久し振りに気合い入れてみました(物理的に)
獏くんの妄想はまだ続いているらしく、天を仰いでふふとかへへとかニヤケきっている。
これだけ見ると何かヤバい薬でもきめてたり、酔っぱらいかなとか思うけど、彼は至って潔白、素面ですよ?
ああ……こうなると長いんだよなぁ……。
さっきからまたアサさんがポカーン顔なんだけど……本日3回目のポカーン頂きました、本当にありがとうございます。
このままじゃ話が進まないよね……?
久し振りにちょっとやってみようか?不本意ではあるけども……。
私は、そっと立ち上がって、獏くんの前へ。
彼は私に気付かず、まだ自分の世界に入りきっているようですよ……全くもう!
まずは深呼吸を一つ。
しっかり呼吸を整えてから……腰を少し落として………グッと右の拳を後ろへ引き付けて……。
「……いい加減に目を覚ませぇぇぇぇ!!!」
という叫びからの気合いの一撃。
ドゴっという鈍い音と共に、鳩尾にクリティカルヒット。
そして、声もなく、膝から崩れ落ちる獏くんでした。
こんな事……以前もあったなぁ……テンプレ過ぎる展開ですわ……。
「え……い、今何が起きたのですかの……?」
呆然とした所から戻ったらしいけど、戸惑いMAXのアサさんに尋ねられた。
とりあえず、あまりに獏くんが取り乱しているようだったので、ちょっと気付けで声を掛けただけです、と説明しておいた。
「そ、そうですか……?そうですか……!」
どうやら見てはいけないものを見てしまったような驚愕の表情だったけど、納得はしてもらえたみたい。
まあ、気合いは入れたけど、軽く小突いただけだからすぐに目も覚ますと思うし。
……予想通り、獏くんはすぐに目を覚ました。
「うっ……俺は何を……??」
良かった、起きてくれたわ!流石獏くん!!
「……あれ?ひぃちゃん、俺何で寝てるのかな?」
贈られた着物を見た所で非常に興奮しまった所までは覚えてるけれど、どうやらそれ以後が記憶にないらしい。マジか。
お腹がちょっと痛いって言ってたけど、それは食べ過ぎたんじゃないか、という結論になった。本当は違うけどね……!
私の一撃の件を覚えてても困るんだけど、目を覚ましたなら良かったかな……?良い事にしようね??
気を取り直して、改めて贈り物の着物を受け取った。
着物ってもう少し重いイメージだったんだけど、これはずっと軽い。まるで持ってないみたいだもの。
さっきの件があったので、アサさんは何か混乱の魔術でも掛かってるのではないかって不安になったらしくて調査っていう魔術で贈り物を調べてくれたけど、何も反応なしでした……良かった!
……って事はつまり、あれは完璧に獏くんの素だったって事になるんだけど……深く考えるのは止めよう……!
でも、これを持ったままじゃ外をちょっと歩き辛いなぁ……。軽すぎるからふとした拍子になくしてしまいそうだし……。
どうしようかなと内心困っていたら、獏くんがひょいとそれを持ち上げてみせた。
「大丈夫だよ、ひぃちゃん!俺が持つからね?」
獏くんが持ち上げた着物は、パッと綺麗さっぱり手の上から消えていた。
……え?何で??どこ行ったの???
慌てて獏くんの回りを確認するも、どこにも見つからなかった。
ええ??何、どんなトリックなの……?
「ふふ、収納って言うんだ。便利でしょ?」
うん、便利!不思議!
素直に驚く私を見て、獏くんは満足そうに笑った。
聞けば、空間転移の応用らしいんだけど、空間の中に空間を作って、そこに転移させているんだって。
容量は無制限に入るけど、意志のあるものは入れられないそう。
意志があるものっていうのは、例えば私みたいな人間とかドラゴンのアリーナちゃんとかは駄目って事。あとは、見た事はないけど、喋る剣とかの意志のある無機物がこの世界には存在しているんだって。それもNGだって。
聞いてもいまいちピンときていなかった私に獏くんが言う。
「えっと……あれだよ、某猫型ロボのポケットみたいな感じかな」
ああ!なるほど!!理解出来た気がする!!
漫画って偉大よね、うん。
とりあえず、色々入る魔術だって事は分かったよ?
そういえば……獏くんがいつの間にか花束持ってたりとか、剣を取り出したりとかお弁当出してくれた事があったっけ。
特に気に止めてなかったけど、そういう仕組みだったのか……改めて納得ですわ。
改めてお礼を言ってから、二人でアサさんの店を後にした。
「……この度は貴重なお時間を頂き、感謝いたしますわい。是非またいらして下さい……」
アサさんは義理堅く、私達の姿が見えなくなるまで店の前で見送ってくれた。良い人だね……。
帰り際に獏くんが式の招待状みたいのを渡してたから、次会えるのはその時かな。
まあ、色々とやらかしもあったけど……お腹も一杯になったし、満足満足です!




