異世界交流の第一歩……かな?
はい……私はまだ街に入った所で止まっております。
何故かと言えば、入り口近くですら気になる場所が多すぎて、巡る方針を決めかねていたからで。
獏くんは私の行きたい所でいいよって言ってくれてはいるけど、それだと私ばっかり楽しんでしまいそうで、どうしても申し訳ない気持ちがあるのですよ。
それに、気になったとはいえ、流石に一度に見るのは大変だし、どんな所があるかも分かっていないのが実情だし。
なので、今回は獏くんのおすすめの所から回る事にした。
獏くんに伝えると、任せて!と満面の笑みで頷いていた。
旅行とか行く前にガイドブック見てプランを立てるのも良いけど、やっぱり信頼出来るのは現地の人からの情報だったりするしね。まあ、今回はおまかせコースで行ってみよう!
「そうだね……この街は色々と見所があるんだけど、まずは礼拝に行ってみようか」
礼拝?教会みたいな所に行くって事かな?
「……とりあえずここで立ったままもなんだから、歩きながら説明するよ。でもその前に……」
はぐれちゃうといけないからって、獏くんと手を繋ぎながら進む事になったのです。しかもお互いの指と指を絡める繋ぎ方で。俗に言う恋人繋ぎって言うんだっけ……?あわわわ!!
子供じゃないんだから……って照れ隠し混じりで言ったら、折角だから繋がせてよって押し切られちゃった。
あんまり人前で手を繋ぐ事がなかったので、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で顔を伏せてしまったけどね。へへ。
そんなこんなで歩き出すと、色々な人達の姿を見るのが多くなってきた。
大半はクロム族の人だろう、様々な角を持った黒髪の人が多くて、ビックリするぐらい皆美形揃いですわ。獏くんだけがそうなんじゃなくて、種族として元々ポテンシャル高いって事だね!いいなぁ……。
あ!あそこに見える半魚人みたいのがアルギ族の人?天使みたいな人もいる!フロン族だっけ?ネオン族の人は昆虫と人が合わさった姿なんだね……!凄いなぁ……!
まるでテラリアンの見本市みたい。以前本で読んでたけど、実際見るとこんなに違うんだ……!
失礼とは思いつつ、興味津々であちらこちらを見ていた私。ふと、違和感を感じて立ち止まった。
あれだけ賑やかだった周囲の声が急に静かになっていた。と、同時に色んな方面から視線を感じるようになった。彼らの表情は不安と猜疑が見える。それとひそひそ声があちらこちらから聞こえてきた。
「ねぇ……あれが……?」
「きっと……そうだね……」
「何だぁ……あれがお妃さまか……」
「……あれが人間?初めて見たよ……」
「王様だ……こんな所に来るんだ……」
「一体何しに来たんだ……?」
……鑑みるに、この静まり方は王様である獏くんが来たってだけじゃない。多分、その視線と興味の大半は私に向いているようだ。
観察されているみたいで、とても居心地が悪い。
うう……何だかあんまり歓迎されてないみたい……だね。
確かに私は異邦人だし。珍しいんだろうけど……凄く居づらい。
ぎゅっと胸が締め付けられるような不安を感じた。
「……親愛なる我が臣民達よ!私の話を聞いてもらえるか!」
内心で落ち込んでいた所、隣にいた獏くんが急に大きな声を出して周囲の人々に呼び掛けた。
……もしかして、私が困ってるの分かってて、それで注目を自分に集めようとしてる……?
驚いて横を見れば、それは普段の笑顔の彼じゃなくて、王様としての彼だった。冷静な横顔に思わず息を飲んでしまった。
その瞬間、彼らの視線がぐっと彼に集まり、ひそひそ話も消え、彼らは獏くんの言葉を聞き漏らすまいと言った風でそれぞれに構えている。
周囲の意識が集まりきったのを見計らってか、獏くんは再び口を開いた。
「ふぅ……急な訪問で驚かせてしまったようだね……。勤勉なる君達の手を止めてしまう事になり、誠にすまない……。今日はこのヒカゲ妃と共にゴルディを視察に来たのだ。彼女はまだこの土地に慣れてはいない。君達も初めてみる彼女という人間に興味もあるだろうが、どうかそっと見守ってはくれないだろうか……」
その後も獏くんは諭すように、ゆっくりと周囲の人々に語りかけていった。
話が進む度に、彼らの表情から不安や猜疑の目が消えていき、彼に対する羨望と敬愛を示すものになっていった。最後には拍手喝采が起きて、彼の人気の高さが伺える。
おお……王さまって……獏くんってやっぱり凄いわ……!
獏くんの思いが通じたのか、その後歩いていても好奇の視線とか、ないしょ話をされてる雰囲気とかを感じる事が少なくなった気がする。
全くなくなった訳ではない。けど、さっきまでの息苦しさはなくなった。彼のお陰だわ……本当に助かるなぁ……。
「獏くん……ありがとね」
お礼なのに小声になってしまったけど、しっかり獏くんには伝わったみたいで、
「ふふ……ひぃちゃんの為ならこれくらいして当然だよ!」
と笑顔で返してくれた。良かった。
「ここが連れてきたかった場所、祭祀の場だよ」
入り口から大通りを真っ直ぐ進んだ先に見えてきたもの。
それは教会のような細長く背の高い屋根が特徴の建物だった。
実は……一番始めに見た中央の水晶体の後方にこの建物は控えていたのだけれど、あまりにその手前が綺麗過ぎて目に全く入ってなかったなー。灯台もと暗しだわ……。
獏くんの話では、テラリアン全土に言える事だけど、他国に訪れた際には一度、その国の創造者……加護神ともいうらしいけど、挨拶というか祈りを捧げたり、貢物をする習わしがあるらしい。クロム国で言えば、闇の力を持つジンって神様。獏くんの名前にも入ってるよね。クロム族は彼を祖先とし、厚く信仰していて、季節毎にお祭りなんかもするみたい。大小様々らしいけど、各地方には必ず祀られた場所があるんだって。ちなみに、ここはこの国で一番大きな場所だそうです。
「で、ここで礼拝するんだけど……一つ気を付けて欲しい事があるんだけど……」
獏くんが珍しく難しい顔をしている。
気をつけて欲しい事?何か作法があって守らなきゃいけないとかかなぁ……?
「えっとね、作法もまあそうなんだけど……とりあえず、俺が言う事を覚えておいてくれる?」
……何なのかよく分かっていないけど、若干戸惑いつつもこくりと肯定の頷きを返した。獏くんも私の反応を見て、一つ頷いた。
「……うん、それじゃ伝えるね。祈りの最中にだけど、もし俺じゃない声が話かけてきても答えないでね。絶対に、絶対にね……!」
フラグじゃないからね、だって。
ど、どういう事なの……??




