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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
49/114

美味しいものは世界を越えるのです。

 親子丼……美味しかったなぁー!

 とりあえず一息つく為にさっきのお茶を一口。

 してたら、向かいのアサさんが口をあんぐり。ポカーンとした顔でこちらを見ているのに気付いた。

「いやはや……!良くお食べになるとお話は伺っておりましたが……これは驚きましたわい……!」

 どうやら私の方が大盛りだったんだって。そう言われれば……器がちょっと大きいなぁとは思ってたけど……!

 むむ!?そんな事まで教えてたの獏くん!?

 すかさず獏くんを見ると、同じくお茶を飲んで落ち着いておりましたよ?

 私の視線に気付いて、ちょっとビクッとしてる。

「あはは……ほら、アサ爺からひぃちゃんの好みを聞かれたからさ……一緒にそんな話もしたかもかな……?」

 気まずそうな感じで頬を掻きつつ、宣う彼であります。

 赤面を隠す為に両手で顔を覆って、暫し考える。

 うう……余計な事をぉぉぉ……!!

 初対面なのに……もう食いしん坊キャラ確定じゃないの……!

 怒りたいけどここでは怒れない……アサさんもいるし……。

 と、とりあえず落ち着くのよ、私……。ここでプッツンしてしまったら、折角のご馳走が逃げちゃうわよ、私……!

 深呼吸、深呼吸……。

 ふぅ、少しは落ち着いてきたかな……。

 ……まあ、獏くんと後で()()()()()をする事にしよう。

「と、とりあえず次をお持ちして宜しいですかな……?」

 恐る恐るといった感じで、アサさんがこちらに尋ねてきた。

「そ、そうだね!次を頼む!なるべく早めに頼むよ!」

 慌てたように獏くんが答え、それを受けてそそくさとアサさんがまた奥へ引っ込んでしまった。

 うーん……何だか誤魔化された気がするけど……次の料理が来るなら良しとします。


 アサさんが次に持ってきたのは、抱えるほど大きな鍋だった。合わせるように大きな木蓋がついていて、中身はまたも見えない。

 鍋と一緒に器とお玉を持って来ているみたい。って事は……次は汁物か煮物を出してくれるのかな?

 さっきから味噌の香りがしてきてて、それだけでもお腹がウズウズしてくるよ……!

 彼はよいしょと、それを囲炉裏に据えると、木蓋をそっと取って見せた。

 鍋からの湯気が一気に立ち上るのと一緒に味噌の香りもふんわりと広がる。

 鍋には大きめに切られた幾つもの野菜、薄切りにされた恐らく豚肉、こんにゃくのようなものも見える。そして、味噌仕立ての汁もたっぷりと鍋に注がれているようだ。

「ええと、次は……」

「これ……豚汁ですよね?」

 アサさんの説明を遮ってしまう形になったけど、彼は笑顔で大きく頷いてみせた。

「流石、奥方様ですな!すぐにお分かりになりますか!」

 うんうん、と嬉しそうに頷きながら、豚汁を二人分取り分けてくれた。

「この料理は、私がこちらの世界で(テラリアン)で和食を広めようと思ったきっかけのものなんですわい。まさか、こちらで人間の、しかも日本の方に食べて頂ける機会がやってくるとは……感無量ですわい……!」

 聞けば、アサさんは昔人間界に、しかも日本に住んでいた事があるらしい。話の感じからすると、私が生まれるずっと前みたいだけど。

 本来は世界を渡る力を持っていなかったアサさんだったけど、若かりし頃、偶然にも人間界の日本に辿り着いてしまったらしい。

 予期せぬ事だったとは言え、無理な形で世界を渡ってしまった事により、彼の身体は酷く弱ってしまった。魔力の補給も出来ず、最早動く事も叶わず、死を覚悟していたその時、助けてくれた人間がいた。

 それは、たまたま通りかかった狩人だったらしいけど、異形のアサさんを見ても動じず、自宅へ連れて帰って看病してくれたらしい。

 その時に食べさせてもらった料理を食べた所、魔力が僅かながら回復していったらしい。そして、心に刺さるほど美味しかったらしい。言葉は通じず、身振り手振りで何とか教えてもらって、レシピを作って、是非こちらの世界でも作って広めたいと思うようになったんだって。

 帰還した後は、持ち帰ったレシピを元に、独学で和食を作り続けて、今に至るって話。

「……暫くは狩人の彼の手伝いをしながら暮らしていましたが、偶然近くにクロム国からの捜索隊が来ていましてな。彼等と一緒にテラリアンに戻れたと言う訳です。ただ、急遽帰還する事になり、彼にはお礼も出来ませんで……それは今も心残りなんですわい……」

 ぐすりと鼻を啜りながらも、彼は私達の前によそった器をそっと置いた。

「おっと、年寄りは涙脆くていけませんなぁ……!さあ、どうぞ召し上がれ……」

 さっきの話を聞いてしまうと、ただの豚汁を食べるだけなのに感慨深いね……。

 そっと器を持ち上げて、一口。

 温かで優しい味が口を、喉をゆっくりと落ちていく。

 ……うん、美味しい。とっても美味しいや。

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