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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
59/114

ちゃんとサヨナラできてないけど……帰ります。

 ダウンしたフラロウスさんを残し、上機嫌過ぎる獏くんに抱き上げられたままお店を後にする事になった私。

 慌てて戻ろうともがくも、がっしりホールドされてて降りれそうにないんです……。

 えぇぇぇぇ……待って待って!!あのまま帰っちゃっていいの!?

 大丈夫になったとは言え、ちゃんとお礼も言えてないのに……。

 せめてフラロウスさんが起きるまで……と獏くんに進言したけど、頭の中が結婚式モードになってる彼に見事にスルーされた。

「もう、ひぃちゃんは義理堅いなぁ……!でも、彼なら大丈夫だよ?さっき伝言(テレパス)で伝えといたからさ~」

 ん?伝言(テレパス)って何ぞ?

 獏くんに聞けば、対象の相手に直接意思を伝える事ができる魔法なんだって。

 ちなみにさっきっていうのは、介抱してたその時らしい。

 あの切羽詰まった状況で、そんな事までしてたの……?抜け目ないわ……!

 なんて思ってる間に、またも空間が揺らいで、若干目が眩んだ後に、着いたのは龍騎車の前。

 相変わらず一瞬で移動したよ……やっぱり転移は慣れない……。

 突如現れた私達の姿を見て、驚くロゥジさんとアリーナちゃん。

 アリーナちゃんはまだ人形を取っていて、ロゥジさんと何やら遊んでたのかな?足元に何かの駒とかボールとか遊び道具が転がってるみたい。

 まずい!と言った風に慌てて片付けを始める二人。

 今日怒られたのが効いてるっぽいね。怖い上司がいると大変だよ……。

 それから何食わぬ顔でそそっと駆け寄ってきた。

「……バクゥ様……お早いお帰りで!」

「お、おかえりなさいですっ!」

 そしてビシッと敬礼してみせる二人。角度からタイミングから見事なシンクロ率。主従関係流石です。

 そんな二人の様子を見て、私は獏くんがまた怒るかと思ってヒヤヒヤしてたけど、獏くんは笑顔で何も気に止めない様子で、

「ロゥジ……アリーナ……龍騎車を出してくれ!今から城に戻るぞ!!」

 怒られないと分かって、二人は安堵しているようだったけど、主たる獏くんの浮かれぶりに対して戸惑いが見える気がする。

 そりゃそうだよ……あれだけガチで怒ってた後のこの機嫌の良さだもの……情緒不安定かなとか思っちゃうよね。

「は、はっ!畏まりました!!アリーナ、すぐ飛べるか?」

「あい!ありーなのじゅんびはいつでもへいきです!!」

 ロゥジさんの声掛けに片手を上げて元気良く返事するアリーナちゃん。可愛い。

 返事の後に彼女は少し離れた場所に駆けていった。それからその場で四つん這いの姿勢を取ると、大きく息を吸って、

「グルルルァァァァ!!!!」

 と空に向かって大きく咆哮した。その咆哮は空気を、大地を揺らすほど猛々しいものだった。

 えぇぇぇぇ……あんなに可愛らしい子の何処からあんな声が……!?ギャップが激し過ぎだよ!?

 幼稚園児が童謡歌うのかと思ったらデスボイスでゴリゴリのヘビメタ歌い始めたぐらいのギャップだよ!?

 色んな意味の衝撃を受けた私を余所に、彼女の身体を黒い靄が包み始めて、徐々に靄が大きく広がり、次第にドラゴンの姿を作り始めた。

 そしてバサリと大きな羽を振る音で、黒い靄が消し飛ぶ。

 そこに残ったのは可愛らしいアリーナちゃんではなく、龍騎車を牽くあのドラゴンのアリーナだった。

 ……同一人物とは分かっていたけど、目の前でこう変貌されると言葉もない。

 開いた口が塞がらないとはこの事だよ……異世界凄いわ……。

「ふふ……驚いた?ドラゴニアの変化なんてそうそう見れないから結構レアな光景なんだよ?」

 悪戯っぽく笑いながら獏くんがそう言うけど、あまりのショックに答えられない。

 ドラゴニア自体が希少種なんだから多分そうなんだろうけども。

 この世界に来て、色々と見てきたつもりだったけど、まだまだ驚く事は多そうだね……心が持たないんだぜ……!


 そんなこんなで再び龍騎車に乗り込んだ。

 とりあえず横にならせてもらう事にした私。

 と言うのも、さっきのアリーナちゃんショックから立ち直れていなくて、動悸が落ち着かないのです。

 ……ん?年じゃないかって??それは言わないお約束!!

 心配してからだとおもうけど、良かったら添い寝しようか?と獏くんから申し出があったけど、丁重にお断りしましたよ。

 お預けをくらった彼はとりあえずベッドの横に待機中であります。

「ひぃちゃん……ごめんね、色々と連れ回しちゃって……」

 さっきの上機嫌はどこかいってしまったのか、悲しそうな、寂しそうな表情で私を見つめる獏くん。

 ああ……落ち込ませちゃったみたい。しょげた犬耳が付いてる幻想まで見えてきちゃうよ……。

 私はごめんなんて言わないで、と首を横に振った。

「……久しぶりに外に出たから……ちょっと人当たりしちゃっただけ。獏くんの都合もあったのに……今日は色々連れて行ってもらえて凄く嬉しかったし、楽しかったよ」

 また何処か連れてってくれる?と尋ねると、少しは元気が出たのか、獏くんはニコッと笑って私の手を取った。

「勿論!何回でも言うけど……ひぃちゃんが望むところなら何処でも連れて行くさ!嫁の望みは俺の幸せだからね!」

 ……なんて、中々恥ずかしい台詞を言ってくれました。

 もう……二人きりなら良いけど……外では言わないでよ?


 ベッドに横になってちょっとしてから、ロゥジさんが声を掛けてきた。

「バクゥ様!離陸の準備整いました!」

「分かった。とりあえず城に向かってくれ。ただ、()()()()で頼むよ?」

 獏くんが念を押してロゥジさんに返事していた。

 ギクリと大きく驚いて、激しく頷くロゥジさん。

 あ……もしかしてやるつもりだったな……??

 来る途中みたいなアクロバティック飛行はもう勘弁極まるよ……。確実に意識飛ぶから……!

 バタリと扉が閉まって、すぐに部屋全体がふわりと浮く感覚があった。恐らくアリーナちゃんが飛行を始めたんだろう。

 出来れば外の景色でも眺めれば気分も違うのかもしれないけど、何だかそんな気分になれず、ベッドから動けなかった。

 眠るつもりはなかったけど、横になっていたら徐々に瞼が落ちていく。

 さっきも思ったけど、久しぶりに獏くん以外の人達にあって、気疲れもあったのかもしれない。歩き回って身体がというよりは精神的に疲れてる感じだ。

 うつらうつらする中、ぼんやりと思う。

 今日は……美味しいもの沢山食べれたし……色んな人に会えて、色んな話も出来たし、初体験な事も沢山あったし……楽しかったな。

 そう言えば……獏くんとの久々のお出掛け……つまりデートだったんだよね。いつぶりだったかな……デートなんて。

 私は楽しかったけど……獏くんはどうだったのかな……?

 あと……式がって言ってたけど……本当に今日挙げるのかな……?

 準備はしてくれてたけど……そんなにポンと出来るものだっけ……?参加する方々の都合もあるだろうし……?

 ああ……駄目だ……考えが上手くまとまらないや……。

 とりあえず……今は……おやすみ……なさい……。

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