ドキドキのドレス作りです……!
訳も分からず、オネエさんに背中を押されて、お店の一室へ移動させられた私。
ちなみに、獏くんはさっきの場所で待機中。物凄くついてきたかったみたいだけど、フラロウスさんに止められてた。
「ここからは男子禁制よ~?乙女の花園だ・か・ら♪」
……乙女て。花園て。ツッコミたい気持ちを必死に抑えた私。偉かったよ私。
……心が乙女なら、それは乙女なんだよ。もうそれ以上は言うまい。
獏くんに向けたのは、それはそれは凄みのある笑顔でございましたよ。ウィンクもしてたけど、威嚇してたのかと思うくらい正直怖かったわ。
……まあ、そんな事もあって、今に至る訳です。
少し薄暗いその部屋の床には、魔法陣のようなものが刻まれていて、微かに青く光っていた。
何あれ……召喚でもするの??異世界っぽさ満々だね……!
そして……その中心に立たされております。土足禁止って事で足元は裸足。ちょっと寒い……。
でも、獏くんが止めなかった所を見るに、危ない事ではなさそうだけど……?
ビクビクしながら辺りを見回していると、
「もうやだぁ!!そんなに怖がらなくても平気よ~!アタシの言葉を良く聞いてれば大丈夫だから~!」
そう言うオネエさんの手元には、黒い箱と、もう片手には辞書みたいな分厚さの本らしきものが見えた。
箱の中身はさっきの生地だろう。もう片手の本が気になる……。
良く良く目を凝らしてみると、綺麗に着飾られた女性のアップの写真とその回りに幾つもの見出しが見える。
……ん?あの分厚さとあの装丁の感じ……私見覚えがあるよ?
あれだよね?結婚を意識し始めたぐらいから、本屋さんで自然と目に入ってくる、男子にとっては無言のプレッシャーを感じ、女子にとって夢が詰まってる例の情報誌では……?
私の視線がそちらに行ってるのが分かったのか、フラロウスさんは私の目の前にその本を差し出してくれた。
「……あ!これね??バクゥ様にドレス作りの参考にって貰ったんだけど……読んでて凄~く勉強になったわよ~!」
……私の予想通りで、やっぱり例の情報誌だったよ。獏くんから貰ったって言ってたけど……どこにそんなの隠し持ってたのかしら……。
「貴女の世界のドレスや結婚式?って本当に華やかなのねぇ!アタシ人間界の文字は読めないんだけど、絵を見てるだけでもワクワクしてきちゃったもの!」
これもこれもと、ページを捲りながら、興奮したように話すオネエさん。
相槌を打ちつつ、ふと以前の事を思う。
私も読みながらこんな風にワクワクしてたっけ。
式は挙げられないのはもう分かってた事だったけど、やるんならああしたいとか、こんなドレス着たいなとか、こんな食事食べたいとか、とりとめもなく思っていたんだよね。
獏くんはそれを嫌がる素振りもなくて、むしろ一緒に考えてくれて、こっちのドレスが似合うよとか、この式場なら食事が美味しいみたいだよとか、色々と話してくれてた。
まさか、異世界で実現させてくれるとは思ってなかったけど……。
人生って何が起こるか分かんないね。
「……さてと、そろそろ取りかかろうかしら~!」
興奮冷めやらぬ様子で、後ろに下がりつつ、指を鳴らすフラロウスさん。
「それじゃ、始めるわよ!アタシの言葉を良く聞いて!」
気合いに押されて、はい!と思わず返事してしまった。
「うふふ、いいお返事よ♪まずは姿勢を真っ直ぐに!足は揃えて!手は胸元で組んで!あと、顔を上げてアタシの方へ……そうそう!」
とりあえず、オネエさんの指示に従って、あたふたと体勢を整える私。
「はい!そのままの姿勢でキープよ~!それから、目をゆっくり瞑って……気持ちを楽にして……」
返事する代わりに目を閉じたままゆっくり一つ頷く。
すると、フラロウスさんは何か呪文を唱え始めたようだった。
と、同時に私の足元、多分床に書かれていた魔法陣からだと思うけど、ふわりと風が起こった。すると、足元に感じていた床の感触がなくなっていく。
起こっている事が分からず、目を開けるのも怖いので、あくまで感じた限りだけど……、多分私浮いてるよね!?
足の指でそっと掴めるものを探してみるけど、空を切るばかり。
……浮いてるのは確定のようです……何故に浮いてるの私……??
そんな事を思っていたら、次に何かに包まれる感覚があった。
瞼の裏でも感じる白い輝き。多分さっきの生地だと思う。それが膜のように私を包んでいるみたい。繭に入ったらこんな感じなんだろうか……。
生地越しだからか、少しぼやけた声が聞こえる。
「……アタシの声は聞こえてるわよね?ここが一番大事な所よ……貴女の着たいと思うドレスを強くイメージして……!なるべく細かくしっかりとしたイメージよ……!」
……内心かなりキョドっておりますけども……フラロウスさんの言葉通りに、ウェディングドレスのイメージをし始める私。
レース仕立てで、あまり体のラインは出ないようなもので……恥ずかしいから肌の露出はなるべく少な目で……首元まで襟があって……蕾のように腰からふんわりと丸く広がるようなスカートで……マリアヴェールって言ったかな……額の辺りからすっと後ろへ広がるのがいいな……。
……などと、イメージをしていくと、私を包む生地がそれに答えるように、すっと肌に吸い付いていき、形を変えていくようだった。
何て不思議な感覚なんだろう。ずっとこうしていたいぐらい心地いい。初めはどうなるかってヒヤヒヤしてたのが馬鹿みたい。
ドレス……どんな仕上がりになるのかな……?




