まだ仕上がってないけど……嬉しい。
お茶と言うよりはコーヒー風味の飲み物を頂きつつ、待つこと数分。
ゆったりとした足運びと腰をくねらせつつ、フラロウスさんが戻ってきた。
手元には黒の平たい箱のようなものが見える。どうやら、それが獏くんが頼んでいたものみたいだ。
オネエさんは、私達の前にその箱を置いて、そっと蓋に手を掛けた。
「うふふふふ……自分で言うのもなんだけどね……かなりの自信作なの……!さあ、どうぞ~!!」
フラロウスさんが、ゆっくりと蓋を開いていくと、隙間から光がすっと漏れてくるように見えた。
え?中にライトでも仕込んでるのかな?
開ききった直後、中身がパッと一つ強く輝いた。
突然の強い光に目が眩んでしまった私。め、目がぁ……!
「おお!これは……!」
獏くんの歓声が聞こえるけど、私はさっきの光で上手く見る事ができていない。
何?何なの??何のサプライズ!?
戸惑っている内に、徐々に視界は戻っていく。
そして、見えたのは……黒の箱に丁重に畳まれてしまわれた純白の布地だった。
それは、自ら光を放っているようにも見えて、表面がキラキラと輝いている。まるで一面の新雪のように一つの曇りもない。良く見ると、ただ白いだけではなく、非常に細かい刺繍もされているようだ。刺繍が時折、うっすら虹色に光るのがとても綺麗で、いつまでも見入ってしまいそうな不思議なものだった。
獏くんはそれを見ながら、満足そうな笑顔で頷いていた。
「うんうん……頼んだ通りのものだよ……!!流石だね!!」
「でしょでしょ!?喜んでくれてよかったわ~!」
ホッとしたような笑顔でフラロウスさんも喜んでいた。
上機嫌のオネエさんは話を続けた。
「うふふふふ……テラリアンで純白といえば、シルキー糸に限るけど……その中でも生産数も少ない最高級のクィーンランクのを100%使ったの~!勿論、刺繍も同じ素材よ!この生地を着れるのはこの世界でも何人もいないでしょうねぇ……。着れる人は本当に幸せものよ~!」
……その後もフラロウスさんの熱の入った説明は続いていたんだけど、こちらの世界の専門用語が沢山出てきて、いまいち分からない所が多かった。残念。
獏くんは勿論理解して、なるほどと何度も頷いていた。
私がその話の中で分かったのは、とにかく気合いを入れて仕上がっているものだって事。
うっすら考えは浮かんできているけど、どう反応して良いのか分からずの私。
そんな時に、獏くんがそっと肩に手を置いてくれて、満面の笑みで教えてくれた。
「ふふ……これはね……ひぃちゃんのドレスになるんだよ!」
一瞬、驚き過ぎて思考が停止した。
純白の布地、ドレスと言えば……もうあれだ、あれしかないよね?
「え……?ウェディングドレス……にって事……?」
私の言葉に、獏くんは笑顔でゆっくりと頷いてくれた。
念願の、念願のドレス。
これが、私の着るドレスになるの?
こんな綺麗な、触れるのも躊躇うような素敵な生地で?
疑ってた訳じゃないけど、結婚式を挙げてくれる言ってたのは本気だったんだ……。
嬉しい。嬉しいです……!!言葉に出来ないくらい嬉しい!!
ありがとうって笑おうと思ったけど、先に涙が出てきちゃった。
「もうやだぁ~!!泣くほど喜んでくれるなんて、この仕事始めて初だわ~!もう……アタシも泣けてきちゃうじゃないのぉ……!」
ぐすりと鼻を啜りながら、涙目のフラロウスさん。
目元を拭う仕草とかは女性っぽいのに、顔がおっさんに戻ってます……ちょっと怖いです……。
「もう……ひぃちゃんは泣き虫さんだね。そんな所も可愛いけどね……」
惚気混じりの獏くんにそっと肩を抱かれて、暫く泣いてしまった。
最近ね……何かと涙脆くて困るわ……。やっぱり年かもなぁ……。
少し涙が引いてきた頃、フラロウスさんがパンパンと手を叩いて私に言った。
「……さっ、そろそろ泣くのは止めてちょうだいな!これから最後の仕上げがあるんだからね~?」
え?これからって……?
まだ何かある感じですか……??
正直お腹一杯です……!?




