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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
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先生って呼ばれるには理由がありました……。

 フェンさんに案内されて着いたのは、先の露店の裏手側にある建物だった。どうやら、祭祀の場の一部を改装して作られているっぽいです。

「さあさ、入って入って~」

 通された先は至って普通のお部屋だった。木製の家具を中心に、どれも綺麗に片付けられた印象。奥には台所だろうか、食器が並んでいるのが見える。

 入ってすぐに驚いたのは部屋の中の家具のサイズがどれも大きい事。彼女のサイズに合わせて作られているんだろうと思うけど、まるで自分が子供になったみたいに視線が低く感じるほどだった。昔読んだ好きだったお話に、自分がどんどん縮んでいって回りが大きく見えるって場面があったけど、それに近いかも。

 好きな所に掛けてね~と軽く言われたものの……椅子とかソファーですら、よじ登らないと座れないぐらい高いんだけど……。

 獏くんに抱っこしてもらって、彼が飛び上がって何とか着席できた。某配管工のおじさんくらい軽快なジャンプでした。

 そんなこんなで隣に獏くんが座り、テーブルを挟んで、向かいにフェンさんといった配置で会話が始まった。

 始めは他愛もない世間話。話から察するに、獏くんとフェンさんはここ数年会えていなかったらしい。私との事や向こうの世界の話も交えながら、お互いに再会を喜んでいるみたいだった。

「……先生、ご報告が遅くなってしまったのと、話が前後してしまいましたが……この度、妃を迎える事になりまして……!」

 私の方をチラチラと見つつ、もじもじとする彼。私を見ても困るんだけど……?何も出ないよ?

「勿論知ってるわよ~!なかなか気合いの入ったご挨拶だったわね~。あんな風に公示を使った王様は過去に見なかったわね~」

 フェンさんもあの公開プロポーズ見てたんだね……恥ずかしい!

 ……おっと、ここで恥ずかしがってる場合じゃないんだった!まずは自己紹介しなきゃでしょ!社会人としては基本だよ!よし!

「あ、あの……私……」

 さっきの気合いはどこへ行ったのか……!いざ話そうとすると、色々考えすぎて上手く喋れないとか……口下手にも程があるよ……。

「……ひぃちゃん!頑張って!」

 隣の獏くんに小声で励まされたよ?私は子供か……!

 その後、しどろもどろになりつつも、名前と挨拶は出来たから良しとして下さい……。


 多少時間が経って、それなりに話も出来るようになってきた。

 寒くない?とか、こちらの生活にも慣れた?とか、ほんの軽い感じで聞いてくれて、特に深く詮索はされないのがありがたい。

 あと、待望のお菓子も頂いてます!美味しいお茶もセットで!!

 さっき案内された時にフェンさんが抱えていた包みがやっぱりそれだったのですよ!

 そのお菓子に決まった名前は特にないみたいだけど、クロム国の祭祀の場に礼拝すればもらえるそうです。参考までに。

 あのね、見た目がどう見ても完璧に何かの消し炭で、正直な所ガッカリ度MAXだったんだけど……。覚悟を決めて思い切って食べてみたら……もう美味しいのなんのって!

 ほっぺがとろけるくらい濃厚な甘さだけど、その中にほんのりと苦味も感じる。それと何か爽やかな柑橘系の香りがフワッと広がる感じ。口当たりもざらついた見た目と反して、滑らかで柔らかくて、口の中ですぅっとなくなっていく不思議なものだし。

 今までこんなの食べた事ないので、例えようがないのです……!

 これは中毒性あるわー。虜もなるよねってレベル。

 見た目は本当に何かの消し炭かってくらい真っ黒焦げの小さな欠片なんだけど……不思議!!

 何が材料なのかなって獏くんに聞いてみたけど、残念ながら教えてくれなかった。

「んー?敢えて言うなら……ジン様の御加護かな?」

 ……だってさ。秘伝ってくらいだから教えてもらえなくて当然か。ちょっと残念だけど……仕方ないね。


「……そう言えば、事情はそれとな~くだけど、ラディ様から聞いてるわよ~。貴方も、貴女も大変だったわね~」

 獏くんと私の顔を交互に見て、彼女は少し眉を下げて心配そうな表情を浮かべた。

 あれ?ラディ様って……お義父さんだよね?お義父さんとも知り合いって事ですかね?

 も、も、もしかして……かなり偉い人なのでは……??

 うっすら気づいてしまった途端に、内心あわあわと緊張し始める私。

 そんな私を他所に、マイペースに話し続けるフェンさん。

「あ!私の事話してなかったわね~?私はフェン・ロウ、クロム国の()()()をやらせてもらってる、ただのおばさんよ~。仲良くしてくれると嬉しいわ~」

 彼女はニコニコと穏やかに笑って、私に向かってすっと片手を差し出した。一瞬、分からなかったけど、握手を求められたと気付いて、恥ずかしながら、おずおず出した私の手を、大きく温かい手がそっと包んでくれた。心に染み入るそのあったかさが私には嬉しかった。お母さん、がいたらこんな感じなのかなとか思ってしまった。

 ……ん?ついほっこりしてしまってたけど、今さらっと重要そうな単語がなかったかな……??

 ……祭祀長って言わなかった?祭祀長とは何ぞや……?

「彼女はね、この国の全ての祭祀の場の統括者で、王家と並ぶ権力を持つロウ家の当主も務めている。魔術の腕も国一番でね、私も幼少時代から師事を受けている人なのさ」

 真面目モードの獏くんが教えてくれた。なるほどー。

「やだわ~バクゥ様ったら~!」

 うふふ~とニコニコ笑いながらも、恥ずかしそうに頬に手を添えて、身をふるふる揺らすフェンさん。

 部屋全体が揺れ始めたので、地震!?と思ったけど、どうも彼女が震源地っぽい。えぇぇぇぇ……。


 ただのおばさんなんて、ご謙遜を……!

 ……色々と規格外なお姉さまだったのです……!

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