至福の時です……!
奥に引っ込んだアサさんが手元に何やら持って返ってきた。
手元の木のお盆の上には丸く藤で編まれた籠が被せられているようだった。それをそっと私達の前に置いた。
残念ながら中身は見えないけど、その隙間から漂うこの香りは……まさしく出汁だ!それと醤油とかお肉の匂いもする……!
「本来はメニューをお伺いしてからお作りするのですが……奥方様は随分とお腹を空かせていらっしゃるご様子で……」
うっ!?バレている……!
またタイミングの良い事に、ぐぅぅぅぅ……とお腹もなる始末。
恥ずかしくなって顔を伏せる私。顔が熱いよ……!
「ほほ、空腹は最高の調味料と言いますからのう。楽しみにして下さっているようで嬉しい限りですわい……」
ニコニコと笑いながら、彼が藤の籠をそっと持ち上げると……何かが盛られた丼が2つ。
「ギャークの肉を出汁と合わせて、その卵とでとじたものをイイスに乗せたものです。……ええと……そちらの世界ではオヤコドンと呼ばれているのでしたかな?」
な、なんだって!?親子丼ですと!?
開いた瞬間に、丼からふわりと湯気が上がって、それと共に美味しそうな香りが広がっていく。
思わずおおと歓声を上げてしまう。私だけじゃなく隣の獏くんもだからね?
見た目というか、色合いはやっぱり緑がかっているそれなんだけど……とっても美味しそう!!
三つ葉らしきものも乗せられてて彩りも綺麗です。ただ、その三つ葉が赤々としてて、クリスマスカラーになってる気もするけど美味しければ良いのですよ!
そう言えばギャークって……最近私が唐揚げにしたあれかぁ。
確か、あの時読んだ百科事典によれば、こっちの世界でいう鶏にあたるんだっけ?その身と卵で作ったんなら親子丼で良いのかな?
「バクゥ様から伺いましてな、奥方様は丼ものがお好みだとか。まずはこちらからお召し上がり下さい……」
いや……丼ものに限らず、和食は何でも好きですよ?
獏くんは彼に何を教えたんだろう……?
ともあれ、つ、ついに、待ちに待った食事だぁ……!!
震える手を何とか抑えつつ、ゆっくりと丼を持ち上げる。
思わず矯めつ眇めつ見ちゃうよね。おお……とか歓声もあげちゃうよね。
まさか異世界で親子丼に巡り会えるとは……これが運命と言うものかしら……?
……あれこれ考えるのは止め!折角の料理が冷めちゃうし!
逸る気持ちを抑えて、丼を一旦置く。それから、両手を合わせていただきますの挨拶。
隣を見ると獏くんも同じように手を合わせていた。
うんうん、挨拶は大事よね。
二人とも挨拶も終わった所で……いざ実食です!!
お箸と匙が用意されてたので、迷わず匙を取る私。
丼ものはやっぱりササッと掻き込むに限るよね?
まずは卵とじだけ掬って食べてみる。
卵のふんわりとした食感の中に、出汁と醤油と鶏の味が良く合ってる。タマネギみたいのも入っているのか、甘味もある。これだけでもとっても美味しい!
次はお肉だけで食べてみよう……。
上手に下拵えされたお肉は筋や余分な油も取られているのか、臭みもなく、柔らかく煮込まれてとてもジューシーです!
これはイイス……ご飯と合わせたら最高に良いはず!!
ご飯は白米。炊きたてほやほやで、一粒一粒が立ってる。
最後に……合わせて食べてみる。
思わず目を見開いた。こんなに美味しい丼ものは元の世界でも食べた事ないレベルだわ……!
ご飯を掬う手が止まらない!美味しすぎる!!
多分、傍目から見るとかなり豪快にがっついてて、行儀悪く見えると思うんだけど、それが気にならないくらい美味しいんだもの……!
はい……5分も掛からずに完食でございました。
美味しかったぁ……!!
お腹が空きすぎてた事もあったし、期待の和食ってのもあったから自分でも思ったより早く食べてしまったみたい……。
ちなみに獏くんはまだ食べてます。少しずつ味わってるのか、時折食べる手を止めて、ほぅと息をつきながらニコニコしてる。
獏くんも和食好きだったもんね。楽しそうに食べてるなぁ……。
そんな彼を見つつ、手元には空になった丼。底を覗きながらふと思った。
もうちょっと味わって食べれば良かったなぁ……ちょっと後悔。




