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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
43/114

見知らぬ少女にママと呼ばれて、内心傷付いています……。

 何度目か……このオチは……!

 君は事ある毎に自己主張しおって……!

 もうちょっとタイミングを見なさいよ!タイミングを!

 ……なんて、お腹の虫くんに言ってもしょうがないんだけどさ!


 自己嫌悪でがっくりとしていた所を、まあまあ……と獏くんに宥められていた、そんな時だった。

 突如人混みを掻き分けながら駆け寄ってくる影があって、その影は迷う事なく、私の脇腹目がけて飛び付いてきた。

 ゴスっと擬音が付きそうなぐらいの勢いでしたよ?思ったより痛いんですが……!

「ママぁー!!!やっと、やっとみつけた!!」

 痛みに耐えていると、可愛らしい声が響いた。

 ……え!?今何て??

 突然の事で訳が分からず、とりあえず声の主の方へ視線を向けると、そこには私の足にがっしりしがみつくニコニコ笑顔の子供の姿があった。

 年頃は5歳ぐらいだろうか。ボサボサのロングの黒髪に、真ん丸の赤い瞳、少し褐色がかった肌、身体のわりには大きな黒い角が目立っている。ニコニコ笑っているけど、ギザギザの歯がちょっと怖い。あと、刺々しい装飾の黒いワンピースみたいのを着ているんだけど、実はさっきから抱き付かれている所がチクチク刺さってるんだよね……。地味に痛い。

 何と言うか……野性味溢れる雰囲気の女の子だった。

 ……うん。こんな子は私の記憶にはない。断じてない。

 そもそも……子供が産まれるにあたっての……その……行為を生まれてこの方した事がないんですけど……。

 悲しいかな、獏くんからもそう求められた事もないし……。

 ま、まさか!?獏くんの隠し子……??

 そう思ってすかさず彼を見るけど、獏くんは全力で否定している。

「俺はひぃちゃん一筋だから!過去にもそんな事欠片もないから!それに俺は……まだ……その……」

 と、途中で恥ずかしくなったのか顔を覆ってしまった。

 あ……察したわ。これ以上は彼の名誉に関わるから言うまい。


 やっぱり人違いではと、その少女に問いかけるけど、彼女はどうにも聞く耳を持たない。

「ママはママだもん!あたしをおいていくなんてひどいよお!」

 赤色の目がうるうるし始めた。鼻を啜る仕草、口を一文字にして、いかにも不機嫌です、ご不満ですと言わんばかりの表情だ。

 おっと!?これは泣く前兆では!?

 えぇぇぇぇ……いきなり見ず知らずの子にママだなんて言われて……泣きたいのはこっちなんだけどな……。

 これがアラサー女子と言う事か……。

 今にも泣き出しそうな彼女を前に、私は慌てふためくしか出来ない。周りの目も正直辛くなってきた……。

 こ、こんな時はどうしたらいいの!?私、分かんないんだけど!?

「……それくらいにしないか……?度が過ぎるぞ……!」

 急に目の前から少女が消えたと思ったら、獏くんがひょいと首元から彼女をつまみ上げていた。

 ……え?何をしてるの獏くん!?

「……ちょ、ちょっと!はなしてよ!!」

 咄嗟の事で反応が出来なかったようだったけど、すぐに少女は獏くんに吊られたまま、じたばたともがき始めた。

「……まだ小芝居を続けるつもりか?……これ以上、ひぃちゃんを困らせるなら、いくらお前でも容赦しないよ?」

 酷く冷たい声色で、ぼそりと呟く彼。

 おお……獏くんお怒りです。久々に見たわ。

 表情は笑顔なんだけど……目がまっっったく笑ってないの。優しい人ほど怒らせるとめっちゃ怖いの典型だよ……。

 言われてるのは私じゃないけど、隣にいるだけですっと肝が冷えるくらいだもの……怖い怖い……。

 彼の射るような視線に、少女はヒッと小さく悲鳴を上げた。

 てか、彼女に向かってお前って言ってたよね?

 と、言う事は……知り合いって事だよね!?

 そこで、私の中に1つ違和感が芽生えた。

 いや、既視感と言った方がいいかもしれない。

 全く見ず知らずの子と思ったけど、どうも違う気がする事を。

 姿かたちが違うだけで、特徴が似ているものを見たんだ、私。


「……え、まさか……あなた……?」

 疑念が確信に変わって、それを私が口にした直後、また遠くから駆けてくる人影があった。

 あ、あれは……ロゥジさん?

 視線の先には龍騎車で待っているはずの、ロゥジさんが血相を変えて走ってきているのが見えた。

 辿り着いた彼は息も絶え絶えな様子だったけど、獏くんと私を見ると、慌てたように敬礼してみせた。真面目だね……!

「……アリーナ!!お前という奴は……!!」

 少女に向かって、アリーナ、と怒り混じりでそう呼んだのです。

 ビクリと大きく身体を震わせる少女を見て確信したよ……!

 ……私の既視感は間違ってなかったようです。

「うう……ごめんなさい……あるじさま……」

 ロゥジさんの登場に、少女は観念したのか、まだ吊られたままだけど、もがくのを止めて、しゅんと力なく謝っていた。

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