お母さん、って呼んでみたかった……。
その後も和やかに話が進んだ。
聞けば、フェンさんってタイタン族とクロム族のハーフなんだって。身体が大きいのと兎のような耳はタイタン族出身のお母さん譲りなんだとか。
「タイタン国ではね~、ハーフの私はあまりいい風には見られなかったのよ~。苛めまではいかなかったけど~、どこか腫れ物に障るみたいなね~。それで母と一緒に父の故郷のこの国に来たのだけれど~、そうしたら皆仲良くしてくれてね~。その内、ラディ様に気に入られて~、今はこの祭祀の場を守ることになったのよ~」
とても穏やかな口調だけれど、過去の話をする時のフェンさんはどこか寂しそうだった。
「……ヒカゲ様も全く見ず知らずの土地に来て、これから色々と大変な事もあると思うの~。でも、この国はとてもいい国よ~。こんな私が受け入れてもらえたように、きっと貴女も受け入れてくれるわよ~」
私の心の中にある不安を読んだかのように、フェンさんはにっこり笑顔で私にそう話してくれた。
過去の事は本当は話すのも辛いはずなのに、その上私を気遣って励ましてくれるなんて。何て優しい人なんだろう……。
お母さん、がいたらこんな風に声を掛けたりしてくれるんだろうか。あくまで想像でしかないけど。
「フェンさん……ありがとうございます……」
本当はもっとお礼を言いたかったけど、涙が溢れてきてそれ以上話せなかった。最近すぐ泣けてきちゃうんだもの……。
涙を拭ってたら、隣からぐすりと鼻を啜る音が聞こえて、見れば獏くんも泣きそうになってた。何で獏くんまで……!
「ぜ、先生!……お、俺、絶対彼女を幸せにしてみせます!」
涙声で獏くんがそう言うと、
「あらあら~!二人とも泣き虫さんなのね~」
と、フェンさんさんは少し困ったような笑顔を浮かべていた。
私と獏くんが泣き止むまで、彼女はよしよしと私達の頭を撫でてくれました。急に泣き出して迷惑掛けちゃっただろうに、彼女は気にもしないように笑っていた。
まあ、そんなこんなでお別れのお時間が来たみたい。
フェンさんさんのお話にはぐっとくるものがあったけど、それ以外に獏くんの昔話も聞けたりしたし、結構楽しかった時間でした。
「ふふふ~、次会うのは婚姻の儀の時かしら~?楽しみに待ってますわ~!」
別れ際にフェンさんがそう言いながら、手を振って見送ってくれた。彼女の両隣にはお手伝いに来ていた女性達もいて、同じく手を振ってくれてた。
獏くんと一緒に挨拶して、その場を離れた。
お土産にさっきのお菓子も箱でもらっちゃった!後でゆっくり食べよう……!
また会えるのが楽しみだな。今度はもっとちゃんと喋れるといいんだけど……。
「ふう……ひぃちゃんも落ち着いたかな?」
少し歩いた所で獏くんがそう声を掛けてくれた。
とりあえず、うん、と1つ頷く。
まさか、大の大人が二人揃って泣いてしまうとは思わなかったけどね……。獏くんとしても思いがけずだったみたいだけど。
遠い目をしながら、獏くんは話してくれた。
「……以前話したと思うけどさ、俺の母さんは早くに亡くなってしまったから、彼女が代わりに色々と世話してくれたり、気遣ってくれてたんだ。王になった今でも、彼女には頭が上がらないよ」
……そっか。フェンさんは、獏くんにとって第二のお母さんみたいな存在なんだね。ちょっと羨ましいな。
「……俺が助けてもらえたように、きっとひぃちゃんも助けてくれるよ。彼女は信頼できるし、本当に優しい人だからね」
今の言葉で良く分かった。獏くんは心からフェンさんの事信頼してるんだって。
初対面だったけど、私も彼女の事は信じられると思う。
彼女の励ましの言葉はスッと胸に刺さったように今も響いてる。
不安はまだあるけど、前よりもずっと心が軽くなったみたい。何か憑き物が落ちたみたいにすっきりしてる感じ。
「ふふ……元気出たみたいだね?」
笑顔で問いかける彼に、グッとガッツポーズを返してみた。
何故か引かれたんだけど……解せぬ。
……フェンさん、私頑張ってみます!獏くんの立派な妻になれるように頑張ります!
……なんて、内心やる気と気合いに満ちていた私。
一緒にお腹の虫さんも、ぐぅぅぅぅ……ってな具合でお返事してくれましたよ?また……またなのか!このいい雰囲気の時に!
……き、君まで、気合い入れんでもいいんです!!




