目覚めたら……そこは?
気絶から目を覚ますと、ベッドの上だった。
どうやら車内にあったのに寝かされてたみたい。
もはや恒例になりつつあるこの流れでございます……。
えっと……私何してたんだっけ?
確かにお出掛けに行こうってなって、おめかしもさせてくれて、獏くんと一緒にドラゴンが牽く龍騎車とかいう乗り物に乗って、お弁当食べたり、絶景を見た所までは覚えてるんだけどな……。
でも、何で気絶したんだっけ……うっ!思い出すと頭が……!
「ひ、緋影さん……?」
声のする方へ顔を向けると、そこには獏くんがいた。
とてつもなく申し訳無さそうな、冷や汗ダラダラの悲痛な表情で、ちょっと離れた先で正座している。こちらの様子を伺っているようだった。
しかし、急に何で名前呼びなの?逆にむず痒いんだけど……。
「そ、その、気分はど、どうでしょうか……?」
ちょっと頭が痛いだけで他は何ともないって伝えるけど、獏くんの表情は代わりなかった。
んー?何だか様子がおかしいよね?まるで何かやらかした後みたいな……。
そこで、はたと思い出す事があった。
獏くんが何か大事をやらかして謝りたい時に、普段はあだ名呼びなのが、名前呼びで敬語チックになる事を……!
そして、ついでに思い出してしまった気絶の訳を……!
「……獏くん」
「は、はい!」
私の呼び掛けに声が裏返ってるねー。確定だねー。
「私に何か言う事があったりしないかなー?」
「そ、それは……!」
私は獏くんと目を合わせようとするけど、彼の目が泳ぐ泳ぐ。
何も言わずじと目で見つめていると、彼が折れて、全力で土下座の体勢を取って、ごめんなさい!の一言。
「折角、ひぃちゃんの初龍騎車の搭乗だったから、ちょっとしたサプライズをと思って、ロゥジとアリーナに頼んでおいたんだけど……思ったより張り切っちゃったみたいで……」
通常あんなスピードで降下する事はないんだって。あれは完璧にアドリブが入っていたって事だね。忖度とも言うのかな。
「ほら、ひぃちゃん絶叫系マシン好きだったから、喜んでくれるかと思ったんだけど……違ったみたい……ですね……」
本当に申し訳ない!とまた深々と頭を床へ下げる獏くん。
うん。獏くんが言う通りで、アトラクションとして好きな部類に入るけど、あれは絶叫系ってレベルじゃないよ?下手すれば絶命系だったよ??身の危険をありありと感じてたよ?
はあ……何と言うか……色々と規格外な人だよね……。
ベッドから抜けて、獏くんの側へ。獏くんはまだ頭を下げたままだった。
「もう……顔を上げてよ、獏くん」
「でも……ひぃちゃん怒ってるだろ……?がっかりもさせちゃったしさ……」
……もう怒りとか通り越してこっちは呆れてるの!
とりあえず、下がったままの彼の頭をよしよししてあげた。
「……もう怒ったりはしてないよ、驚いてるだけ。私の事思って頼んでくれたんでしょ?だったらもういいよ。許す!」
私の言葉に、がばりと顔を上げた獏くん。その目は潤んでるし、鼻は赤くなってるし、唇なんてわなわな震えてるし。
「ひぃちゃん……何て心の広い……!やっぱりひぃちゃんは俺の最愛だよ……!!」
いつものように抱き付こうとした獏くんを掌で制止した。待て!ってな具合で。犬か。
「えぇ?そんなぁ……」
お預けをくらった彼が悲壮な表情を浮かべている。
こらこら、大の男がそんなに情けない声を出さないの!
待ての姿勢のままで私は言った。
「ただし……条件付きで許してあげます」
いつも色々としてもらってる側だし、過去の狼藉がある身としては、言っちゃいけないとは思うけど、今回ぐらいはいいよね?
「じょ、条件付きって……?」
そこで獏くんは驚いた顔でごくりと息を飲み込む。
そして真剣な眼差しが私に。そんなにまじまじと見られると、恥ずかしいんだけど……!
と、言うか、その許す条件を考えてなかった!何か勢いで言っちゃった!
待って!えっと……どうしよう!?内心で焦る私。
ちょっとの間、考えて考え抜いた結果、口から出たのは……。
「……お、美味しいもの……沢山くれたら……で、いいよ」
はい、考え抜いた条件がこれです。笑わないで!
安直というか、鉄板というか、安牌というか……情けない。
とてもアラサーの考えとは思えないよね。でも他に思い付かなかったのよ……!
「勿論だよ!ひぃちゃんの望みなら幾らでも!!」
さっきまでの表情をがらりと変えて、満面の笑みで元気よく答える彼。すっきり憑き物が落ちたような爽やかさもプラスです。
そして抱き付かれた。ちょ、まだ待てしてますけど!
まあ、今回はいいや。少しは反省してるみたいだし。
但し……次はないからね?ないよ?




