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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
54/114

オネエさんは過去も豪快でした……!

今回はちょっと長めです。


令和になりましたが、引き続き宜しくお願い致します。

 獏くんにスオゥと呼ばれたその人は、その名前に何か不満があったらしく、頬を膨らませて、少々不機嫌そうだった。

「もうやだぁ~!!いくらバクゥ様でも本名で呼ばないでちょうだい!アタシはここでは()()()()()って名前なんだからぁ~!」

 不機嫌な表情のまま、両手を振ってヤダヤダと否定するその人。

 おおぅ……圧が凄い。

 確か、このお店の名前が《フラロウス》だったはず。源氏名的なあれっぽいね。

 呼ばれたくないって事は過去に何かあったのかもだし……間違ってもスオゥさんと呼ばないようにしよう……!

 あの感じで迫られたら……多分意識飛ぶ……!

「おっと、失敬。つい昔の癖でね、すまない……」

 獏くんが素直に謝ると、彼……いやオネエさんはすぐに笑顔になって、

「うふふ、バクゥ様なら許してあげる♪」

 と、身体をくねらせつつ、獏くんの胸をツンツンつついていた。

 ……とりあえず、オネエさんの機嫌が直ったみたいで何より。私は内心でそっと胸を撫で下ろしていた。

 しかし……何だろうか、この茶番……。


 場が少し落ち着いた所で、自己紹介をする事にした。

「あ、あの、はじめまして、私は……」

 私が話し始めた直後、オネエさんの視線がぐっと私に向いた。

 め、眼力が、つ、強い……!思わず小さく悲鳴を上げてしまった。

「うふふ……ヒカゲ様でしょ?噂はかねがね聞いてるわよ~?アタシはフラロウス、この店のオーナーよ~」

 顔を段々と近付けてくるので、若干後退りしてしまったよ……ごめんなさい。

 どうやら、彼女……も先頃の公報を見ていたらしく、私の事を知っていた。うぅ……ここでもか……!

 噂って何だろ……まさか食べ過ぎの件とかじゃないといいなぁ……。

 引き気味の私の事は気にしていないのか、フラロウスさんは話し続けている。

「今日は朝から外が随分と賑やかだったのよ!気になって隣の店主に聞いてみたら、バクゥ様とヒカゲ妃様が来てるって言うじゃない?まさかウチに寄ってくれるだなんて……アタシ嬉しいわ!」

 そう言うと、私の手をがっしりと掴んで、上下に振った。勢い良すぎて倒れそうになったけど、歓迎してくれてるのなら良かったです……。

 立ち話もなんだからと、店の中にあった商談用のスペースなのかな?そこに獏くんと案内された。

「ちょっと待ってて~!飲み物でも用意してくるからぁ~!」

 そう言うと、フラロウスさんはスキップ混じりの足取りで店の奥へと消えていった。


 何だか賑やかな人だなぁ……仲良くなれるんだろうか……。

 不安も抱きつつ、とりあえず腰を掛けて一息つきながら、ふと辺りを見回してみる。

 さっきまで視線がオネエさんに釘付けだったせいで、まるで見えていなかったけど、思ったよりお店の中は広いみたい。

 外に飾ってあったような服もあるけど、獏くんが今着ているような軍服みたいのもあるし、スーツみたいな上下合わせの服や派手目の水着も見える。鎧とか兜もある。

 非常に雑多なラインナップながら、どれも整然と並んでいて、埃もシワも傷の一つも付いていない。しっかりと手入れが行き届いているようだ。

 呆然と眺めていると、隣に座った獏くんがそっと話し掛けてきた。

「ごめんね、ひぃちゃん……。見た目は派手だけど、彼は決して悪いやつじゃないんだ。でも……驚いただろ?」

 うん、と素直に頷く私。

 今までに回りにはいないタイプの人だったから、接し方がいまいち分からないかもって伝えると、

「はは、幼馴染みの俺でも未だに分からない所があるくらいさ。まあ……昔から個性的ではあったけど、本当に彼は良いやつなんだよ」

 ん?幼馴染みなの??

 って事は……ロゥジさんと同じって事??

 同じ幼馴染みでも、接し方がこうも違うんだね……ビックリだわ。

 獏くんの話では、元々は王家に仕える家柄の出身で、王様の身辺警護をする隊長を務めていたぐらいの勇猛果敢で剛毅溢れるお兄さんだったんだって。

 ただ、以前に出兵した時、部下を庇って命に関わる程の大怪我をした事で戦線離脱、剣も振るうことが出来なくなった。その後の戦は勝利したらしいけど、被害も甚大、その責任を取って隊長も辞してしまったらしい。

 前線を退いた後は、兼ねてからの趣味だった縫製の道に進み、その師匠に弟子入りをして、見事に才能が開花、今では服と言えばその人ありと言われるまでの人になったそうです。

 ちなみに、昔からオネエ気質はあったらしいです。隊長を辞めてからはより全面に出てきて、今に至ると。余談ですね。

 なかなか山あり谷ありの人生を送ってきた人なんだね……。

「彼の技術はこの国一番……いやこの世界一番と言って良いほどの腕前なんだ。だから今回1つお願いをしててね、きっとひぃちゃんも喜んでくれるはずだよ!」

 笑顔で言い切る獏くん。こっちはこっちで圧があるなぁ……!

 私も喜ぶって何だろう……想像が今の所ついてないんだけど……?

 聞いてもふふふと笑顔でかわされた。まだ教えてくれないみたい。むう……引っ張るね……!


「え~?何々??アタシの話してるの??」

 おっと!?いつの間にか、背後にフラロウスさんがいらっしゃったよ??

 これだけ派手なのに、まるで気配を感じなかったよ……!!

「……ああ、君がいかに凄い人かって話をしてたんだ」

「ええ??もうやだぁ~!!昔の話なんて恥ずかしいじゃないの~!」

 笑顔で答えた獏くんの肩やら背中を、照れ隠しなのか、激しく叩くオネエさん。擬音を付けるならバシバシよりバキバキってな具合です。

 えぇぇぇぇ……痛そう……大丈夫かな……。

「つっ……相変わらず容赦がないね……」

 あ、やっぱり痛かったんだ。あの勢いじゃそうだよね。折れてないにしても痣になりそうよ……?

 獏くんは叩かれた所を擦りつつ、

「ああ、そういえば……改めてだが、頼んだものは仕上がってるのかな、フラロウス?」

 と、期待のこもった視線と声色でそう尋ねた。

「あ!あれね!?勿論出来てるわよ~!」

 獏くんの問いに、目を輝かせて笑顔で答えるフラロウスさん。

 待ってて~!!と言い残して、また奥に引っ込んでしまった。

 ……どうやらご対面は近いらしいね。

 何が出るのかしら……?

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