街デビューです!
車両の外に出ると、ロゥジさんが待っていた。土下座で。
ドラゴンのアリーナも彼の隣で、伏せの体勢で頭を下げている。翼も尻尾もしゅんとしてしまって何だか元気がないようだ。
彼女は間近で見ると本当に大きいんだね……圧巻ですわ。
ここでもか!土下座って異世界でも通じるんだね……。
戸惑う私に、ロゥジさんが頭を下げたまま言った。
「ヒカゲ妃様……この度は私共のせいで……大変!申し訳ございませんでした!!!」
ウルルルゥ……とアリーナも寂しそうな低い唸り声で続いた。
二人共……いや一人と一頭か。ごめんなさいオーラが凄い来る。特にアリーナの方が。体の大きさもあるけど、本気でしょげてるのが伝わってくる。
「……彼女には私が代表して誠心誠意謝罪した。それに指示をしたのは私だ。お前たちに非はない。もう顔を上げなさい……」
獏くんの言葉に、一人と一頭はゆっくりと顔を上げた。
「有り難きお言葉……痛み入ります!」
シンクロするようにロゥジさんとアリーナが頭を再び下げた。
獏くんが締める所はしっかり締めた形でその場は流れた。
「……さて、行こうか!」
龍騎車を残し、私と獏くんはようやく街へと繰り出す事になったのです。
ここまで来るのに長かった……!たった数時間のはずなのに、気分的には数日経ってる気もするもの。
……色々とありすぎたからかな、うん。
ちなみに、ロゥジさん達は帰りも送ってくれるんだって。今度は安全第一!通常の速度でお送りします!だってさ。良かった。
街からちょっと離れた所に着陸したらしく、また二人で歩く事になった。
でも、今度は大丈夫。パンプスと長いスカートにも少し慣れたし、足元はしっかりと石で舗装されていたから、歩くのにはそんなに苦労しなかった。
雑談しながら少し歩くと、石造りの道の先に街らしきものが見えてきた。
街は長く高い壁で囲まれていて、全貌は見えないけれど、正面にある大きなゲートの向こうには、いくつもの明かりが輝いているようだった。
「見えてきたね……あの中にある街が、ゴルディさ」
ゴルディはクロム国で一番発展していて首都にあたる所なんだって。規模も他の街に比べてとても大きく、各国との交易が盛んな場所らしい。様々な種族も移住してきていて、文化交流の場にもなっているんだとか。元の世界でいう東京みたいな所だって。なるほどなー。
「沢山の店や施設もあるから、他国からの観光客も多いんだ。ちなみに美味しい屋台とか店も色々と揃ってるから、ひぃちゃんの好みの所が見つかると思うよ」
なんですと!?それは期待度上がるね!
ワクワクするなぁ……!どんな所なんだろう……!
そわそわしている私を見て、獏くんはクスクス笑っていた。
街の名前が掛かったゲートをくぐると、すぐに賑やかな声と音が聞こえてきて、沢山の色々な人達が行き交っていた。初めて見る種族の人達もあちらこちらに見える。この雑踏具合は確かに東京っぽい!
「わあ……!!!」
そんな光景に少し懐かしさを感じていると、一際目立つものが目に入って、思わず歓声を上げずにはいられなかった。
先程見えた明かりは街の中央に浮かぶ水晶のような物体から発せられた光だった。大きな球形をしたそれには何か液体が満たされているのか、時折揺らぎながらも街全体を明るく照らしている。その下には噴水があって、球体を浮かすように止めどなく吹き上げ続けているようだ。
「ふふ、綺麗だろ?あれは街を照らす光源でもあるし、この街を守る結界の核にもなっているんだよ」
呆然と見惚れていた私にそっと獏くんが教えてくれた。
何処かで見た光だと思っていたら、中に満たされていたのは、ミトラの奈落から汲まれたものが入っているんだって。
各地方の首都に一つずつ同じものがあって、ミトラ神の加護をもたらしてくれる大切なものなんだそうです。祈りを捧げる人もいるって話だから、シンボルとしても重要なんだろうね。
視点を戻すと、石と煉瓦だろうか、頑丈な造りの建物が幾つも軒を列ねていて、生鮮品や衣服、玩具や本、剣や鎧など、様々なお店が開店しているようだ。
「安いよ、安いよ!今日は取れたてのキギーが大特価だ!!」
「どうぞ見ていって!今が旬のココットが入ってますよー!」
「焼きたてのラートいかがですかー!自信作ですよー!」
方々から呼び込みの声が聞こえてくる。まるで市場のような賑わいだ。全く知らない単語ばっかりだけど、何だかワクワクしてくる。
あまり人の多い所は好きじゃないけど、この活気の良さは気持ちがいいね。
おお!とかわあ!とか歓声を上げつつ、キョロキョロと子供のように辺りを見回す私。どこからどう見てもお上りさん丸出しスタイルです。
「さて、何か気になったものはあった?」
獏くんの問いに、今の所全部!と元気よく返事したら、吹き出すように笑われた。そんなに笑わなくても……。




