそっと話す。

「大丈夫だよ、ひぃちゃん。あれはネオン族の使者だよ」

 窓越しながら私達と目が合ったのか、その人は一つお辞儀をして、スッと飛び去ってしまった。

 一体何が……と混乱していた所、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。だから、ここまだ空中なんだけど……!?

 戸惑う私を残して、獏くんが車両のドアを開く。

 すると、そこには今さっき外に浮かんでいた人がいた。

 獏くんが招き入れると、風と共にスッと車両内へ。そして両袖を顔の前に合わせて、深々と頭を下げて話始めた。

「……クロム国、国王様、オ妃様、デス、ネ?私ハ、ギュラィ。ゼレハ女王、ノ、御側付キ、デ、ゴザイ、マス……。コノ、度ハ、遠路遥々、オ越シ、頂キ、女王ニ、代ワリ、御礼、申シ上ゲ、マス……」

 掠れて、途切れ途切れの声だったけれど、とても丁寧な言葉だった。

「塔デ、女王様ガ、オ待チカネ、デ、ゴザイ、マス……。私、ガ、ゴ案内、サセテ、頂キ、マス……」

 頼む、と獏くんが返事を返すと、ギュラィさんは一つ頷いた後に、背中の薄翅を広げて、再び空へ飛び出して行った。


 ものの5分も経たずに、再度扉がノックされた。

 戻ってきたのはギュラィさんだけでなくて、ローブの色がくすんだ灰色の三人組が、水晶で出来た船を牽いてきたみたい。

 獏くんが言うには、龍騎車を停める安定した場所がないんだって。ここからは乗り換えなきゃいけないみたい。アリーナちゃん達はここで待機だそうです。

 おっかなびっくりで船に乗り換えて、水晶の船で空を進んだ。ゆらつくこともなく、すいすいと空を進んで、彼等に案内されたのは、大陸の中央に見えたあの巨大な結晶の柱の内部だった。外で見たのと同じく、どこもかしこも赤く輝いていて、目がしぱしぱしてきちゃうよ……。

 ここは塔、と呼ばれているらしいんだけど、この内部でネオン族は一族ぐるみで暮らしているんだって。

 そして、奥に一段高い舞台のような場所がある、体育館ばりに大きな広間に案内された私達。

「……間モナク、女王様、ガ、オ出デ、ニ、ナリマス……。今暫く、オ待チ、ヲ……」

 彼の言葉の後、程なくして、背後に気配があった。

 その人は、水晶の床をカツリカツリ、ゆっくりと刻みながら、私達の隣をすり抜けて、奥の舞台へ上がってこちらを見据えた。

 そして現れたのは……上半身が細身の女性、下半身は黄色と赤と黒い毛色の巨大な蜘蛛の形をした、ゼレハ女王その人だった。

 透き通るような白い肌に、腰元まである艶のある真っ直ぐな黒髪、まるで能面のような冷たい表情。額と合わせて二対の切れ長の瞳は黄色く、複眼になっているのか、時折キラリと光って見えた。

 肩からは色とりどりの布を羽織っていて、幾重にも重ねられたそれはまるで十二単を着ているみたい。

 全体的に日本人形かお雛様みたいな感じ。下半身は違うけど。

 怖いとか気味が悪いとかは思わなかった。むしろ魅入ってしまうくらいだったよ。


 側にいたギュラィさんが彼女に何か話しているようだった。何か報告でもしているのかな?

 それを聞き終わった彼女はこちらを向いて、静かに口を開いた。

「……キキキキ……キリ?」

 それは言葉ではなくて、金属音にも似た、何かを擦ったような音だった。

 私にはまるで分からなかったけど、獏くんには通じているらしくて、一つ鷹揚にお辞儀をした後に、

「ええ、ご無沙汰しています、ゼレハ女王。お時間を頂き、誠に感謝しております。今日は妃と共にご挨拶に参りました!」

 そう言って、彼は頭を下げた。ちょっと遅れたけど、慌てて私も頭を下げた。

 獏くんの言葉に反応するように、ゼレハ女王は私の方へ顔を向けて、さっきの音を発している。

「キギ……キュキキリリ……?」

 四つの瞳に一度に見られて、急激に緊張が高まる。

 ど、ど、どうしよう……多分、名前とかを聞かれているような感じだと思うんだけど……?

「わ、私、ひ、緋影と、申します!こ、これから、宜しく、お願いします!」

 勢い余って、声が裏返ってしまってちょっと恥ずかしかった。

 隣でクスリと獏くんが笑っているのが見えたよ。そこは流しておいて欲しかった……!

 通じるかどうか分からなかったけど、とにかく挨拶は大事!

 そしたら、彼女はほんの少しだけ笑ってくれた……ように見えた。

 笑われたのかもしれないけど。それでも掴みはOK……かな?

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