頼りになるのはやっぱり彼です。
助けなきゃと強く決意はしたものの……。
……うん……悲しいかな、私ではどうにも出来ないみたい……。
……そうだ!獏くんならどうにかしてくれるはず……!
ただ……ここにはフラロウスさんにグイグイ押されて連れて来られたから、実際今何処に自分がいるかも分かってないし、獏くんも何処にいるか分からないけど……。
でも、そんなに遠くにはいないはず!と思い、大きく息を吸い込んでから、
「……獏くーーーん!!!助けてーーー!!!!」
と、何の捻りも色気もなく、入り口方面へ単純に大声で叫んでみた。
思ったより大きな声が出て、自分の声で耳が痛い。
うぅ……と唸りつつ、キンキンする両耳を擦りながら、視線をずらすと、そこに空間を裂いて現れている獏くんの姿が。早いわ……!
突然の登場に目が点ですわ。そんな私に駆け寄ってくる彼。
「……大丈夫!?助けてって聞こえたけど……??」
そ、そうだ!驚いている場合じゃないのよ!
「獏くん!フ、フラロウスさんが……!!」
只ならぬ思いを察してくれたのか、獏くんは私の足元に横たわるオネエさんを見て、驚いたように表情を変えた。
「ん?……おっと、これは大変だね……!」
とりあえずこれを飲ませて、と小瓶を渡された。
ガラスで出来たその小瓶の中には、赤々とした液体が満たされている。
急いで蓋を開けて、それをフラロウスさんの口元へ。
赤いのは液体だと思ったけど、何かの気体だったみたい。中身はフラロウスさんの口へするすると吸い込まれていった。
吸い込まれる度に、オネエさんの顔色も良くなり、呼吸も穏やかに落ち着いていくようだ。
獏くんは横たわるフラロウスさんの横で何か呪文を唱えている。
良く見れば薄ぼんやりとした緑色に身体が光っていて、光に包まれたフラロウスさんは穏やかな表情で眠っているようだった。
私はとにかく良くなりますようにと、強く祈る事しか出来なかった。
フラロウスさんの容態が安定したのだろうか、少しして獏くんは呪文を唱えるのを止めて、少し疲れたように息をついた。
「ふう……。これで大丈夫だろう……。処置が間に合って良かった……」
獏くんが言うには、どうやら一時的な魔力不足に陥った事による症状だったんだって。さっきの赤いものはマルビルっていう濃縮した魔力を込めた気体らしくて、この世界で言う所の栄養剤。それと獏くんが唱えていたのは快癒ってもので、精神と身体を癒す効果があるんだって。
とりあえず魔力はある程度補給できたらしいから、もう少しすれば目を覚ますだろうって。
「知らせてくれて良かったよ……。俺の友達を助けてくれてありがとう、ひぃちゃん!」
そう言って、いつもの穏やかな笑顔に戻る獏くん。
その顔を見て、大事は去ったのを実感できた。
助けたって言っても……私はただ大声で呼んだだけなんだけど……恥ずかしいな……。
「……良かった!……良かったぁぁぁ……!」
安心した拍子に思わず彼に抱きついてしまったよ。
「わわ……ひぃちゃん……!」
驚いたように変な声を上げる獏くん。顔はたちまち真っ赤だ。
「ひ、ひぃちゃんが抱きついてくれるなんて……幸せな日だ……!」
惚気けたように呟く彼であります。いつも通りだね。
と、そこで私の格好が違う事に気が付く獏くん。
がばりと身を引いて、驚いた顔でこちらを見る。目を大きく見開いて、口がわなわなしている所をみるに、何か言いたげだけど、言葉を探している感じかな?
こちらとしては、やっと気づいたか!と思ったけど、さっきまで私も忘れてたし、フラロウスさんの件で大変だったから目に入らなくても仕方ないよね。
わなわなした様子で変わらずの彼。
「ど、どうかな……獏くん?」
それを見かねて、おずおずと聞いてみる私。
「……と、と、とっても……綺麗だ……綺麗だよ……ひぃちゃん……!」
少し間があったけど、目を潤ませながら、笑顔でそっと優しく呟く獏くん。
「やっぱり彼に任せて良かった……本当に素敵な仕上がりだよ……!ひぃちゃんにぴったりのドレスだ……!」
そう言ってぐっと抱き寄せられた。ちょっと苦しいけど、でも今日はいいかな。
似合ってないとか言われなくて良かった。喜んでもらえて私も凄く嬉しいよ、獏くん。
「俺……こんな綺麗なひぃちゃんを見たら……もう我慢できないよ……!式を挙げよう!今から!!」
……は??今何て言ったの???
戸惑う私を抱き上げて、獏くんは出口に向かって歩き出した。
あ、あの……フラロウスさん、まだ寝たままなんだけど……?
ねぇ、獏くん??獏くーん???




