素敵な贈り物です……!
デザートまで食べ終わって満足感に浸っていると、アサさんが奥から何か平たく長い包みを持ってきた。お土産かな?
布に包まれたそれをそっと私達の前に置いて、居ずまいを直すアサさん。
「ん?これは何だい?アサ爺?」
てっきり獏くんが頼んだのかと思ったけれど、疑問を浮かべている所を見ると、どうやら彼も知らないらしい。
「ほほ、これは私からの心ばかりの品でございますわい。ご成婚のお祝いに、どうぞお納め下さい……」
そう言って、アサさんは頭を深々と下げて、その包みをスッとこちらに寄せた。
そんな……お祝いだなんて……!
嬉しいけど、あれだけ食べて迷惑掛けた後に受け取りにくいなぁ……。
しかし……中身は気になるよね……。
ウズウズする私の気持ちを察したのか、獏くんが声を掛けてくれた。
「……いつも気遣いすまないね、アサ爺。痛み入るよ。そんなつもりで来た訳ではなかったけど、折角お祝いだって言ってくれたのなら貰っていこうか、ねぇ、ひぃちゃん?」
獏くんがそう切り出してくれたので、私はおずおず頷いた。
「……彼女も喜んでいるみたいだ。では、これはありがたく頂戴するよ。……ちなみにどんなものなのかな?」
では、失礼して、とアサさんがずいっと前に来ると、包みをそっと開いてくれた。
そこには綺麗に畳まれた服が入っていた。
「これって……着物……ですか?」
見えたのは、濃淡のある青色の生地に、淡桃色の花弁が舞っているような柄。花は恐らく桜だろうか。風に吹かれて桜の花弁が青空を舞う春みたいな風景が感じられる。
え?これは結構お高いやつでは……!?
「ええ、そうです!これは昔、知り合いから人間界の土産だと頂いたものなのですがの……私では着るに着れませんで……」
笑顔の中に少し残念そうな表情を浮かべて、アサさんはそう言った。
着物の着付けって結構難しいんだよね。私も着たのは成人式の時に着付けてもらった限りだし……。亡くなったお祖母ちゃんは出来たんだけど……。
ましてや女物の柄だし、幾ら小柄で細身のアサさんでも着る事は難しいよね……。
アサさんが言うには、お店の中に時々装飾として飾る事はあったけど、普段はしまいっぱなしで出す事はなかったらしい。それと保存の魔術を掛けてあるから汚れは付かないし、ほぼ新品のものなんだって。
確かに長い間しまわれていたとはいえ、虫食いも埃の一つもついていない綺麗なままだ。
えぇぇぇぇ……こ、こんな素敵なもの、私が貰っちゃ不味いのでは……!?豚に真珠状態ですけど……!?
受け取ると言ってしまったものの、物を目の前にしてしまうと、手を出すのがおこがましくなってしまう私がいます。
「ねぇ、獏くん……?」
どうしようと相談しようと彼の方を見ると、着物を一点に見つめて微動だにしない。
聞こえていないのかと思って、再度声を掛けたけど返答なし。
驚いたように目を大きく見開き、口元は僅かに震えている。
え?え??何か起きてるの??
随分とただならぬ様子に具合でも悪いのかと、声を掛けようとしたその時だった。
突如、獏くんが勢い良く立ち上がった。
思わず出した手を引っ込めた。
立ち上がった獏くんは、恍惚とした表情を浮かべて、ハアハアと息も荒い。
え?ええ??な、何事が起きてるの??
「……良いよ……とても良い……!!!」
「は??」
「アサ爺……何て素敵なものを……!!心から感謝するよ!!」
アサさんの近くまで寄って豪快に握手をきめる獏くん。
相手が飛んできそうな勢いで握手した手をブンブン振ってる。
「よ、喜んで頂けたようで……な、何よりですわい……」
明らかに引かれてるのもお構いなしで、獏くんは満面の笑みで高笑いであります。
王様としての威厳って何だろうか……?少なくとも、アサさんの中の獏くんのイメージが変わっただろうという事は想像に難くない……。
「こ、これをひぃちゃんに……ふふふ……!!」
笑い方に狂気を感じるのは私だけだろうか……?
もしかして……私が着た所を想像して一人で盛り上がっちゃった系かな……?どんな想像をしてたかは……聞かないでおこう……。




