想い想われる事って幸せです。
ニコニコとしていた獏くんが、私の後ろを見た途端、明らかに表情を曇らせた。
「……ん?何で親父がここにいるんだ?それにアリーナも……?」
さっきから物凄くこっち見てたけど……今更気付いたのね……。
獏くんの声に反応するように二人が側に歩いてきた。
側に立つなり、お義父さんは少々不満そうな表情で、
「何でとは酷い言い種だの……お前の事は心配しとらんが、ヒカゲちゃんが心配じゃったんでな。それと、アリーナも護衛に寄越したんじゃ」
お前がいない間に何かあったら困るだろう?とお義父さんは胸を張って答えた。アリーナちゃんも褒めて褒めてと言わんばかりに、羨望の視線を向けていた。
「うぐ……確かに……!そ、それは……感謝……する……」
図星をつかれたのか、獏くんは正直嫌々そうだったけれど、お義父さんにお礼を言っていた。アリーナちゃんにはよしよししてあげてたよ。
うんうん……いくらあんまり仲が良くないとはいえ、感謝の気持ちは言葉にしないと駄目だよね。
何となく獏くんの頭をよしよししてあげたら、たちまち笑顔に戻った彼です。相変わらずチョロいなぁ……この人。
再度、応接セットに戻った私達。
私の向かいにお義父さんとアリーナちゃん、隣には獏くんが座っている配置でございます。
私はさっき聞いたけど、獏くんは改めて事の顛末を二人に話していた。
「……って訳だよ。今回の戦は不成立だ。こちらに被害は全くない。フロンの奴等もあの女も暫くは手を出してはこないだろうさ」
「ほうほう!戦もせずに鎮圧するとは……流石だの!これで周辺国も安心じゃろうて」
「やっぱりばくぅさまはすごいです!」
お義父さんは獏くんの話に食い入るように聞き入って、いたく感心しているようだった。アリーナちゃんは目を輝かせながらうんうん頷きまくっていた。あんまり子供が聞く内容じゃないとは思うけど、本人が喜んでるみたいだから良いのかな?
話を聞く限りでは、フロン国は他の国でも評判が良くないみたいだね。
カンビィが国家ぐるみで相当やらかしてるんだろう、なるべくしてなった結末だ、とお義父さんはそう言っていた。
協定を破った事にはならないのかなと聞いてみたけど、
「ああ、協定の事じゃな?戦は基本的に国や街単位で行うものじゃから、個人的な争いには協定は適応されん。個人的な争いまで含めていては夫婦喧嘩や子供の喧嘩まで取り締まらなきゃいかん。まあちとやり過ぎた感はあるが……大丈夫じゃろ」
えっと……つまり、今回は獏くんが単騎で乗り込んだって事で個人的な争い扱いになったって事だから、協定は無効って事なのかな?
多分私が思う話し合いとは大分ズレがありそうだけど……考えないようにしよう。
「ありーなもおてつだいがしたかったです……」
一通り聞き終わって、彼女は寂しそうにぼそりと呟いていた。
いやいや……アリーナちゃんまで参加したら本当に死人が出るんじゃないかなぁ……?
可愛い顔して案外戦闘狂だわ……この子!
その時、私の頭の中では、幼女が笑顔で敵を薙ぎ倒していくそんな光景が浮かんでいたよ……!
その後、獏くんの無事と私の護衛も終わったのか、お義父さんとアリーナちゃんは帰っていった。
さっきまで賑やかだった室内はまたしんと静かになった。
静かだけど、隣に獏くんがいてくれるだけで安心感が違うよね。
私はそっと彼の肩に寄りかかって一息ついた。落ち着くわ~。
「あ、あのさ……ひぃちゃん……」
暫く黙っていた獏くんが口を開いた。
どうしたの?と返すと、緊張したような面持ちで私を見る彼。
「そ、その……今日は……心配掛けてしまってごめん!式も挙げられなくって待たせてしまって本当にごめん!」
と、勢い良く頭を下げてきた。危うく角に刺さる所だったよ……!
顔を上げてと慌てて声を掛けたけど、獏くんはごめんと繰り返すばかりで顔を伏せたまま。
「獏くん……もう気にしてないよ。大丈夫だよ?」
そりゃあかなり心配はしてたけど、今ここに獏くんが帰ってきてくれたから問題ないし、こんな格好してたけど、今の今まで式の事は考える余裕がなかったし……。
てか、本当に今日挙げるつもりだったのかって事に驚いてる私がいるけども。
下げたままの獏くんの頭を撫でながら、ゆっくりと話す。
「私ね、獏くんがいないだけで凄く不安だった。また一人になっちゃうんじゃないかって……」
そんな……と、私の呟きに思わず顔を上げる獏くん。その顔は何だか泣きそうな悲しいものだった。
「でもね、獏くんは帰ってきてくれた。私、凄く嬉しかった。一人じゃないって、こんなに嬉しくて心強いものなんだって今日改めて思う事が出来たんだ。結婚式ならまた機会があるでしょ?もう今日はね、獏くんが無事でここにいてくれるだけで私は満足なんだよ?」
あんまり上手い事は言えなかったけど、思った事は伝えたよ?
「……ひぃちゃん……!!」
感極まった彼は、私をグッと抱き寄せた。
「そう言ってもらえて俺も嬉しいよ……!ひぃちゃんは俺の一番大事な大好きな人で帰る場所だから……絶対ひぃちゃんを一人残すような事はしないから!最後の最後まで君を守るから!」
その後は私の名前を何度も呼びながら、暫くの間彼は子供のように泣きじゃくっていた。私は宥めるように彼の頭と背中をそっと擦っていた。
大丈夫、気持ちは伝わってるからね。
暖かい彼の腕の中で、幸せな気持ちでふと思う。
こうやって想って想われる事って、とっても嬉しい事だなって。
それと、獏くんに助けてられてばかりじゃなくって、助けられるぐらい強くならなくっちゃだね。
だって、夫婦は支え合って生きていくものだもの。




